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彼女の前世
episode6
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「はぁ」とため息をつく。
慌てて周りの者たちに聞こえてないか辺りを見渡す。が、誰も気づかなかったようでほっとする。
(良かった誰にも聞こえてない)
胸を撫で下ろし、正面の鏡を覗くと、そこには長いベールとウェディングドレスを着た新婦がいる。だが、その姿は幸福そうには見えない。
そんな新婦はこの帝国に一人しか居ないだろう。そう、鏡に映っている新婦というのは私だ。
ここは教会といってもレリーナが式を挙げた大聖堂ではなく、皇宮内にある小さな教会だ。皇宮に務めている者たちが休憩時間などで礼拝したり皇室の行事をしたりする場である。
本来、皇妃は式を挙げない。
皇宮内に保管されている皇族の家系図に名前を記入するだけで終わる。
だが今回は事情が事情であり、皇妃になると決まった頃にはウェディングドレスも、招待客も決まっていた。
それを覆すことは陛下でも不可能で、渋々皇宮内の教会で式を挙げることとなった。その為今、陛下の機嫌はすこぶる悪い。
何とかレリーナがそばに居ることで取り繕ってはいるが、私から見たら不機嫌なのが丸わかりだ。
「リティ、時間ですよ」
そう言って私のベールを降ろしたのは母だ。レリーナの時と違って私のベールを持つのは母と妹。
「はい」
覚悟を決めて立ち上がった私は、二人に付き添われて式場に続くドアの前に立ち、俯きながらヴァージンロードを歩く。
普通ならここを歩く新婦は幸福に満ち溢れているだろう。私は違う、誰からも祝福されずに嫁ぐのだから。
「新婦リーティア、貴方はここにいる皇帝アルバートを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
神父が問う。
私は一度瞳を閉じてまた開く。
「はい。誓います」
その瞳は覚悟を決めた瞳だった。
そしてこの瞬間一人の令嬢が皇妃となった。
式を挙げたあと、私はすぐに割り当てられた自室に戻る。部屋まで侍女が案内すると言っていたが丁重にお断りした。
何故なら侍女達もレリーナの味方で、自分のことを良く思っていないのを感じ取ったからだ。
初日から問題は起こしたくない。だから誰も付けず、一人でここまで歩いてきた。
家族は式が終わるとそそくさと帰っていってしまった。私という邪魔者が消えて清々したのだろう。唯一、妹だけがなにか言いたそうに口ごもっていたが、大したことでは無いはずだ。
それよりもこれからの生活の方が私の心を揺さぶる。
手始めというように、自室は皇宮内でも端っこの普通なら皇妃の部屋にしないと思われる所だった。
初めてここを見た時思わず笑ってしまった。そんなに私のことが疎ましいのかと。
リーナには案の定陛下の隣の大きな部屋が割り当てられたらしい。
明らかな差、こんなことで悩んでいたらやってられないと割り切ることにした私は、明日のすることを考える。
何故なら執務は明後日から捌いてくれればいいと宰相から言われたので明日やることが何も無い。
(どうしようかしら……本当にすることが無いわ)
寝台に横になり、それほど高くない天井を見上げながら思案する。散々悩んだ挙句明日は庭園でお茶をしてもいいか侍女に聞くことに決め、瞼を閉じる。
どうせ初夜だとしても陛下が来ることなんてあるわけがないのだから……。
慌てて周りの者たちに聞こえてないか辺りを見渡す。が、誰も気づかなかったようでほっとする。
(良かった誰にも聞こえてない)
胸を撫で下ろし、正面の鏡を覗くと、そこには長いベールとウェディングドレスを着た新婦がいる。だが、その姿は幸福そうには見えない。
そんな新婦はこの帝国に一人しか居ないだろう。そう、鏡に映っている新婦というのは私だ。
ここは教会といってもレリーナが式を挙げた大聖堂ではなく、皇宮内にある小さな教会だ。皇宮に務めている者たちが休憩時間などで礼拝したり皇室の行事をしたりする場である。
本来、皇妃は式を挙げない。
皇宮内に保管されている皇族の家系図に名前を記入するだけで終わる。
だが今回は事情が事情であり、皇妃になると決まった頃にはウェディングドレスも、招待客も決まっていた。
それを覆すことは陛下でも不可能で、渋々皇宮内の教会で式を挙げることとなった。その為今、陛下の機嫌はすこぶる悪い。
何とかレリーナがそばに居ることで取り繕ってはいるが、私から見たら不機嫌なのが丸わかりだ。
「リティ、時間ですよ」
そう言って私のベールを降ろしたのは母だ。レリーナの時と違って私のベールを持つのは母と妹。
「はい」
覚悟を決めて立ち上がった私は、二人に付き添われて式場に続くドアの前に立ち、俯きながらヴァージンロードを歩く。
普通ならここを歩く新婦は幸福に満ち溢れているだろう。私は違う、誰からも祝福されずに嫁ぐのだから。
「新婦リーティア、貴方はここにいる皇帝アルバートを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
神父が問う。
私は一度瞳を閉じてまた開く。
「はい。誓います」
その瞳は覚悟を決めた瞳だった。
そしてこの瞬間一人の令嬢が皇妃となった。
式を挙げたあと、私はすぐに割り当てられた自室に戻る。部屋まで侍女が案内すると言っていたが丁重にお断りした。
何故なら侍女達もレリーナの味方で、自分のことを良く思っていないのを感じ取ったからだ。
初日から問題は起こしたくない。だから誰も付けず、一人でここまで歩いてきた。
家族は式が終わるとそそくさと帰っていってしまった。私という邪魔者が消えて清々したのだろう。唯一、妹だけがなにか言いたそうに口ごもっていたが、大したことでは無いはずだ。
それよりもこれからの生活の方が私の心を揺さぶる。
手始めというように、自室は皇宮内でも端っこの普通なら皇妃の部屋にしないと思われる所だった。
初めてここを見た時思わず笑ってしまった。そんなに私のことが疎ましいのかと。
リーナには案の定陛下の隣の大きな部屋が割り当てられたらしい。
明らかな差、こんなことで悩んでいたらやってられないと割り切ることにした私は、明日のすることを考える。
何故なら執務は明後日から捌いてくれればいいと宰相から言われたので明日やることが何も無い。
(どうしようかしら……本当にすることが無いわ)
寝台に横になり、それほど高くない天井を見上げながら思案する。散々悩んだ挙句明日は庭園でお茶をしてもいいか侍女に聞くことに決め、瞼を閉じる。
どうせ初夜だとしても陛下が来ることなんてあるわけがないのだから……。
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