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王都で就活?
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しおりを挟む王都の宿はテトリより狭かった。都会仕様かな?ベッドがでかいから間の通路が狭くて腰掛けスタイルだとクラウスの長い足がぶつかります。俺は当たんないけどね。なのでシャワーを浴びた後に片方のベッドに上がってお勉強中です。あ、嫌味な筋肉はちゃんとシャツで隠れてますよ。
「低いのから順に銅貨、白銅貨、銀貨、金貨。あとこの上に白銀貨、大金貨があるけれどそれは価値が大きすぎて普段は使わないしまあ見ることもないな。屋台だと銀貨も嫌がられるな。」
並べた硬貨を指差しながら丁寧な解説をしてくれる。
「銅貨10枚で白銅貨1枚ですよね。そこからは?」
「白銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚だ。で金貨10枚で白銀貨1枚、白銀貨10枚で大金貨1まいだ。」
え?じゃあ大金貨は1枚で一千万円?一枚落としたら一千万!?そりゃあ普段使わないわ。金貨だって1枚で10万でしょ?怖くで持ち歩けません。
「じゃあ金貨3枚って白銅貨300枚ですか?すご……ギルドからそんなにもらって良かったんでしょうか。」
「いいからくれたんだろ、気にするな。じゃあ次は……」
クラウスは硬貨をしまい今度は王都の地図を出してくれる。
「ここが城門、ここが教会、ここが王城。ギルドがここで今いる宿屋がここ。ここが孤児院だな。」
教会を中心に東西に大きな通りがあり、王都全体が美しく整理されていた。
「クラウスさんの住む騎士団の宿舎はどこですか?」
「ここだな。」
長い指が地図の上を滑る。
指をさした所は教会や孤児院の裏手辺りだ。意外と近いのかな?
「僕が孤児院で働けたら時々偶然会えたりします?」
「そうだな、順番に街の警備に回るから俺が無事復帰できたらそこの担当にしてもらうかな。そうしたら3日に1度は会える。」
「そんな融通がきくんですか?」
「……多分無理だな。」
なんだ、冗談か。ちょっと嬉しかったのに……
「3日に一度の交代なんですか。」
「今日は黒い制服の騎士があちこちにいたろ?明日は赤色で明後日は青色だ。」
「へえ~クラウスさんは?」
「前と同じなら赤だな。」
想像するだけで嫌味なくらいかっこよさそうだ。今だって金の髪を耳に掛けるのですら格好いい
「明日はどこを見て歩くんだ?」
「孤児院の場所とその周りは歩きたいです。後は寝る時に着られる物を探したいくらい?知ってる所ありませんか?マデリンで行ったくらいのお値段の所が良いんですけど……」
だって今日もクラウスが「またそれ着てんのかよ」って顔するんだもん。お金も増えたし値段を見てからギルドに行こう。必要以上のお金お持つのは落としたリスクが高すぎる。
でもクラウスが良い顔をしていない。
「ここはマデリンに比べると物価が高いし中心街は高級店が多いから同じ値段ぐらいとなると町外れで治安があんまり良くないんだ。」
「騎士団の人が警備してるのに?」
「王都は広いしあんまり端まで目を効かせたら住みづらい人間も出てくるからな。」
「……じゃあクラウスさんが連れてってくれるまではこれ着るしかないですね。」
働くまでに行けなかったら下はズボンを履こう。
「教会が街の中心だから孤児院へ行くにもここから一旦教会に向かうといい。あと明日万が一迷子になったらやっぱり教会だな、街のどこからでも見えるから必ず辿り着く。」
「わかりました。暗くなる前には宿に戻ります。大通りの散策しかしません。迷子になったら教会で待ちます。」
「……ギルドはまだ1人で入るなよ。」
「……はい。」
なんだかお使いに行く子供が言い聞かせられてるみたいだ。でもいろいろあったので素直に頷いた。
今はそれぞれのベッドでクラウスはヘッドボードにもたれてまた手紙を書いていた。
俺もまだ眠る気にはならないので掛布の上に腹ばいに寝転んで王都の地図を見ている。
「そういえばこの前『一番上のお兄さん』と言ってましたけど何人兄弟なんですか?」
明日散策をする範囲は狭いので地図に飽きた俺はクラウスの個人情報を聞いてみた。
「3人だ。もう1人兄がいる。」
「え、じゃあクラウスさん末っ子ですか。」
「なんだ駄目なのか?」
「面倒見が良いからてっきりお兄ちゃんなんだと思ってました。」
なんだか意外だ。
「まあだから3年も我儘を許してもらえたんだけどな。」
「そういえばなんで冒険者になったのか聞いてもいいですか?」
クラウスは少し考えてる感じだったけど書きかけの手紙をしまってこちらを見る。
「そうだな、孤児院に関係ある話だからトウヤも知っておくと良いかも知れないな。少し長い話になるけど聞くか?」
そう言われて寝そべっていた身体を起こした。
「聞かせてもらえるなら。」
「じゃあ途中で眠るといけないからちゃんと掛布に入ってからな。」
どうやら寝物語を聞かせてくれるみたいだ。
「そんなに長いんですか?僕今日は馬車で起きてたから起きてられないかもしれません。」
「眠くなったら寝たらいい。子供の絵本にもなっている100年前の昔話だからな。」
地図をたたんで横になったらわざわざクラウスがシーツをかけてくれて、自分は俺の方を向いて膝が当たらないように深く腰掛けた。
「うんと昔この国は今の半分の大きさもなかったんだ。」
100年前、このフランディール王国の周りには小国が沢山あってその中の1つガーデニア王国は1年中春の花が咲き乱れる幸せの国と呼ばれていたんだ。
その国にフランディール王妃の妹姫が嫁いでガーデニア王と仲睦まじく暮らしていた。
その頃は今のように迷宮の管理なんてされてなくて時々魔獣が溢れては街がまるごと飲み込まれたりしていたんだけどガーデニアの迷宮は魔獣があふれることもなく人々は幸せに暮らしていて、それを妬ましく思う国があったんだ。
何年も掛けて国の中枢に間者を入り込ませ王国に皇子が産まれ国中が祝い事に興じる最中、国の四方から操られた魔獣が侵入して一日にしてガーデニアは失われてしまった。
フランディール国王が敵を魔獣ごと討伐し救助に向かった頃には固く抱き合って息絶えた王と王妃の亡骸がみつかった。だけど、どれだけ探しても産まれたばかりの皇子の姿はなかった。唯一の手がかりは小さな衣装ケースに押し込まれ虫の息だった小さなメイドが幼い皇子を守るために王が転移魔法を使ったと最後に言った言葉だけだったんだ。
フランディールの魔法使い達が皇子を見つける為に魔力の痕跡を探したけれど魔獣に踏み荒らされたその場所からガーデニア王の魔力を追うことが出来なかった。
妹姫の忘れ形見が必ず生きていると信じた王妃の願いを聞き入れ、フランディールの王は兵を率いて周辺国を渡り歩き転移されてきた幼子がいないか探しながら魔獣を駆逐し、ガーデニアの王城で偶然手に入れた迷宮の法則を更に研究し管理する事に成功して5年後、その恩恵を受けたすべての小国が傘下に入って今のフランディール王国になったんだ。
だけど結局皇子は見つからなかった。
そもそも産まれたばかりで他国へのお披露目もまだだったから髪の色も瞳の色もわからないのだから仕方のない事だった。
それならばと王妃が作ったのが今の孤児院の始まりだ。皇子の代わりに、もしかしたらその中にいるかも知れないと親を失った子供達を集め育てる場所を作ったんだ。
だから今でも国内の孤児は王都に集められ7歳までは孤児院で、そこから先は学校に行き成人まで寮で暮らし巣立っていく。失われた皇子の代わりに。
その孤児院を俺のお祖母様が支援しているんだが3年前に俺に言ったんだ。『心残り』だと。
お祖母様は若い頃、王妃様が亡くなる前に聞いたそうだ。
『『必ずどこかで幸せに暮らしているはずだ、ガーデニアの王と王妃ならば必ず皇子を守ったはずだ。だから皇子本人は見つからずとも平和になった今なら命をつないだ子供や孫が必ずいるはずだからいつかどれだけ愛されていたのかを伝えてあげたい。それが妹姫にしてあげられる唯一だ』その願いごと孤児院を託されたのにもう少しで100年が過ぎてしまう。これでは王妃様に顔向けができない。』
そう話すお祖母様があまりにも悲しそうだったので父を説得して皇子の血縁者探しを始めたんだ。それで見つからなかったとしても身内の俺が探すことでお祖母様が託された王妃様の憂いを取り除くことが出来るんじゃないかと思って。
だけどこの3年依頼を引き受けながらあちこち話を聞いて歩いたけどみなしごで育った人の身内だと言う人にはついぞ出逢えなかったよ。何処に行っても孤児はみんな王都へ向かったと聞くばかりで。でもそれならきっと今まで国が育てた孤児の中に居たかも知れない。
「そう墓前に報告していただこうとお祖母様に話そうと思う。」
クラウスの長い昔話がようやく終わった。
「…………トウヤ。シーツに全部潜ってしまったら息が苦しいだろう。」
そう言うとクラウスは俺がせっかくこっそり頭の上まで被ったシーツを外してしまった。
「俺の話はこれで終わりだ。それで次はトウヤが泣いている理由を教えて欲しい。」
シーツの盾を失った俺は誤魔化しようがないくらい涙がとまらない情けない顔をクラウスに見られてしまった。
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