迷子の僕の異世界生活

クローナ

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迷子になりました

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「こんな顔で良かったらいくらでもどうぞ」

俺はミノムシのままでベッドに座りなおすとシーツの中から顔を出してみた。
だけどせっかく顔を見せたのにクラウスはつらそうな顔のままだ。

「……触ってもいいか?」

ソフィアに抱きつかれてびっくりしたのはあれが起きてすぐだったからだと思う。その後背中を擦ってくれたのは嫌じゃなかった。

俺が頷くとクラウスの手がゆっくり伸びてきて、手の甲で俺の左側の頬をそっと撫でた。目を閉じて受け入れると今度は掌で。

「恐くないか」

「……大丈夫です。」

クラウスの大きな手は温かくて気持ちが良かった。親指で俺の目の下あたりを2度3度撫でると手を離し大きく溜息をついた。

「クラウスさんも僕を助けにきてくれたんですよね。ご迷惑おかけしてすみませんでした。おかげで無事でした。」

ねって笑ってみせた。

「お前はこんな時でも笑うんだな。」

そう言ってまたつらそうな顔になった。

「ん~でもこの前も言いましたけど僕は女の子でもないから裸見られたって平気だし眠ってるうちにされたことは覚えてないしいろいろされる前に助けて貰えたみたいだし」

「だからなんでそれが無理やり笑う理由になるんだって聞いてるんだ」

「無理やりって……そう見えますか。しょうがないですよ。この年になるまでそうやってきたんだから。泣いたって意味ないし。」

得意のいい子ちゃんスマイルできてるはずなんだけどなおかしいな。

「だからなんで」

なぜかしつこいクラウスの態度にどうして俺は顔が見たいと思ったのかわからなくなった。面倒くさい。ひとりになりたい。

「あ~もう!言いたくないけど僕捨て子なんです。親も兄弟もいないし、だからってその立場に甘える事も許されないできたんです。だからつらい事や泣きたい事があったとしても独りで泣くより我慢したほうがマシなんです。この前はクラウスさんの前で泣いちゃいましたけど大体あれはびっくりしたからだし、あんな風に泣いたのも10年ぶりぐらいで自分でも驚いたぐらいなんです。」

こう言うのは言いたくなかった。結局自分の生い立ちをひがんでるみたいだし同情を買うためにひけらしてるみたいだ。そう周りから散々言われてきた。いろいろ上手くいかない時も進路に悩んだ時も。相談すれば答えはいつも同じだ。人に頼るな、人に甘えるな、人と同じだと思うな、独りで考えろ、独りで選べ、お前は独りなんだ。ずっとそう言われ続けてきた。泣いたって虚しいだけだ。だから俺に構うな。

「今更変われませんよ」

そう言って笑ったのがまた気に入らなかたったみたいでクラウスが俺の両手を強く握った。

「だから?だから笑って済ますのか?」

クラウスの声が怒ってる様に聞こえてきた。

「何に怒ってるんですか?クラウスさんが怒るような事何かしましたか?」

クラウスの返事がない代わりに手を握る力か強くなる。

「クラウスさん手が痛いです。離してください。そんな事したって僕は泣きませんよ?」

「……だったら俺が今からする事も笑って済ませるんだよな?」

「え?」

クラウスがもの凄く低い声で何を言ってるかわからないうちにベッドに仰向けに倒されてその上に俺を見降ろす蒼色が鈍く光って見えた。

「前の日に俺がお前にしたキスもなんとも思っていないんだよな。」

両手を押さえつけられ逃げられない俺の口をクラウスのそれに塞がれた。唇を結んで抵抗すると指でこじ開けられその隙間からクラウスの舌が入ってきた瞬間、あの男の気味の悪いねっとりとした感触が蘇って体中に悪寒が走った。
無意識に口の中にある舌を噛み、自由になった片手で目の前の男の顔を押しのけた。

「ふざけんな!俺は女じゃねえって言ってるだろ!いい加減にしろ!」

これはあの男に言いたかった言葉だ。

「なんなんだよ、何でこんな事するんだよ嫌だって言ってるだろ、いいわけないだろ、許せる訳ないだろ……」

あの時言いたくても言えなかった。今更言っても仕方ないと呑み込んだ言葉はひとつ溢れ出てしまったらもう止まらない。

「……なんだよぎりぎり大丈夫って。全然ダイジョーブじゃねぇよ。……手とか腰とか勝手に触んなよ。キモイんだよ!嫌だって言わないから合意だなんてふざけんな!そんなわけあるかよ、こっちが大人しくしてたらつけ上がりやがって!訴えるなんて脅すんじゃねぇお前みたいな奴殴られて当然だよざまあみろだ。薬なんて使って最低だ!勝手に脱がかせて勝手に洗うとか、俺に触んな俺を舐めるな全部…全部嫌だ汚い、気持ち悪い勝手に俺を触んな!クラウスの馬鹿、もっと早く助けに来いよ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



タガが外れた俺はクラウス相手に悪態をつきまくり、喚き散らし、散々泣いて泣いて泣きまくった結果、再びミノムシになってまだしゃくりあげていた。

そんな俺の背中をクラウスが小さな子供にするようにポンポンとずっと叩いてあやしている。そのリズムが部屋の前で抱きしめてもらった時のクラウスの心臓の鼓動みたいで散らばってた俺の心がゆっくり元に戻ってくる感じがする。

「お前本当は『俺』って言うのな。」

「…………」

「あと俺の事もいないとこじゃずっと呼び捨てにしてたろ。」

「…………」

「それに案外言葉遣い悪いのな。使い分け上手いから全然気付かなかったわ。」

「…………」

「なぁトオヤお前さ……」

「……まだ何か?いじわるクラウスさん。」

「ふはっ返事したかと思ったらそうくるか。」

くくっとクラウスが笑った。

「俺と一緒に王都へ行かないか?」

「3年間父や仲間達に時間をもらって冒険者をやりながら人探しをしていたがなんの成果もなくもう戻らなくちゃいけないんだ。王都へ戻って騎士団に復帰する。トウヤも一緒に行こう」

「俺の祖母が援助している孤児院が万年人手不足だそうだ。お前と同じ様に親のいない子供が育てられている所なんだが……そこで働いてみないか?お前のスキルが最大に使えるから即戦力だ。おまけに三食宿付き、お前の好きな子供付きだ。」

「ギルドから依頼が出るから王都までの路銀も出るし今ならただで護衛も付いてくるぞ。あー……孤児院で働くのは嫌か?それなら別の仕事を……」

涙もすっかり止まった俺はもぞりと動いてシーツの中でクラウスの声のする方へ顔を向けた。

「……とても魅力的な条件ですね。あまりに僕に都合良すぎて怖いです。さてはそうやって騙して僕を売り飛ばすつもりですね。」

「そうだなトウヤが売りに出たら俺が買うよ。」

「変態2号ですか。」

「ひどいなアイツと一緒にするなよ。」

「こういうの慣れてないから優しくされるとすぐ信じちゃいますよ。」

「それなら目一杯優しくしてやる。だから俺と一緒に王都へ行こう、な?」

クラウスはミノムシの俺をぎゅうっと抱きしめた。やっぱり温かくて安心する。ずっと一緒にいたくなる。

俺は多分間違いなくクラウスが好きだ。そのうちきっと失うのだろうけれど親の温もりを求め続け十数年ぶりに手に入れた俺を甘やかし俺を抱き締めてくれる人の側にいたいと思うのは仕方ないよね。

「……はい。クラウスさんと一緒に王都へ行きます。僕を売り飛ばさず王都まで連れてって下さいね。」

右手だけ外に出したら「喜んで」と言ってクラウスが握手をしてくれた。






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