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第一章 幼少期編

第15話 『12歳の決意 - Side:リク -』

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ガル・キマイラ討伐から二年。

12歳になったリクとシルヴィアは、変わらない朝をいつもの山で迎える。

また少し、大人へと近づいた二人はこの日、ある決意をしていた。徐々に白み始める東の空を見つめていたリクは、後ろでベアの背中を撫でるシルヴィアへと振り返る。


「なあ、シル。・・・・・あれからさ、俺達は強くなれたのかな。・・・・心も、体も」


リクは握った拳を見つめ。そして、シルヴィアの眼を真っ直ぐに見つめて言う。

真剣な表情に、大人の男の雰囲気が少し混じり始めた少年の眼は、熱く。そして鋭い。


「あれから結構な数の討伐依頼があったけど・・・・リっくんも私も、ちょっと伸び悩んでる、かな」

困ったような笑顔を浮かべ、シルヴィアは吹き抜ける早朝の風に、気持ち良さそうに自身の栗色の髪を揺らす。長く伸びた美しい髪は、背中の中ほどにまで届いていた。

この二年間、二人は弛む事無く訓練に励み。時折、村にもたらされる討伐依頼を率先してこなし・・・努力を重ね、技と魔力マナ。そして連携を磨いてきた。

初めての討伐の際に放った技・・・『焔嵐フレアストーム』も何度かの練習の末に、今では完全にコントロールして発動出来るまでに至った。

余談だが、ネーミングはラルフ考案によるものだ。エリスは夫のネーミングにかなり難を示したのだが・・・


『カッコイイから良いんだよ!!』


と、良い笑顔で親指を立て言い切る姿に、大きな溜息を尽きつつ諦めた・・・というエピソードがあった。


それは兎も角、二年の間。二人の訓練内容は大きく変わる事は無く、新たな【スキル】の発現も無かった。

このままで良いのだろうか?あの魔物ガル・キマイラの様な敵がもし、複数で村を襲ってきたとしたら?自分達は大切な人達を、村を守り切れるのだろうか・・・

二人は、自分達がまだまだ力不足であると感じ、焦燥感に駆られるようにひたすらに訓練を続けた。そして・・・一つの考えに至る。


「やっぱりさ。俺達は、苦手を克服するのと、得意な技とか魔法とかを、もっと強化するのをやっていかなきゃって思うんだ。俺は・・・魔力マナの効率化が苦手だな」

「私は、体術と力を鍛えなきゃって思う。逆に得意なのは魔法だね・・・リっくんは剣とか、戦技が得意だよね」

「そうだな・・・そっちの方が得意なのは間違いない、かな。・・・だからさ、に頼もうと思うんだ。俺達の訓練内容を変えてくれ、って」

「・・・そう、だね。二人とも一緒の内容だと、出来る事が似かよりすぎちゃって、かえってダメなのかも・・・」

「俺さ、あの時からずっと。シルを、村のみんなを守れる様になりたい、ってずっと思ってる。だから・・・別メニューで、もっと強くなりたい」

「・・・うん。私も、同じ。リっくんと一緒にみんなを守りたい。リっくんの力になりたい・・・ずっと」


物心がついた時から、ほぼ今迄ずっと行動を共にしてきた二人は、この時初めて、別々の道を歩く事を決意した。

それは、互いが互いを守れる力を得る為。更なる成長の為に・・・『これからも同じ未来を見つめる』、その為の決断だった。

上り始めた朝日の中、幼馴染の二人は固く指切りをする。何度も交わして来た約束の印のやり取りだ。


「「絶対、強くなる。別々でも、ずっと一緒に強くなる」」


指を離し、晴れやかな笑顔でお互い向かい合う、そんな二人をベアが眠そうな目で見つめていた。


-----------------------


翌日から、リクの訓練内容は大幅に変わった。

朝一番は変わらず、シルヴィアと山まで行って帰ってくるいつものメニューだったが、そこからが違う。

単独でラルフの実戦訓練・・・一対一での剣を用いた真剣勝負を受ける事になったのだ。

【スキル】の使用を前提としている為、刃を落とした鉄製の剣を使用する。木製では、【戦技:火系統】で燃え尽きてしまうからだが、刃を落としていても木剣とは危険度が段違いだ。

当たり所や、力加減を間違えれば大怪我は免れない。

しかし。ラルフは最早、手加減をするつもりは殆ど無かった。息子が本気で挑み掛かってくる以上。父として、師匠として、本気で相手をするのが筋だと考えての事だ。


「一応言っておくが、今日の訓練から俺は最低限の加減しかしない。怪我をした時は自分で治せ。母さんやシルヴィアを頼るな。・・・・いいな?」

「解ってるよ、父さん。・・・いつも頼ってばっかじゃダメなんだ。俺にも、少しだけど解ったんだ・・・・だから!」


念の為、再度注意を促すラルフにリクは大きく頷いて・・・一気に奇襲を掛けた。

【疾走】の発動。ドウッ!!っという轟音と共に一瞬で距離を詰めるリクは、ラルフの喉笛を目掛けて刺突を放つが・・・・・


「甘い。奇襲なら話の最中に仕掛けるぐらいでなきゃな」

「!!・・・早ッ!?・・・・やばっ!【剛爆】ッ!!」


目にも止まらぬ猛スピードで繰り出した筈の刺突。あろうことか、ラルフはその一撃を軽く上体を捻るだけで簡単に躱す。と、同時に無防備になったリクの頭頂部へと肘を落とす。

しかし、リクも負けてはいない。目で捉える事が出来ない死角からの一撃。それを、空気の流れの変化で感じ取り、咄嗟に両足から風を爆ぜさせて迎撃する。

ラルフの肘は巻き起こる暴風に勢いを僅かに削がれ、ギリギリの所で回避に成功する。皮一枚の差だが、リクは手加減無しの反撃を避けたのだ。


「上手く避けた。・・・と言いたいが、体勢を立て直すのが遅い」

「って・・・・嘘だろ?!・・・ぐはっ!!!!」



一瞬、リクの【剛爆】の風で動きを阻害されたラルフは、すぐさま体勢を戻して前方へ跳躍・・・鋭く左拳を振り抜く。

それは狙い違わず。同じく体勢を戻し、再度攻撃を仕掛けるべく、構えようとしていたリクの腹部に深々と突き刺さる。

そして、命中インパクトの瞬間、風が大きく『爆ぜた』・・・ラルフの【剛爆】だ。同じ技でも威力は段違いで、リクは大きく後方に飛ばされる

苦悶の表情を浮かべ、地に突き刺した右手の鉄剣をブレーキに、必死に踏み留まるリク。圧倒的な実力差を見せつけられて尚、その目には未だ闘志の火が爛々と燃えていた。


「覚えておけよ。『決まった』だの『避けた』だの思った瞬間が、一番隙が出来る。相手の動きが完全に止まるまで気を抜くな、絶対にな」


「げほっ、ごほっ・・・・解っ・・・た・・・父・・・さん・・・」


構えは解かず、淡々と評価。そしてアドバイスを口にするラルフに、リクは腹部に左手を当てて治癒魔法を発動しつつ、むせ返りながら返事をする。

幸い、骨や内臓はやられては居ないものの、たったの一撃で甚大なダメージを貰ってしまった。

父に及ばないのは重々承知していたつもりだったが、想像していたよりも遥かにラルフは強かった。

鉄剣を握る右手に自然と汗をかく自分を奮い立たせ、リクは【壱式・紅蓮いっしき・ぐれん】を発動する。但し、纏わせて。


「ほう。・・・考えたな、それがお前の『効率化』って事か?」

「・・・そうでも有るけど、それだけでも無いよ。炎は『切れ味』には影響しないって解ったからね」


壱式・紅蓮いっしき・ぐれん】は、元々火系統の魔法を応用した戦技だ。炎を大きく纏わせれば、攻撃範囲の拡大や、延焼効果。対象へ火傷を負わせる事が期待できる、等の利点が生まれる。

但し、大量の魔力マナを消費する燃費の悪さが問題だった。毎日、魔力マナ総量を増やす為の訓練を積んできたリクにとっても、それは無視出来ない消費量である。

一戦一戦なら問題は無いが、連戦が続くような状況ではとても使用出来ない。

そこで、リクが着目したのが『炎は使わず、熱だけを纏わせる』方法だった。

それは、何度目かの魔物討伐の際、たまたま討伐対象の魔物の数が多く、魔力マナ切れ寸前に陥った時の事。

炎が消え。ただ、赤く熱された刀身で魔物を切り伏せた際の感触・・・切れ味が違う事に気が付いた。普段の使い慣れた剣が、明らかに通常よりも軽く、鋭い切れ味になったのだ。

偶然の発見だったが、以来リクは、シルヴィアに魔力マナの調整具合を監視して貰いつつ、赤熱化による切れ味の向上を試し続けてきた。

・・・図らずも、それは母・エリスに言われ続けてきた『魔力マナの効率化』の体現でもあった。


「これが切れ味に特化した・・・・【弐式・にしき・灼熱剣ヒートブレイド】だあッ!!」


鉄剣を限界手前まで熱し、赤い輝く灼熱剣ヒートブレイドを構えたリクが疾るはしる

その姿をみた父・・・ラルフは嬉しそうに笑うと、初めて剣を構えて迎え撃つのだった。

互いに段階ギアを上げ、・・・親子の真剣勝負が始まった。
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