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第二章 アルメリアでの私の日々
深紅と黄金の瞳の双子
しおりを挟む「よく来てくれたね。私はこの国の王であるグランツ・アルメリアだ。隣にいるのが私の妻で王妃のローズマリー」
柔和な笑みを浮かべながら話し始めたのはアルメリアの王、グランツ・アルメリア陛下。
まだ若々しい陛下は二十代に見えるが、確か三十代だったはずだ。そしてやはり王妃様も美しい。今回初めて会うが、人づてにとても美しく聡明で慈愛に満ちた王妃様だと伺っていたが、まさにその通りだ。
柔らかく陛下の隣で微笑んでいられるが、その瞳はこちらを見定めている。
そして、その近くに立っている男女のお二人は──
瞳の色は女性の方は深紅、男性の方は黄金色。どちらも美しい美男美女である。
(あれ? この方、見たことがあるような………)
黒髪である男性の方に見覚えがあった私は必死に頭の中の記憶を探る。
黒髪……図書館で転びそうになった私を助けてくれたのって……黒髪の青年!!!
はっと私がしたのを彼は気づいたのか、微かに笑みを浮かべた。
「ああ、この二人はマーガレットとアレクシス。私達の子供で双子の兄妹。アタナシア嬢と同じ年齢で学校では同級生となる」
「アタナシア嬢、初めまして。私はアレクシス・アルメリア。アルメリア魔法学校でもよろしく」
アレクシス殿下は朗らかに外向けの笑みであろう笑顔で私に手を差し出してきた。
「初めまして、アタナシア・ラスターです。よろしくお願いします」
私も挨拶を返しながら手を被せると軽く殿下は手を握った。
すると、アレクシス殿下と私との間にもう一人の王女様、マーガレット王女が割って入ってきた。
「お兄様ずるいです。アタナシア様、私は妹のマーガレット・アレクシスよ。アタナシア様とはルームメイトになるの。よろしくね?」
そう言って王女は私の手をギュッと握った。いささか握る力が強い気がする。
可愛い……とても可愛い。私が見てきた令嬢の中で一番可愛いと思う。
金糸雀色の柔らかそうな髪が揺れ、甘い匂いが辺りを漂い、ぷっくりと膨らんだ唇、零れ落ちそうな大きな瞳、そして透き通るような肌。まるでビスクドールのようだ。
アルメリアの王族が私と同い歳であることは知っていたので、もしかしたらルームメイトはマーガレット王女? と考えていたのだが予想は当たっていたようだ。
「マーガレット王女殿下、こちらの国には不慣れで至らない点もあるかと思いますがよろしくお願いしますね」
にっこりと笑いながら返せば彼女は何故か瞳を潤ませ、私の手を上下にブンブン振った。
「勿論よ! ルームメイトが隣国の王太子の婚約者だって聞いてとても楽しみにしていたの! だって、アルメリアの貴族は……嫌いだから」
彼女の瞳に一瞬翳りがさして、彼女が瞬きをすると潜んでしまった。
「マーガレット、およしなさい。アタナシア嬢が困っているわ」
王妃様に窘められてマーガレット王女はピタリと止まり、恐る恐る私を伺う。
「あっごっごめんね? 大丈夫……?」
「大丈夫です」
少し驚いたが、それだけだ。それにしても、双子であるはずの王子殿下と王女殿下はあまり容姿が似ていないような気がする……。
そんな疑問が顔に出ていたのか、グランツ陛下は口を開いた。
「マーガレットとアレクシスは二卵性双生児だから似ていないんだ。私としては性格だけでもアレクシスのようにマーガレットがなって欲しいのだけどね」
(つまり、落ち着いて欲しいという事ね)
確かに少しマーガレット王女はお転婆? のような感じがこの数分でも分かる。逆にアレクシス殿下は冷静沈着というような感じかしら。
他国の王族とは関わったことがないので、確信が持てる訳では無いが、あながち間違ってないない気がする。
「酷いですわお父様、わたくしはお兄様のようにつまらない人間になりたくないです」
陛下の言葉に憤慨したのか、マーガレット王女はぷいっとそっぽを向いた。
「マーガレット、王族として常に冷静でいないといけない。上に立つものが感情や私的な思惑に左右されるのは周りにも影響を与えるからね」
「………それは分かっていますわ」
不服そうに唇を尖らせる。
「分かっているなら実践して欲しいね。王宮の中でならまだしも、学校に入学したらそうはいかないから。アタナシア嬢もよろしく頼む。マーガレットが何かしそうであれば止めてくれ」
「……わかりました。グランツ陛下」
初対面でまだ信頼を勝ち取れている訳でもない私にも頼んでくるとは、どれほどお転婆なのかしら?
失礼であることを重々承知の上でマーガレット王女を凝視してしまう。
「さて、本題に入らせていただくがいいかな」
「勿論構いませんグランツ陛下」
私は居住まいをただし、背筋を伸ばすとグランツ陛下は一回咳払いをしてから話し始めた。
「アルメリア魔法学校はその名の通り、魔法を学ぶ学校だ。生徒は全員学校内の寮に入り、集団生活を行ってもらう。無論、留学生や私達王族も例外ではない。それに加えて、入学した新入生には男女のパートナーをつくってもらう」
「パートナーですか?」
「そう、パートナーだ。これは婚約者がいる貴族でも男女でパートナーを作ってもらわねばいけない。そのため、ギルバート殿下の婚約者であるアタナシア嬢も転入の際に同学年で作ってもらうのだが大丈夫かい?」
「えぇ、勿論構いませんが……」
それがどうしたと言うの? 私に今尋ねてくるということはほぼ決まっていて、最後に本人の確認を申し訳程度にしている風に見えるけど……それにこちらは留学させてもらう側、拒否するなんてこと出来ないしする必要も無い。
ギルバート殿下だって知っているはずだ。ギルバート殿下は私が留学するために必要な書類や、王家との調整などをしてくれていたから。
だけど彼は私には何も言ってこなかった。つまりギルバート殿下側としては、私がパートナーを作っても支障はないということ。
「それで、パートナーは魔力量と使える属性、爵位などを鑑みて決める。アタナシア嬢には既にそれらの精細な情報の書類をラスター公爵から貰っていたのでこちらが勝手に決めさせてらったのだが────」
「その結果、私が君のパートナーになるらしいけどいい?」
グランツ陛下の言葉を遮るように一歩前に出て私にとって爆弾発言をしたのはアレクシス殿下だった。
「………アレクシス殿下が私のパートナー? ですか?」
困惑気にアレクシス殿下に尋ねると肯定の返答が返ってきた。
「知っているかもしれないが、アレクシスには未だに婚約者が居ない。よって国内では王家との繋がりを持ちたい貴族たちが群がってくるんだ。そんな中、パートナーを貴族の中から選ぶとなると派閥争いが激しくなりかねない」
成程と思った。私がギルバート殿下の婚約者となっている今でもギルバート殿下に媚びを売る令嬢、貴族は後を絶たない。それが婚約者が居ないとなると………想像しただけでも大変なのがよく分かる。
「そこでギルバート殿下の婚約者であり、留学生であるアタナシア嬢ならば政治的にも大丈夫だろうと判断した。勿論、魔力量や適性に関しても学校の教師達と話し合った上での決定だ」
私を射抜くグランツ陛下の瞳は有無を言わさず、拒否権はないようだ。
これは先方の決めたことであるし、私にとっても見ず知らずの他国の貴族がパートナーになるより王族がパートナーであるほうが何かと便利であるだろう。
それにアレクシス殿下とは図書館前での出来事より前に会ったことは無いが、魔法の才能があると風の噂で聞いている。そんな人のパートナーになれれば私の目的の魔法を学ぶことにも助けになるかもしれない。
「構いません。アレクシス殿下、よろしくお願い致します」
私は頷きながらアレクシス殿下の方に視線を向ける。
「よろしくねアタナシア嬢。それでは父上はラスター公爵と話すことがありますよね。その間、私とマーガレットがアタナシア嬢に王宮を案内してきてもいいですか? 今の時期の庭園は花が咲き誇って綺麗ですので」
殿下は私に対して笑みを浮かべた後、グランツ陛下に尋ねられた。
「ふむ。そうだなしばらくラスター公爵と話をしなければならない。行ってきなさい」
陛下は少し考え、アレクシス殿下に許可を出した。
「まぁそれはいいですね! アタナシア様、こっちですわ!」
「えっあっ」
そうと決まったら! という風にマーガレット王女は私の手を取り、私達三人は部屋の外へと小走りに足を動かしたのだった。
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