迷子の僕の異世界生活

クローナ

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迷子になりました

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なんとなく保険の為にエプロンを装着してきた。
これをしてれば『とまりぎ』の子。迷子になってもダイジョーブ。

お昼過ぎの商店街はわりと静かだ。最初の目的地のお肉屋さんまで元気に歩いた。
最初に散歩した日にビートが『とまりぎ』御用達のお店を教えてくれたのでバッチリだ。

「こんにちは。牛肉3キロお願いします。」

「はいはい  って牛肉3キロってまた大雑把だね。」

お店の奥から山吹色の髪をみつ編みに結んだふくよかな女性が対応してくれた。

あ、言われてみれば確かにそうかも。

「あの『とまりぎ』のマートさんのお使いです。夕飯の食材に使うんですけどわかりますか?」

「『とまりぎ』さんね、じゃああんたがトーヤかい?大丈夫、あそこはいつも赤身の塊だからね。すぐ包んであげるから待っといでね。」

そう言うとにこにこ笑ってまた店の奥に戻る。よく知る商店街の肉屋と違いどちらかと言えば『とまりぎ』のカウンターみたいで商品は奥にあるみたいだ。

「はい、牛肉3キロで白銅貨6枚だよ。」

……どれだろう。白っぽい硬貨が2種類ある。レジはビートかマートがしてたからわからない。ギルドでやっぱりお金下ろしとけばよかったかも。

仕方なく財布の中を受け皿に全部出してみた。

「じゃあ銀貨を1枚もらってお釣りの白銅貨を4枚渡すね。」

俺の戸惑うのに気付いてくれてお皿の中から精算してくれる。

「ありがとうございます。」

受け皿のお金ともらった白銅貨のお釣りをじっと眺めてから財布に戻す。
さっきのが銀貨、こっちが白銅貨。よし。

「あんた買い物初めてかい?うちで良かったね。帰ったらヘレナかマートに教えてもらいなよ?じゃないとお釣りを誤魔化されてもわかんないじゃないか。まったく。」

本当だ。1人でお使いに浮かれて大事な事に気付いてなかった。俺のこういう所がいろいろ駄目なんだろうな。

「ありがとうございます。僕が無理を言って一人で来たんです。初めての買い物がこちらで良かった。」

「じゃあ次来る時はちゃんと覚えてくるんだよ。」

そう言ってコロッケをオマケしてくれた。夜に屋台で売るやつだそうだ。お肉屋さんはやっぱりコロッケなんだ。

「あったかいうちに」と言われてコロッケにかぶりついたけど食べ終わらないうちにパン屋さんについてしまい店頭でしばし立たずむ羽目になった。

ようやく食べ終わってお店に入るとアレクのお父さんがパンを並べていた。

「やあトーヤ、うちの店の前で何してたんだい?」

黄緑のふわふわの頭が揺れて面白い。

「すみません、お肉屋さんでいただいたコロッケが食べ終わらなくて…。」

見られてたなんてなんか恥ずかしい。

「せっかくならうちの新商品を食べてくれると嬉しいな。」

やれやれ、という感じで言われてしまいました。確かによそのお店の前でするべきじゃなかったです。

「気が付かなくてごめんなさい、あの……今日はマートさんのお使いで来ました。夕飯に使えるパンを3個下さい。」

「なんだ、配達の分が足りなかったか。」

「いえ今日は夕飯を頼まれたお客さんが多いみたいです。」

「そういう事か。じゃあこれだな。」

そう言ってカンパーニュみたいな大きなパンを3つ包んでくれた。
これは銅貨9枚。白銅貨を出すと銅貨が1枚返ってきた。

「お使いのご褒美だ。子供達と食べな。」

とニカッと笑ってパンの袋とは別に小さな紙袋をくれた。

「ありがとうございます。」

中身はクッキーらしい。お肉を入れた買い物かごの中にもらった袋を入れて更にパンの大きな袋を持って今度は八百屋さんへ。

八百屋さんでも買い物したら。おまけにりんごを2つとオレンジを2つ頂いた。

結構両手いっぱいになったけど持てない重さじゃないしマートが遠くから買い物するようにしてくれたから『とまりぎ』まではもうすぐだった。

「トーヤくん。」

「はい。」

不意に呼ばれて振り向けばなんで振り向いたのかと後悔した。

頬に大きな湿布を貼ったあのセクハラ親父だ。

「トーヤくん会えて嬉しいよ。お買い物かい?」

「……買い出しです。」

「まだあそこで働いているのかい?ヘレナは帰ってきただろう。」

間合いを詰められかごを持つ手を掴まれた。

「僕の職場はすぐそこなんだ、今からお茶にするんだけどトーヤくんをぜひ招待したいんだ。どうだい?」

「離して下さい。知らない人にはついて行きませんと前にも言いました!」

気持ち悪い、声が震える。

「……それは困ったね。トーヤくんのお仕事についても話したかったんだがね。」

「僕は『とまりぎ』で働いてるので大丈夫です。」

「でもなくなっちゃったら働けないだろう
?」

なくなる?『とまりぎ』が?何を言ってるんだコイツ。

「いたたたた……おお痛い。『とまりぎ』の店主に殴られた所がまだ痛むんだよ。酷いよね、いきなり客を殴りつける暴力男なんて。」

男はさらに近寄って耳元で話を続ける。

「今ね、ギルドに訴える準備をしているんだ。僕は仕事柄領主様にも顔が利くんだよ。この傷を見せてギルドに訴え出たらどうなるかなぁ。あんな小さな宿屋、亭主が捕まったら潰れてしまうだろうか。」

「それはあなたが……!」

反論しようとしたら男は俺の口を人差し指で押さえた。触れられ悪寒が走る。

「そうだよ、君のせいで亭主は捕まって宿屋が潰れるかもね」

そこまで言ってようやく俺から一歩離れてくれた。

「さて、トーヤくん?お茶はいかがかね?」

駄目なのはわかってる、でもここの法律なんて知らない。領主様とかもどのくらい権力あるのかわからない。わかるのは俺のせいで『とまりぎ』に迷惑がかかっているって事だけ。

「荷物をおいたら伺います。どうしたらいいですか?」

覚悟を決めた。

「ふふっわかってくれたんだね。じゃあこのままここで待ってるから、早くおいで」

ニタリと笑う男に背を向け『とまりぎ』に戻った。

裏戸から入るとまだマートはいなくてヘレナがジェリーに絵本を読んでいた。

「トーヤおかえり、上手に買えたかい?」

「はい、食材保管庫でいいですか?」

「一緒にやるよ。」

厨房に入ってきて手伝ってくれるので買い物を作業台の上に並べた。

「やけに多いね。」

「みなさんオマケをつけてくれました。お肉屋さんではコロッケを頂いてそれは食べちゃったんですけど。あ、お財布お返しします。」

「みんなトーヤが可愛いからいいトコ見せようとしたね!あのケチな八百屋がこんなにオマケをつけるなんて。トーヤがもらったもんだから夕飯の時にでも食べようね。」

「あの…今からギルドに呼ばれてしまって…夕飯はその……遅くなるかもしれませんが行っていいですか?」

「いいけど…1人で行くのかい?」

ヘレナが怪訝そうな顔をする。さすがにギルドは一人じゃだめか。

「入り口で待ってて下さるそうです。昨日の事もあるから大丈夫ですよ。」

嘘が、増える。

「そうかい、じゃあ大丈夫だね。今日は朝から楽させてもらったから後は任せといて。」

「ありがとうございます。」

「いいんだよ、元々あたしの仕事なんだし。気を付けて行っておいでね。」

ごめんなさい、嘘を並べて。こんなにお世話になったのに俺の不注意でお店に迷惑をかけて。

裏戸まで見送ってくれるジェリーをぎゅうっと抱きしめて外に出た。

さっきの所に戻れば残念ながら約束通りセクハラ男が待っていた。
まずは話をしてマート達に手を出すのを辞めてもらおう。大丈夫、なんとか交渉してギルドには訴えないようにしてみせる。




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