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迷子になりました
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しおりを挟む『とまりぎ』で働きだして7日が過ぎだ。
セクハラ事件の次の日。俺はロウのハグチューのチューを阻止することに成功した。
「トーヤおはよう今日も可愛いね……ってあれ?なにしてんの?」
ロウの気配を察知した俺は両手でほっぺたをブロックしたのだ。どうだ!これでできないだろう。
「ハグはいいけどチューはだめです」
「チューは駄目ってなにそれ…可愛すぎるんだけど」
「だから子供扱いしないでください!僕これでも18なんですからね」
「子供扱いって……じゃあその空いてる唇にチューしていい?」
ロウが自分の唇をペロッて舐めて俺をじっと見た。あれ?俺なんか間違えた?
「だからチューは駄目ですってば!」
両手でロウを突き飛ばしてやった。よし勝ったぞ!
あれ以来口とほっぺを手でブロックしてハグだけでやり過ごす。もちろん俺もビートにはハグだけで我慢だ。
仕事もずいぶん手際よくこなせる様になってきた。マートに指示を出される前に動き、ビートに頼ってた分もやれるようになってジェリーに寂しい思いをさせる時間が減ったように思う。
食堂のモップがけやテーブル拭きをビートとジェリーに任せればマートからも様子が見えて安心だからそれ以外のシーツと俺の物を含めたビート達の洗濯もすませ裏庭に干してからシャワー室とトイレを掃除してさらに食堂兼宿屋の入り口の掃き掃除が終わるとそろそろ昼の営業の時間になる。
果実水を準備してマートの仕込みも終わり『営業中』の看板をだす。
お昼の営業もあれ以来セクハラがピタリとなくなりスマイル全開で楽しく働けていた。
店内のお客さんがいなくなりそろそろ店じまいだとマートに言われ看板を下げに表に出た時だった。
「本当に営業してるじゃないの。」
不穏な空気と共に3人連れの女性が訪れた。
3人連れの女性は中へ入ると更に厨房の中までなだれ込んだ。そして……
「なかなか迎えに来ないと思ったら若い女を連れ込んてよろしくやってるってどうゆう事だい?3人目を妊娠させといて堂々浮気だなんて随分偉くなったもんだよ!子供達まで懐柔してあたしを追い出そうってのかい!」
すごい剣幕でまくし立て、あっとゆう間にマートが取り囲まれた上壁に追い詰められている。
話から察するにスバリ!貴女は体調を崩して実家に帰っているはずのヘレナさんですね?残りの方はママ友さんですかね?そしていろいろ情報間違ってます!!
……と心の中で言ってみた。
ジェリーと同じ明るい茶色の髪に緑色の瞳の迫力美人そしてやっぱり高身長。
ハイヒール……は履いてませんね、妊婦さんだもんね。ベタ靴で180センチ超えているなんて羨ましすぎる。
成り行きを見守る俺にマートが必死に目だけで助けを求めてくるけど小さく首を横に振り救助不可のサインを出す。
「噂の女はどこだい?」
矛先が多分俺に向かいそうになった時ようやく救世主が現れた。
「きゃ~~かーちゃいるの~」
満面の笑みを浮かべたジェリーがヘレナまでまっすぐ向かいスカートに抱きついた。
ビートも子どもの顔になって走り寄る。
「どうしたんだよ帰ってきて大丈夫なの?」
ヘレナが振り返り床に膝を落としてふたりをまとめてぎゅうっと抱きしめる。
「久しぶりだねビート元気だった?ジェリーもいい子にしてたかい?」
髪を優しく撫でられて二人共嬉しそうだ。
良かったこれで大丈夫。
ヘレナがジェリーを撫でながら
「可愛い髪にしてもらったね、誰がやったんだい?ん?」
とにっこり笑って問いかけた。はい!俺がやりました!
誤解を解くチャンスかと思いきやヘレナさんの目はまったく笑ってない。
「あのねぇ、これねぇ、にーちゃがしてくれたのぉ。」
事がおさまるまで隠れるべきかと悩んでるうちにジェリーがテレテレしながらと天使の笑顔で答えた。嬉しいけれど今は喜べない。
「へぇ!どろぼう猫はニーチャと言うのかい。」
ヘレナの目が闇を纏った気がした。
「何言ってんだよかーちゃん『ニーチャ』じゃなくてトーヤだよ。店手伝ってくれてんの。」
ありがとうビート俺を守って!
「へぇ……で、そいつはどこにいるんだい?」
誤解が全然とけていない。そしてもう逃げられる気がしない。
「トーヤは僕です。」
仕方なく名乗り出ると今度は俺が取り囲まれた。
俺より10センチ以上背の高い女性に囲まれ上から下まで値踏みするように見られカツアゲされてる気分です。マートさん早く助けて?
「へぇあんたがどろぼう猫の『トーヤちゃん』かい?私の留守に堂々入り込んで好きにやってるそうじゃない。子供やうちの旦那だけじゃなく客や冒険者やパン屋の息子まで誘惑してるそうじゃないか。」
「ええ~~そんなことありませんよぅ」
そもそも僕は女ではありませんしその誤解は俺的にも嫌なんですけど
「いい加減にしろよかーちゃん」
ビートが後から引っ張るが「子供は黙ってらっしゃい」と謎のふたりが阻止する。
「もうばーちゃんもおばちゃんもやめてくれよ!」
お祖母様とおば様でしたか。噂が本当なら嫁の家の一大事。黙ってられませんよね~
ちらりと見えるマートがジェリーを抱き上げ避難させてひたすら謝ってる。これは熱が冷めるまでなんともならないやつみたいだ。
覚悟を決めて聞き流す事にした。事実じゃないから大丈夫。
その時女性陣の壁の上からヒョイと手が伸びて俺の片腕を掴んて引っ張りだされ気が付いたらクラウスが俺を子供みたいに抱き上げていた。
「クラウス、その子と話があるの返してくれるかしら?」
「ダメだ。あんたは誤解してるだろ。」
「誤解なんてしてないわ。この女の噂色々聞いたんだから。」
「だからそもそも女じゃない。」
それを聞いてようやく誤解が解けたかとみんなが思ったけど。ヘレナがマートに向き直り「あんた男もいけたのね!」と叫ぶ。もうどうしたもんだかわからなくなってきた。
すると俺を抱き上げているクラウスから低くうなるような長い溜息が聞こえてきた。
「だからマートのじゃなくて俺のだから。」
ん?今なんと?
「クラウスのだなんてこの人を庇う為にそんな見え透いた嘘ついたって駄目よ。面倒くさくて恋人作らないっていつも言ってんじゃない!ホントならキスの1つでもしてみせなさいよ。」
ええ~!そんな無茶振りやめてください。
「仕方ないトウヤするぞ。」
「嫌です。」
「なに言ってんだたかがキス1つでこの訳わかんないのが終わるんだぞほら」
そう言って空いてる手で俺の頭を押さえて来た。
仕方ないって何だよそれ。だいたいキスは『たかが』ですませられるものじゃない。
慌ててクラウスの肩に両手をついて抵抗するけど力の差がありすぎる。足をジタバタしてもなんの抑止もできなくてクラウスの顔が近付いてくるのを防げず、肩に突っ張った手を外した。
…………………結果俺は、寸での所でクラウスの唇と俺の唇の間に手を滑り込ませる事ができた。
「あにふんあ。」
俺の両手で口を塞がれたクラウスが文句を言ってるけどこれは譲れない。
「こんなくだらない誤解を解くためなんかに僕のファーストキスは使えません!」
必死すぎて大声で叫んんだ声が食堂に響き渡った。
「ファーストキス……?」
つぶやくクラウスに
「なによあなた初心なのね。」
毒気を抜かれたヘレナ。
そして多分ゆでダコの俺。
何コレ。恥ずか死ぬ!
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