迷子の僕の異世界生活

クローナ

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迷子になりました

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お姉さんにお礼を言うとすぐクラウスにフードをかぶせられる。

「ちゃんとついて来いよ。」

そう一言告げると踵を返しスタスタと歩き出したクラウスに遅れるまいと慌てて背中を追った。

『とまりぎ』からギルドまでは割と分かりやすくほぼ一本道だったから次は一人で行けそうだと思う。
さっきの登録の時の事をいくつかクラウスに聞いてみたかったのだけど行く時と同じでついていくのに精一杯で何も聞けそうもない。

「いたっ!」

突然の顔面への衝撃。

クラウスが急に立ち止まったので勢い余って彼の背中にぶつかってしまったみたいだ。

「大丈夫か?」

「はい、あの…ごめんなひゃい。」

ぶつけた鼻を擦りながら返事をしたら変な風になってしまった。
そんな俺に呆れたのか小さく溜息をつくとクラウスは再び歩き出す。でも今度はゆっくりと。

俺が駆け足なのに気付いてくれたのか。

終始ぶっきらぼうな態度でほどこされたささやかな気遣いに嬉しく思うのと同時に気恥ずかしくもなった。

なぜかと言えばクラウスが無理に縮めた歩幅はその長い脚を持て余しているようにみえるけれど俺にとっては小走りを早歩きに変更するに留まっていたから。

だけどさっきよりは息も整って来たからギルドでの事聞いてみようかな、なんて思ったら丁度着いてしまった。

入り口は出た時と同じ表に面した方だった。

そうか、クラウスはお客さんだからか。

ビートの使う出入り口の違いに自分が使うべき扉を認識しつつクラウスに続いて『とまりぎ』の扉を抜けると店内にはジェリーの泣き叫ぶ声が響きわたっていた。

マートが抱き上げてなんとか宥めようとしているけれどジェリーは顔を真っ赤にしてそれこそ火がついたように泣いて全身でイヤイヤしている。ひょっとして寝起きが悪かったのかな?

ビートも困り果てやや怒り気味に声をかけていた。

「なーもー泣きやめよ~父ちゃん仕事できないだろ~」

ふとクラウス見れば両耳を手で塞いでいた。
うん、わかる。子供の泣き声って超音波だよね。

「クラウス帰ったのか!トーヤはどうした?まさか置いてきたのか!?」

俺達に気付いたマートが焦り気味に大声で声をかけた。あれ?俺居ますけど?

「おい、そのマントを脱げ」

「え?はい。ありがとうございました。」

慌ててマントを脱いで手早く畳んでクラウスに渡す。

「あーいたいた!どうだ仕事できるか?」

と今まで気付かなかったみたいだ。魔法のマントだっけ面白いな。

「はい無事登録できました、とりあえず何から始めたらいいですかね?」

「できることならジェリーを泣き止ませて欲しいんだが…そうだな、裏に干したシーツ取り込んできてくれるか?その間に次の仕事を指示するから。」

「わかりました。」

そんな事なら簡単だ。

俺はマートに近づくと泣き叫ぶジェリーの耳朶をはむっと咥えると驚いたジェリーがハタと泣き止んだ。

ふふっ世界が違っても子供の反応はかわらないんだな。

ジェリーがまんまるな瞳で俺を見る。

「おめめ醒めたかな?こっちにおいで?」

手を広げると素直に渡ってきた。小さな体を抱き込んでまだしゃくり上げる背中を撫でる。

「怖い夢でも見たかな?たくさん泣いて疲れたね。お水のむかな?」

力いっぱい泣いて汗と涙で貼り付いた髪を手櫛で整え、出かける前にポケットに入れたハンカチで顔を拭いてやるとジェリーがコクコクと頷いた。

「マートさんお水……」

ジェリーから視線をマートに移すと「何しても泣き止まやまなかったのに」と苦笑いしながらすでに手にしていた水を差し出してくれた。

さすがお父さん。ジェリーの耳朶噛んじゃったけど怒られなくて良かった。

椅子に座りジェリーを膝に乗せれば泣きすぎて真っ赤になった鼻が可愛い。
俺が持つコップに手を添えてゆっくり水を飲みはじめた。

「ふふっ上手だね~」

一生懸命飲んでる姿が乳児院の子達に重なって可愛い。
保育士になりたかったけどまずは働かなくちゃと就職を決めたのを思い出した。ここでも資格いるのかな?今度ギルドのお姉さんに聞いてみようか。

考えてるうちにコップが空になりジェリーもすっかり落ち着いた。

「じゃあシーツ取り込んできますね。」

ジェリーに水を飲ませ床に降ろそうとしたら…………降りない。

「やーの!」と言って俺にしがみついて離れない。

コアラみたいだ。これも一緒か。

「ジェリーがくっついてたらトーヤが仕事できないだろ。」

ビートの言う事も首をぶんぶん振って俺の体にしがみつく。無理に下ろすとまた泣いちゃうなぁこれ。
出会ってちょっとの俺にこんなに懐いて大丈夫かなと思うけど実際不安で一杯の気持ちが子供体温で癒やされる。

「あの、柔らかい長めの紐とかあります?クラウスさんの背丈くらいのやつ」

目安に使ってすみません。

「これでいい?」

ビートがさっと用意してくれたけど細すぎる

「これはどう?」

それもちょっと……ただの紐だ。もう少し幅が欲しい。

「これならどうだ」

クラウスが例の小さい鞄から丁度欲しい形の物を出してくれた。

「あ、それがいいです!」

クラウスからそれを受取るとジェリーの脇の下に通して肩に回し背中に背負った。おんぶだ。

「ジェリー、これならいい?」

と肩越しに聞けば。にへっと笑って首にしがみついてきた。良かった。





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