上 下
63 / 84
第二章 アルメリアでの私の日々

どう転んでも間に合わない(1)

しおりを挟む
「殿下、少々お時間ありますか」

「何さ」

「……緊急事態でして」

「私に頼むことではない気がするが、仕方ないな。ちょっと行ってくる」

 そう言ってアレクシス殿下は運営の生徒と共に会場を後にした。最近知ったことなのだが、殿下は生徒会役員らしい。たまに見かけないなとは思っていたのだが、生徒会の仕事をしていたみたいだ。

 このダンスパーティーも生徒会が関わっているから、運営関連で呼ばれたのだろう。

 ずっと壁の花になっているのもつまらないので、マーガレット王女の手を引いて何曲か踊った。
 
 疲れて踊りの輪から抜けるとヴェロニカ様やエリザベス様もやって来て、雑談を楽しむ。流石にマーガレット王女が居るので、エリザベス様はシェリル様達の話題を出さなかった。
 代わりにマーガレット王女の視界にシェリル様が入らないよう、さりげなく立ち位置を変えて遮っていた。

 それがあまりにも分かりやすすぎて私が笑いそうになるのを堪えていると、マーガレット王女がバッサリ「貴女、その気遣い嬉しいけれど、不要だわ」と言い切ってしまった。

『ち、違いますわっ! けっしてシェリル様がマーガレット様の視界に入らないようにだなんて! そんなことしようと思ってませんわ!』
 
 と否定しているようで、洗いざらい吐いているところがエリザベス様らしい。マーガレット王女も堪らず笑い出していた。

 二人が軽食を取りに行った後、事件は起こる。ふらりとよろけたマーガレット王女が顔面蒼白になっていたのだ。
 
(どうして……?)

 ついさっきまで元気そうだったのに。

 くずおれる彼女を支えようとしたが間に合わない。マーガレット王女は床に座り込み、私も遅れてしゃがむ。

「……大丈夫ですか?」

「ごめんなさい。ああ……また……なの。私が……──弱いから」

 青ざめた彼女は見るからに体調が良くなかった。目眩がするのか額を押えている。

「魔力が足りないのですか?」

 小声で問えば弱々しく彼女は頷く。

「──アレクシス殿下を呼んできます」

「だめっ」

 踵を返そうとした私の腕を強く掴んだ。

「……今度、お兄様に見られたら……誤魔化せない」

 冷や汗をかきながら、それでも手の力は緩めない。

「…………ですが」

(──魔力欠乏だけじゃないの?)

 今の発言は、前回倒れた原因をも否定するようなものだ。しかし明らかに魔力が足りていない。ホウキから落下した時と症状が同じなのだ。

 それに、アレクシス殿下は勘づいている。次、マーガレット王女が倒れたら伝えるなと懇願されても呼びに来てと事前に言われていたのだ。

 兄は妹の行動なんてお見通しらしい。

 けれどもこのような状態のマーガレット王女を一人にはできない。ヴェロニカ様辺りが戻ってきてくれると嬉しいのだが。

「ほんの少し待って。すぐ良くなるから」

 そう言ってブレスレットとして加工された宝石に似た石を、震える手でパキンと割った。割れ目から黒色の魔力が溢れ、すーっとマーガレット王女に吸い込まれていく。

「これでちょっと回復する……の」

 魔力を取り込んだマーガレット王女の顔に幾分か血色が戻る。立ち上がり、スカートに付着したホコリを払った。

「こうなることを予想していたのですか」

 魔力を保存しておける石は魔月石。しかも他の人には分かりにくいブレスレットとして身につけていた。
 念の為という説明では納得がいない。今日は魔法を使う機会も無いはずだ。つまり枯渇し、欠乏する状態になるはずもない。

「それは……」

 口ごもる彼女に私は正面から向き合った。

「──マーガレット王女は何をお隠しになられているのですか」

 瞳が揺らぐ。ふいっと視線を逸らし、自身の二の腕を掴んだ。握る力が強すぎて陶器のように白い肌は赤くなる。

「……ぜんぶ、終わったはずだから。話すわターシャに」

 けぶるような長い睫毛が閉じ、意を決して開かれる。

「約束したしね。ここは人の目があるから明日でもい……──」
「ひゃっ」

 突如、大きな衝撃音と振動がマーガレット王女の言葉を遮った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

殿下!死にたくないので婚約破棄してください!

As-me.com
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私。 このままでは冤罪で断罪されて死刑にされちゃう運命が待っている?! 死にたくないので、早く婚約破棄してください!

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

【完】テイマーとタンクとヒーラーがいるからアタッカーはいらないと言われてクビになったので、アタッカーしかいないパーティーを作ることにしました

ひじり
ファンタジー
「お前にはパーティーを抜けてもらいたい」  ある晩のこと。  アタッカーのリジン・ジョレイドは、パーティーの仲間たちと共に酒場で飲んでいた。  そこでリーダーからクビ宣告を受けるが、納得がいかない。  だが、リーダーが口にした一言で、全てを分からされてしまう。 「――アタッカー不要論」  それは【勇者】の称号を持つ金級三つ星冒険者の発言だった。  その人物は、自身がアタッカーであるにも関わらず、世にアタッカーは不要であると論じた。【勇者】の称号を持つほどの人物の言葉だ。アタッカー不要論が世界へと広まるのに、然程時間はかからなかった。 「おれたちのパーティーには、テイマーのおれが居る。魔物との戦闘行為は、おれが使役する魔物に全て任せればいい」  今までアタッカーが担っていた部分は、テイマーが使役する魔物や、攻撃的なタンクが担うことが出来る。  回復役として、ヒーラーは絶対に必要不可欠。  メイジであれば応用も効くが、戦うことしか能のないアタッカーは、お荷物となる。だからリジンは必要ないと言われた。 「リジン、お前もアタッカーなら分かるはずだ。おれたちが冒険者になる前の段階で、既にアタッカーの需要は減っていた……それなのに、おれたちのパーティーの仲間として活動できただけでも運が良かったと思ってほしいんだ」  今の世の中、アタッカーは必要ない。  では、アタッカーとして生きてきた冒険者はどうすればいい?  これは、アタッカー不要論の煽りを受けたアタッカーが、アタッカーだけのパーティーを組んで成り上がる物語である。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】

皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」 幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。 「な、によ……それ」 声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。 「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」 ****** 以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。 タイトルの回収までは時間がかかります。

2度目の人生は愛されて幸せになります。

たろ
恋愛
【愛されない王妃】 ジュリエットとして生き不治の病で亡くなった。 生まれ変わったのはシェリーナという少女。 両親を事故で亡くし、引き取られた親族に虐められ疎まれた。 そんな時シェリーナを引き取ってくれたのは母の友人だった。 しかし息子のケインはシェリーナが気に入らない。ケインが嫌うことで屋敷の使用人達もやはり蔑んでいい者としてシェリーナを見るようになり、ここでもシェリーナは辛い日々を過ごすことになった。 ケインがシェリーナと仲良くなるにつれシェリーナの屋敷での生活が令嬢らしくないことに気がついたケイン。 そして自分の態度がシェリーナを苦しめていたことに気がつき、落ち込み後悔しながらもう一度関係を新たに築くために必死で信用を得ようと頑張る。 そしてシェリーナも心を開き始めた。

処理中です...