迷子の僕の異世界生活

クローナ

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王都で就活?

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最近俺が学習したのは「泣くのは体力がいるかも知れない」という事である。

気がついたら朝でした。

しかも手には昨日クラウスが羽織ってたシャツの抜け殻を握り込んでいるという事は俺はクラウスに抱っこされたまま寝落ちして更にしがみついてたって事?

「起きたか?トウヤ」

起き抜けから状況整理に唸ってた俺にシャツの持ち主から声がかかる。

「おはようございます、クラウスさん」

起き上がり挨拶をしたけれど返事がない。その代わり突然こめかみにキスをしてきた。

なにこれ?

「クラウスさん?」

今度はおでこに。

「あのっ、僕泣いてませんよ?」

次は目元に不機嫌な顔で。
わけが分からず距離を取ると詰められて今度は頬に顔が近づくからたまらず両手で顔をガードして抗議する。

「なんでこんな事するんだクラウスのばか!」

俺は恥ずかしくて仕方ないのにクラウスはいたずらっぽく笑っている。

「おはようトウヤ。『クラウスさん』呼びで堅苦しい喋り方したらまたするからな。寝癖すごいぞ、朝飯行く前にシャワー浴びてこい。」

「……はい。」

頭に手をやるとあちこち髪が跳ねてるのがわかった。素直に浴室に入ったけれど心臓がさっきから大騒ぎだ。

何あれ!なんでそんなことで『ちゅう』できちゃうわけ?あんな事されたらドキドキしちゃうじゃんか!俺はキスだってついこの間初めてしたばっかりなのに。……いや、違う、あれは相手はクラウスだし男だからノーカンだノーカン俺は女の子が好き…………?あれ?そういえば恋愛ってしてこなかったから俺どっちなんだ?……じゃなくて!そうじゃなくて簡単にちゅうしてくるクラウスが悪いんだ。あんなきれいな顔が傍にあったらだれだってドキドキするし!

「……俺はジェリーじゃないんだから簡単にちゅうしないでよ。」

寝癖よりもクラウスのせいで顔の火照りが収まらなくてシャワーを終えるのに時間がかかった。


クラウスに髪を乾かしてもらって朝ご飯を食べに行く前に宿泊を一晩伸ばして、ついでに『ランドリーサービス』を頼んだ。『とまりぎ』にはなかったのでクラウスは洗濯どうしてたんだろう?
宿の外に出ればさすが都会!お店も屋台もありすぎるほどあった。
そのせいでいわゆる素泊りの宿屋が多いらしい。今泊まってる宿もそうだ。

朝ご飯はちゃんと1人分を1人で食べて手早く済ませた。ゆっくり寝かせてくれたけど今日のクラウスは忙しい。服装も昨日までの冒険者じゃなくて、ハイネックのインナーにジャケットとパンツを合わせてその上革靴で冒険者の時も格好いいけどキラキラ2割増で眩しくて隣にいるのがいたたまれない。

「じゃあ気をつけて。約束した所以外行くなよ?」

「うん、クラウスも気をつけてね、行ってらっしゃい。」

慣れてきたタメ口で小さく手を振り見送った。



散策のスタートは宿の前からにした。
まずは地図を見ないで昨日のギルドに行って、門まで戻って、そこから教会へ行って、更に孤児院まで行って帰ってくる。

今朝クラウスは地図に印をつけて俺の行動範囲を制限した。それから『何か書いてあるカード』と手首にはきれいな白い半透明の石のブレスレットがつけられた。

カードはどうしても困った時は近くにいる騎士団に見せるもの。ブレスレットは俺自身が危険だと思った時に引き千切るようにって渡された。過保護が過ぎやしませんか?挙げ句にマントまで被されそうになったので丁寧にお断りした。

さあ、王都での初めての散策。昨日歩いた時間と地図の尺度を考えると王都はかなり広い。目移りする物も多いだろうから夕方迄に宿に戻れたらいいなぁなんて思いながらもまだ宿が見える位置で花壇の植え込みの所に腰掛けている。

ゆっくり起きたとはいえまだまだ朝のうちだ。ほとんどの時間を『とまりぎ』の中で過ごした俺には朝の人の行き交う多さにクラウスのような先導がなければ踏み潰されそうで少し歩いた所で良い香りのした屋台で立ち止まり飲み物を買うことにした。
クリームたっぷりのココアラテ。ちょっと高かったんだけど甘いに匂いに負けました。だけど香りの割にはビターでクリームも丁度良い甘さですごく好きな味だ。ギルドからもらったお金もあるし移動にかかったお金払っても多分大丈夫……だよね。

それにしても本当にみんな背が高い。この時間は仕事に向かう大人が多いみたいでお爺ちゃんくらいの人でも俺より大きそうだ。そういえばマートに『細い』って言われたっけ。それは認める。俺は向こうでも細い方だった。でも身長は低くなかったんだけどなぁ。

大人の中にチラホラ子供が混ざりだす。同じ制服を着ているから学校に行くのかな。ビートと同じくらいの制服の子供達だ。そういえば同じ制服を着た大きい人もいる。……あれが学校の制服なら間違いなく年下だな。

アレクも制服着てたら年下に見えるかな?ビートはきっとよく似合って格好いい。2人の制服姿を想像して楽しんでるとココアラテの屋台のお姉さんが近付いてきた。
ここで飲んでちゃ駄目だったのかな?慌てて口に付いたクリームを拭いて花壇から降りる。

「や、待って待って、もう飲み終わっちゃった?」

離れようとしたら俺の前に文字通り立ちはだかられちゃった。ホントヘコむ。

「まだですけどここで飲んでたら駄目でしたか?」

「いやいや逆!まだならほら、座って?珍しく売上が良いと思ったらさっきの客が君を指差して『同じ物がいい』って言ってさ。いや~ありがとう!これ、あげるからなるべくゆっくり飲んでてね、じゃ!」

そう言って俺がぽかんとしてるうちに小さなカップを押し付けて屋台に戻って行っちゃった。
中にはベビーカステラがいっぱいに入ってた。確かに飲んでる人を見たら飲みたくなるもんだよね。知らないうちに販促してたみたいなので遠慮なくいただきます。

せっかくなのでまた花壇に座り直して1つ口に放りこむ。

「うま」

程よい甘さのシロップに漬けられていてしっとりして美味しい。ビターなココアラテともよく合う。お姉さんが『ゆっくり飲んで』と言ったので安心してゆっくり飲んで人を眺めていた。

制服の学生たちの向かう先を眺めていたら2人一組で歩く赤い服の騎士の人がいた。黒も格好良かったけど赤はきらびやかで素敵だ。
そのうちあの制服を着たクラウスに会える事もあるのかな?

想像しただけでかっこよすぎてドキドキしちゃった俺は妄想をかき消して散策を始めるためにもう一度屋台のお姉さんの所に戻った。今日のお弁当の代わりにカステラが欲しくなったから。

「いや~コレまでよく売れちゃったよ。ありがとうね。」

そう言っていっぱいおまけしてくれたカステラをかばんに入れて歩く人が半分ぐらいに減った道をまずはギルド目指して歩き始めた。

昨日クラウスに引っ張られあちこち見ながら歩いたから、おかげさまで見覚えがある。朝早いから開いてないところも多いけど、とにかく店構えが『高そう』な所が俺の目印だ。人の流れも手伝ってギルドまでは迷わず着いた。

朝は人の出入りが頻繁なせいか大きな扉が開け放たれていて冒険者の格好をした人が大勢出入りしていた。
ギルドもマントを深く被ってばかりだったから女の人はソフィアみたいに受付にしかいないのかと思っていたけど冒険者の格好をした女の人が割といて新鮮だった。
王都だからかな?ソフィアもあんな風に?
……かっこいい。

しばらく眺めてから次の目的地の城門へ向かった。

ギルドから城門へ向かう時に大通りへ出るんだけどその大通りに馬車が沢山あって門の方まで続いてるから王都から出る為に並んでるみたいだ。  
近寄れそうもなかったので城門へ行くのはやめにして真反対の教会に進行方向を変えた。

教会を挟み真正面に王城が見える紛れもない王都のメインストリートだ。他の通りとは違う真っ白な石畳が歪むことなく美しく並べられ続いている。
教会が中央にあるのは国の信仰の深さの現れなのか、もしくは日本みたいにただの象徴なのか、異世界のテンプレイベントを何一つこなしてない俺には判断がつかない。
初めて歩くその道を人にぶつからない様に歩きながら白い塔を目指し歩いた。


…………あれ?見えてるのに全然着かない。見えてるから近いと勝手に思ってたけど実は結構遠い?

人の邪魔にならないのを確認してかばんから地図を出してみた。

「ここが教会で~ここが城門で~ここが宿屋。……あ、遠いや。」

まだ半分ぐらいしか歩いてなかった。王都の広さなめてました。
城門前から続いていた高級店が教会を引き立てるかのように近づくにつれてなりを潜め出すと教会前の大広場に着いた。真ん中に大きな塔を構える教会の広場はイベント会場みたいにとても広くて散歩しているような人や芝生で遊ぶ子供も何人かいた。

歩き慣れない石畳に足の裏が痛んで沢山あるベンチの1つに腰を下ろす。
クラウスが持たせてくれたお水を飲んで一息つくと、靴を片方脱いで靴下も脱いで痛む足の裏を確認してみた。じんわりと痛むがマメや靴ずれは出来ていなかった。
しばらくマッサージしてると痛みが和らいだので足を変えて反対側もマッサージする。

楽になったので靴を履き直そうとしたら見下ろした靴に俺のベンチの下から小さな手が伸びている。

ん?

なんだろうと思って座ってる下を覗くと小さな男の子と目が合って、その子がにっと歯を見せて笑ったと思ったら俺の靴を片方掴んで走って逃げた。

「え、…………?」

「ええ~~~~~~~~!?」








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