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王都で就活?
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しおりを挟む旅立ちの朝もこの町はとても晴れていた。
早く眠ったせいで早く起きてしまい。2日分の着替えくらいしか入ってないカバンの中身と自分が着ている服がおかしくないかをすでに3度も確認していた。
今日の服装は少しゆったり目のベージュのチノパンにスタンドカラーのシャツ、その上にジレと薄手のフードの付いた上着を羽織った。
服を買いに行った時にお店のお姉さんとビートが選んでくれたものだ。馬車での移動にも普段着るのにもいいらしい。
持ってるお金で5日分くらいの服を手に入れた。
移動に必要ないものはクラウスがあの魔法のかばんに入れてくれたので随分身軽で行ける。ソフィアにもらった服は脱いだ後ずっとクラウスのかばんに入っていたりする。
「準備できたか?」
ノックされドアの向こうからクラウスの声が聞こえた。
「はい、今出ます。」
そう応えてからこの世界に迷い込んだ日から11日間寝起きした部屋を見渡した。
すでにシーツをはがし掃除もすませてある。
「お世話になりました。」
誰にともなく頭を下げた。
荷物を持って部屋を出るとクラウスが前に見た黒のロングコートに身を包みすらりと立っていて格好良かった。
「おはようございます。」
挨拶をすると「意外と寝れなかったりしなかったんだな。」とスルリと目元を撫でられた。
寝る子は育つんだからな!俺が眠れなかったのは1回だけなんだから!
最後の夜にぐっすり寝て子供っぽいと思われた気がして勝手に拗ねてむくれながら部屋の扉を閉めた。
閉めた扉を見た時思い出しておでこの位置にあるプレートを見た。すっかり忘れていた。確か俺の部屋は『カエデ』だ。
そのままクラウスの部屋の前まで行き同じ様にプレートを見た。
「これ『さくら』……なんですよね。」
「そうだ。教えるか?」
「そうですね、必要になったらお願いします。今は使う名前を覚えなくちゃ。」
いらないものは後回しでいい。自分の名前が覚えれたらビートへの手紙をかけるように頑張ろう。
下に降りるとマートとビートが「おはよう」と言ってくれた。
今朝は俺はお客さん側だ。テーブル席に1つ席が作ってあっていつもはいないビートが席に案内して料理を運んで果実水もサーブしてくれた。
クラウスはいつものカウンターだった。
朝食は食べるのにさほど時間はかからない。食べ終われば『とまりぎ』を出る。
「ごちそうさまでした。すごくおいしかったです。」
俺が食べ終わるのを合図にビートがジェリーとへレナを呼んできてくれて、店の前で見送りしてくれる。
「マートさんお世話になりました。僕を置いてくれてありがとうございました。」
「ヘレナさんもありがとうございました。元気な赤ちゃん産んでくださいね。」
「ジェリーもありがとう。リボン使ってね。」
プレゼントを渡しながらさよならをする。
「ビート。何度言っても足りないけど本当にありがとう。ハンカチ使ってね、女の子の涙は袖で拭っちゃダメだからね。」
両手をぎゅうっと握ったら。ビートは笑いながら「今使うか?」と聞いていた。
「大丈夫、まだ泣いてないもん。」
笑ってさよならを言いたいんだ。
クラウスも俺に続く。
「じゃあまたいつか。」
「ああ、またな。」
マートと短い挨拶を交わしてそれを最後にビートと手を離した。
「お世話になりました。」
最後にもう1度深々と頭を下げて『とまりぎ』に背を向けた。
馬車乗り場までは俺の足で20分程歩くらしい。初めての馬車に俺はもうウキウキさ。
なんて事はなく。『とまりぎ』が見えなくなった辺りから前が見えなくなっていて俺はクラウスの服に摑まりながら歩いていた。
「……クラウスさん。」
「なんだよ。」
「マント貸してください。」
「ばーか、そんな事に使うもんじゃねえよ。」
「だって……別れがこんな哀しいって知らなかったし……。」
学校では施設の子と言われ別れが辛い程の親しい友人もいなかった。
18年過ごしたその養護施設を出る時も最悪の気分だった。だから……
「だったら我慢せずに泣いとけ。後で慰めてやるから」
俺が泣いてるのにクラウスの声は楽しそうだ。
「ゔぅぅぅ」
涙は勝手に出てくるし、口も勝手にへの字になって変なうめき声まで出てくる。
クラウスが俺の頭の上に置いたタオルで拭いてたら馬車乗り場につく頃ようやく泣き止んだ。
俺達の乗る馬車は4人掛けの席が向かい合った8人乗りで二頭の馬が引いて、途中馬の休憩を挟んで日暮れ前に隣町に着く。そんな間隔で町が配置してあって、王都には町を2つ経由すれば着くとクラウスが教えてくれた。
俺は壁とクラウスに挟まれる形で座った。
他には老夫婦が一組だけだった。
ガタンと振動が来て馬車が走り出す。
馬車なんて初めて乗ったけど乗り心地は悪くない。道が整備されてるからだろうか。
それに速度も歩くよりちょっと早いくらいで、馬にしたらトコトコ歩く感じだった。
……暇かもしれない。クラウスと話すこともないしなぁ。
隣のクラウスを見ると目をつむっていた。そうだよね。俺もバスとか電車だったら取り敢えず寝る。
見える景色も草原と青空しかなかったのであっという間に飽きてしまって仕方なく俺も目をつむった。
頬をペチペチされて目を開けると馬車が止まっていてクラウスに続いて外にでれば、大きな泉があって二頭の馬が木桶に汲んだ水を飲んでいた。
「休憩だ。昼飯食べれるか?」
「もうそんな時間ですか?」
「ああ、ちょうど半分来たぞ。」
驚いた、俺そんなに寝てたのか。お腹をさすって空き具合を確かめる。
「半分くらいなら食べれそうです」
定番の休憩ポイントなのかベンチもいくつか置いてあって、マデリンから一緒に来た老夫婦は既にお昼を食べ始めてた。
俺とクラウスが空いてるベンチに座るとクラウスがかばんからお昼の入った紙袋を出してくれた。
「そういえば僕こういう準備何も考えていませんでした。」
「気にするな。俺は慣れてるからな。」
そう言って袋からサンドイッチを手渡してくれる。
「あ、これってマートさんの?」
「ああ、今朝持たせてくれたよ。中身はトウヤの好きそうなものばっかりだって言ってたな。あ、待て、今泣くと半分も食べれなくなるぞ。」
そう言われて潤みだした涙を頑張ってひっこめた。
「全部食べます!」
でも結局やっぱり半分とちょっとしか食べれなくて残りはクラウスの胃に収まった。
再び馬車が動き出し、あんまり寝てちゃ夜眠れなくなるかもしれないと外の景色を見ていたけど結局飽きて気付いた時には隣町が見え始めた頃だった。
「マデリンより大きいんですね。」
低いけれど石の外壁でぐるりと囲まれていて出入りには門をくぐる必要があった。
門の手前で降りて町に入るのに身分証の提示をするみたいだ。
老夫婦は紙の身分証を見せていたけど俺はクラウスに見習ってギルドタグを見せて通った。
すると門の管理人のような人が話しかけてきた。
「クラウスさんですね。この町に立ち寄ったらギルドに顔を出すようにと通達が来ていますのでお願いします。」
「この町にもギルドがあるんですか?」
ようやく話す事があったので聞いてみた。
「ギルドはどの町にもあるぞ。特にこの町にはマデリンともう一つ向こうの町を治めている領主がいるからな。町も大きいし出入りも少し堅苦しい。まあ王都よりは楽に入れるけどな。」
「領主…様?いるとこなんですね」
あいつが俺を脅した時に知り合いだと言ってた人かな。
宿で一人部屋を二部屋頼んでからギルドにむかった。てっきり同じ部屋かと思ってたけど『とまりぎ』でも一人部屋だったしクラウスは一人がいいのかも知れない。
そのクラウスはカウンターでお金を払った後その場で宿に俺を残すか連れてくか散々迷って、俺が「せっかく初めてきたから町の様子を見たい」と行ったらマントを出して被せてくれた。
「俺がいいと言うまで脱ぐなよ。」
と念押しされてギルドの扉を開けた。
中に入ると人のざわめく声が耳に入る。
作りは同じなんだけど全体的に大きく広く出来ていて、夕方だけあって仕事を終えた冒険者も沢山いた。
クラウスが俺の肩を抱くようにしてカウンターまで一緒に歩く。そうしないと気づかないでぶつかられてしまうからだ。
「クラウスだ。門の所でギルドに来るよう言われたんだが……。」
タグを見せながらカウンターの人に尋ねるとギルドの制服を着たメガネを掛けた茶髪のおかっぱ頭のお姉さんが高めの声で対応してくれた。
「あ、クラウス様ですね~タグの提示ありがとうございま~す。奥の部屋へご案内しますね~こちらどうぞ~」
「奥ってなんだ、誰がいる?」
クラウスが機嫌悪そうに聞き返すと
「ここではちょっと~さあ中にお入りくださいね~」
なんだか有無を言わさない感じだ。
「……連れがいる。一緒じゃないと無理だ。」
「じゃあちょっと確認してきますね~」
しばらくしてお姉さんが戻ってきて、相手の了承が取れたと奥の部屋へ案内された。
通された部屋は凄く豪華な応接室って感じの部屋でクラウスに続いて中に入るとギルドの制服を着た赤錆色の髪をして無精髭の伸びだ50才くらい?の厳ついおじさんとキラキラした服を着て長い銀髪を首の後ろで品良く結び若草色の瞳をしたかっこいい男の人がいた。
「やあクラウス。3日、いや4日ぶりかな?」
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