迷子の僕の異世界生活

クローナ

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迷子になりました

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7日目のクラウスとその先の話①



その日、ギルドへ向かうと俺宛に手紙が来ていた。
王都に住んでいる兄からだ。明日所用で隣町に来るから会いに来いと書いてある。

隣町までは乗り合い馬車だと夕方になるが騎乗すれば1日で往復出来る。

仕方なく貸馬を予約して今日は『とまりぎ』で昼飯にしよう。

この前からマートが「時間が合うなら昼はうちで食べろ」とうるさいからだ。
理由はわかってる。トウヤが心配だからだ。

7日前に突然現れたトウヤはこの国では珍しい黒髪黒目で小さくて信じられないが18才だ。くるくるとよく働きよく笑いとにかく愛想がいい。そしてものすごく無防備だ。

今朝もロウに抱きつかれても笑ってやり過ごす。
近所の有名な変態親父に絡まれてからは頬へのキスは禁止だというが手で顔を隠しあれが逆に煽ってるとなぜ気付かないのか。
無自覚で無防備なのかそれとも逆にあしらいなれているのか。

食堂で触られてもはじめは手が当たってるだけだと思ったとか。なんでそう考えるのか意味がわからない。だいたい簡単に触られすぎなんだ。

イライラしながら『とまりぎ』の扉を開けた。
中には3人の客とジェリーを抱かえてオロオロするマートと困り果てたビート。
トウヤがいない。
俺と目があったマートが「なか!なーか!」と3人の客を指差している。
よく見たら客の真ん中にトウヤがいて客と思ったのはヘレナだった。
女性をかき分ける訳には行かないから上から手を突っ込んでトウヤを引っ張り上げる。

その躰の軽さに驚いた。

ヘレナはどうやらトウヤをマートの浮気相手だと誤解しているらしい。
でもどちらかと言えば浮気相手というより娘みたいに思ってるんじゃないか?

なんだか俺まで巻き込まれてきた。要はマートと関係ないならいいんだろ?

「だからマートのじゃなくて俺のだから。」

言った自分に少しだけ驚くがそれ以上に驚くトウヤに焦れる。

「本当ならキスの1つでもしてみなさいよ。」

見せ掛けのキスくらいどうって事ないがトウヤに思わぬ抵抗にあう。
ロウや客に簡単に触らせるくせに俺は拒否するのか?
足までジタバタさせて抵抗するのになぜか腹が立ち少し強引に顔を寄せれば「ファーストキスは使えません」と叫ばれた。

そんなのビートでもすんでるぞ、多分。

つまりこいつのは経験のなさから来る無防備だと判明した。

昼飯を食べ出したはいいがトウヤはスープをすくってから運ぶまでの間に全部器にこぼれてしまい、口にたどり着く頃には空のスプーンを咥えてはスープを掬う。

何をしてるのかと視線を追うとその先にジェリー達の様子を捉え捨て猫みたいな顔をしていた。

声をかけ一瞬泣きそうな瞳をしたかと思えばえらく大人びた造り笑いでごまかす。どちらが本当のお前なんだろうか。
知りたくて覗きこめばじっと見返す黒曜石の様な瞳に捕らわれそうになり視線を外した。

けれど未だ自分が男達からの性対象だとまるで自覚のないままギルドへ行こうとする。
「ダメだ」と言えばそれが気に入らなくて口にパンを詰め込んで返事を誤魔化す。
このアンバランスさに目が離せない。

結局ギルドに行く事になったけれど庇護欲をそそる服を着替えさせればピタリと華奢な躰を強調するのに変わる。着替えた意味なく認識阻害のマントを被せるしかなかった。


歩幅を合わせ走らせない様ゆっくり歩く。
2度目のギルドは余裕が出来たのかぐるりと見渡した視線を地図で留めた。

王都リデルを中心とした我がフランディール王国の地図だ。

「見覚えがあるか」と聞いたらまた泣きそうな顔で首を振る。不安げに一人立つ姿に無性に抱きしめたくなるのを押さえ子供をあやすように頭を叩いた。

ソフィアがトウヤに説明するのを横で聞きながら自分のスキルを知って嬉しそうに笑うから、「そのスキルならいつでも嫁に行けそうだな」とは言わずにおいた。

次の仕事が見つかるまでマートの所にいるなら大丈夫かと思えばまだギルドに一人で来るのを諦めていないらしくソフィアの前でマントを広げるのを慌てて横から襟を合わせる。
ソフィアは無類の初物好きだ。ギルドの受付をしているのも成人したての初々しい登録者に誰よりも早く近付く為なのだから。

無自覚の荒療治にギルドのど真ん中にトウヤを置いてきたソフィアは案の定、

「3食寝る所付きでいいなら私が連れて帰っちゃおうかしら。あの華奢な躰をベッドに縛りつけて隅々まで撫でまわしてみたいわ。いっそ全部脱がされちゃうまで鑑賞させて貰おうかしら。」

「ダメだ。」

ソフィアまでこんな事思われてると知ったら流石に危機感持つだろうか。

「やぁね冗談よ?」

「冗談に聞こえねえ。」

「だってあなたから殺気が駄々漏れだもの~随分ご執心なのね。クラウスにも春が来たかしら?」

「は?」

「やだあなたまで無自覚?じゃあ気付かないうちに先に手を出しちゃおうかしら。」

思わぬ指摘を受けて驚く。俺が?

「……あの手紙、そろそろ王都に戻れって話じゃないの?こんな小さな街にトウヤの望む仕事なんか中々ないんだしそれだけ気に入ってるなら連れて帰れば?」

そんな話をしていたら冒険者達に囲まれた真ん中でトウヤがよりによってチェイスにホールドされていた。あいついたのかよ。

「流石だわ…見て、もうシャツのボタン全部外れてるわよ?」

「感心してないで行くぞ。」

俺が真っ青になったトウヤを奪うと同時にソフィアが雷撃でチェイスを叩きつけ転がる背中をピンヒールで踏みつける。そういえばドSだったわコイツ。

しがみついて震えるトウヤをマントで隠しギルドを出るがこのまま連れ帰ったらマート達にどやされそうだ。

夜は静かな丘の公園を思い出しそこに向かおうと決めて歩き出すとトウヤが泣き出した。小さな嗚咽から次第に子供の様な泣き方になる。しがみついたまま泣くからトウヤの涙で首のあたりがぬるく湿っていく。
そんなに怖かったのかとソフィアの提案に乗った自分をひとしきり反省しながら丘につく頃にはトウヤもだいぶ泣き止んでいた。

マントをはずせばぐずぐずの顔になったトウヤが出てくる。
涙で潤んだ瞳に赤く濡れた唇が薄明かりに照らされてやけに扇情的でさっきの反省は見せかけなのかと自分にダメ出しをしながら顔を拭いてやる。

泣いた原因はトウヤの中の常識を考えず一方的に常識知らずと決めつけて強硬手段に打って出た俺達が絶対的に悪いのに、謝罪を口にしてソフィアの心配までする。
「そのソフィアにも狙われているぞ」と言ってやろうか。

いや、ソフィアは多分トウヤが少なからず懐いているし突然ベッドへ連れ込む常識知らずでもないからほっておこう。
ソフィアの安全をさっきの記憶で確認できたようで安心したのか、ようやくベンチに背中を預けそのまま空を仰いだ。






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