12 / 333
迷子になりました
12
しおりを挟む1日目のクラウスの話②
扉を開いた途端、宿屋の中から耳を劈く音が聞こえてきた。
おもわず両手で耳を塞ぐ。
マートがトーヤを探すのでマントを着せたままなのに気がついて脱ぐように言えば丁寧に畳んで返してきた。
そして父親が手に負えない泣きじゃくる子供をあっという間に落ち着かせ、一本の紐で器用に背負うとさっさと仕事を始めてしまった。
小さくて何もできなさそうだと見た目で判断した自分を反省した。
「いいのかあれ、正装用のだろ?」
「ああ、あんまり使わないしな。」
トーヤに貸したのは騎士服の中でも正装した時に使う物だ。しばらく使う予定もないが鞄に余裕があるので大抵の物は入れっぱなしだけどあれは単に鞄から出し忘れていたやつだ。
思い浮かべながら鞄を探ったら出てきたから自分でも驚いた。
「あ~~これで仕事が再開できる」
とマートは腕まくりをして厨房の仕事を再開した。
「ギルドまでトーヤを連れてってもらって悪かったな。なにかわかったか?」
果実水を出してくれたのを受け取りながらカウンターに腰掛ける。
「なんにもだ。18歳なのは本当だったけどな」
「それはうちとしてはありがたい話だな。訳ありの線はどうだ?」
「それもさっぱり。でもなんか気になる事があるみたいでアイツに内密でソフィアに呼び出されたから明日依頼前に話して来る。」
「そうかすまんな」
「まあいいさ。」
何者か少し興味が湧いている。
「ウチの仕事が終わるくらいに次の仕事探したいだろうからちょっと気にしてやってくれるか?まあヘレナの体調次第のとこだけどトーヤには10日ぐらいだといってあるから。」
「あ~~。………ギルドにひとりで行かせるなよ?」
「わかってるさ」
マートも苦笑いだ。一人で行かせたら例外なくトラブルに巻き込まれるだろう。
二人で話しているとシーツを取りこんだトーヤ達が戻ってきてこれまた丁寧に帯を畳んで返してきた。
細い色白の小さな手からそれを受け取ると再び鞄に放り込む。
そのまま立ち上がって部屋に戻ろうとしたけれどギルドに行ってる間にシーツを剥がされたそうなので終わるまで待つ事にした。
すると思い出した様にマートが時間あるかと聞いてきた。
「次はなんだよ」
「トーヤ今身に着けてるもの以外何1つないって言うから動きやすい服をふた揃えぐらい用意してやって欲しいんだが……」
トーヤの新たな情報に目眩がした。
改めて話を聞くと昼過ぎに買い出しに出たビートが橋の所でしゃがみ込んで腹を空かしていた着の身着のままの迷子のトーヤを拾ってきたらしい。
「よくそんなの雇う気になったな。あんたの懐の深さには時々驚かされるよ」
マートはふふん、と得意気な顔をすると
「子供達が一瞬で懐いたからな。それに腹減ってるのに料理を目の前に出されて『金が無いから』と言い出すくらいだ。悪いやつじゃないさ。
ビートも『拾ってきたら最後まで面倒見ろってとーちゃんも言うだろ』だとさ。これで放り出したら男が廃るってもんよ」
「お前もな」とニヤリと笑って付け加えた。いつの間にか『拾った仲間』に入れられたらしい。
再び宿屋を出て馴染みの店に服を買いに行けば自分のサイズでないものを求める俺に恋人でも出来たのかとあれこれ詮索してきて面倒くさくなり『マート頼まれたから』だと一点張りで済ませた。
夕飯を宿で摂るのは俺一人だったから『一緒でいいか?』と言われ構わないと返事をした。
トーヤの食事のマナーは貴族程ではないが丁寧で、後片付けをする時はかなり手慣れている。加えて子供達の扱いは至極丁寧で、俺の中には『奉公先の貴族邸から逃げ出した説』が固まりつつあった。
トーヤがシャワーを浴びる時に丁度フロアに誰も居なくなる事になったのでなんとなく見張りの為に食堂に残った。
ここなら外からの出入口とシャワー室へ向かうのがわかるから念の為だ。
自分自身によくわからない言い訳をしているとすぐに黒髪をしっとり濡らしたトーヤが出てきた。温まった身体が蒸気して白い肌がほんのり色付いている。
「先にシャワー使わせて頂いてすみません。それじゃあおやすみなさい。」
と小さな頭をペコリと下げて部屋へ向かって行った。
俺が用意した服はシャツが大きくて首元が結構開いてしまっていたし袖も長くて何度か折返していた。
ズボンに至ってはウェストを「このくらい」と手で輪っかを作って見せたので良さげだがその代わり丈が短かったみたいだ。
そのうちトーヤを連れて服を買いに行こうと思った。
珍しくお節介な自分に見掛けで判断した罪滅ぼしと拾った責任だからだとまたもや言い訳をして俺も部屋へ向かった。
225
お気に入りに追加
6,442
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない
時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。
通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。
黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。
騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない?
◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。
◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる