上 下
14 / 73
第一章 幼少期編

第13話 『後片付けと、治療と』

しおりを挟む



先程まで、森であった場所にぽっかりと開いた広場。

そこへ、水魔法を広範囲に展開したエリスが人工的な雨を降らせていた。

炎の嵐は既に消え去った。しかし、その熱波の残滓ざんしは未だあちこちで燻っており、火災になる危険はまだ無くなっては居ないのだ。

万が一にも火の気が残らぬよう、エリスは念入りに消火活動を続ける。

魔力マナも、体力も、その殆どを出し尽くしたリクとシルヴィアは背中合わせで座り込み、以前に作らされた魔法具『魔力貯蔵具マナ・プール』から、貯め込んでいた魔力マナを取り出し、体へと流し込んでいた。

毎日、寝る前には残った魔力マナを注ぎ込み、こういった切羽詰まった状況の為にと備えるよう言い付けられてきたものだ。

貯蓄した魔力マナは元々、自分で注いだ物ならではの親和性を見せ、自然に吸収されてゆく。

そして、シルヴィアの【体力回復】を使い。子供達は、ほぼ完全に回復した。剣を片手に足元の草を薙ぎ、妻の消火活動を手伝っていたラルフは、立ち上がる子供達に声を掛ける。


「お前達、回復は終わったか?」

「うん。魔力マナは全快してないけどね。魔力貯蔵具マナ・プールが空になっちゃったよ」

「二人とも体力は十分ですけど・・・あ、私は魔力マナも大丈夫です」

「俺とエリスは暫くの間、火の気が残ってないかの確認と消火をしなきゃならん。お前達、手分けして騎士団員の怪我を直してやれ」


リクとシルヴィアの状態を確認し、一つ頷いたラルフは二人に、騎士団員へ治癒魔法を掛ける様にと指示する。

見れば、重篤な騎士こそエリスによって治療を施されているが、未だ多数の騎士は大小、程度は異なるが怪我を負ったままだった。

リクもそれなりに治癒系統の魔法は扱えるようになっており、シルヴィアに至っては言わずもがな、だ。

早速二人は、騎士団員の休息する場所へと歩き出す。少し離れた場所で、団員たちは兜を脱ぎ、その場にへたり込むように座っていた

そこで初めて、騎士団員たちが思ったよりも若い男女の集団である事を、リクとシルヴィアは初めて知った。

ある若い男性騎士は、腕に巻かれた包帯に滲む血に顔を顰め。また別の若い女性騎士は、腹部を手で押さえ苦悶の表情を浮かべている。

かろうじて重症一歩手前、といった姿を晒している騎士達は、まだヒヨッコと言うだけあってか、20歳に満たない者ばかりだったのだ。


「男の人の方が多くて・・・傷も深そう。リっくん、私、男の騎士の人を治療するね?」

「解った。じゃあ、俺が女の騎士さんを治せばいいんだね。んじゃ、始めよっか!」


内訳は、男性騎士8人をシルヴィア。女性騎士2人をリクが担当。二人は頷きあい、それぞれ魔力マナを高めてゆく。

まずはシルヴィアだ。目を閉じた彼女は、ゆっくり、大きく両腕を広げるように緑色に輝く治癒の光を解き放った。


「【広域治癒】、【体力回復】、【心身安定化】・・・・えいっ!!」


掛け声と共に、シルヴィアから放たれた治癒の光が、円を描くように騎士たちを包み込み、半ドーム状の結界のような形に安定する。

複数人同時の傷の治療、体力の回復、そして心と体をリラックスさせる効果を持続的に行う、『治癒の空間』だ。


「お・・・おお?・・・傷が癒えていく・・・痛みが無くなったぞ?」

「ちょっと待て!何か、体力が急激に戻ってきてないか!?さっきまでの疲労が・・・」

「ああ・・・傷だけじゃない。この、心も体も癒される感じ・・・」

「しかし・・・あの女の子、今、一度に魔法・・・幾つ使ったん・・・・だ?」


一様に驚き、そして、急速に回復してゆく自分達の心と体に、緊張の極致に晒され続けていた若き騎士達が、安堵の表情を浮かべる。

彼等は、その効果に驚き。更に、シルヴィアが『同時に三つの魔法を行使した事』に呆然としていた。

一方でリクの方は、両手に治癒魔法をそれぞれ発動させ、二人の女性騎士の治療にあたる。


「ううっ・・・わ、私達は・・・大丈夫、だから・・・・」

「お姉さん達、痛いだろうけど少しだけ、手をどかさせて貰うね。・・・よしっと。【大治癒】、二人掛け!」

「・・・・・・えっ!?・・・・ええっ?!」


痛みに顔を歪めていた女性騎士の手を、慎重に患部から引き剥がして、自らの小さな手をそれぞれに翳す。

治癒の光。その色は緑色に変わりは無いが、シルヴィアの物より少し黄色に寄った緑色だ。

シルヴィア程の治癒魔法は使えない、リクなりの強化魔法【大治癒】は、【肉体強化フィジカル・ブースト】を重ね掛けする事で、自然治癒力を高めて回復を促す仕組みだった。

効果はすぐに現れ。女性騎士たちは目を瞬かせて、傷の癒えた腹部を手で擦る。

そして、傷一つ残っていない事を確認すると、今度こそ大きく息を吐いて脱力する。こちらも緊張の糸が切れたのだろう。


「大丈夫?お姉さん達、痛くない?」

「・・・ありがとうね。ホントにもう大丈夫よ。・・・凄いのね、君達・・・」

「・・・へへっ、どういたしまして。褒めてくれてありがと!!」


お礼の言葉と褒められた事に気を良くするリクは、白い歯を見せてニカっと笑う。

その子供らしい屈託のない笑顔に、二人の女性騎士は、思わず胸を打ち抜かれてしまった。

実力が残念なのは、経験不足と訓練不足故だが、中身も相当残念な素質を持ち合わせているのかも知れない。

そして・・・シルヴィアと男性騎士たちの方でもまた、似たような残念な光景が繰り広げられていた。


「ええっと・・・皆さん、もう痛いところとか、辛い感じとか、無いですか?良かったら治します・・・よ?」

「「「いいえ!!もう自分達は大丈夫です!!本当にありがとう!心優しき少女よ!!」」」

「ふえぇっ!?・・・よ、良かったです・・・」


8人の男性騎士が右手を胸に当て、直立不動でシルヴィアにお礼を述べていた。一糸乱れぬ、無駄に統率が取れた動きと声に驚いたものの、彼女もまた笑顔で応えるのだった。


(騎士団の若手は紳士ロリコン淑女ショタコンの素質を持つ者が多いとかじゃないわよね・・・)


一通りの消火を終え、子供達の様子を見ていたエリスは頭痛がする思いだった。

その心配は杞憂に終わるのだが、別の問題は発生した。

少し後に、王都に無事帰還した騎士団員達は、口々に出会った少年と少女の事を褒め称えつつ、仲間達や家族に語ったのだ。

『小さな勇者と優しい神子に救われた』と、かなりの尾ひれが付いた物を・・・


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガタリアの図書館で

空川億里
ファンタジー
(物語)  ミルルーシュ大陸の西方にあるガタリア国内の東の方にあるソランド村の少女パムは両親を亡くし伯母の元へ引き取られるのだが、そこでのいじめに耐えかねて家を出る。  そんな彼女の人生には、思わぬ事件が待ち受けていた。    最初1話完結で発表した本作ですが、最初の話をプロローグとして、今後続けて執筆・発表いたしますので、よろしくお願いします。 登場人物 パム    ソランド村で生まれ育った少女。17歳。 チャーダラ・トワメク    チャーダラ伯爵家の長男で、準伯爵。 シェンカ・キュルン 女性の魔導士。 ダランサ 矛の使い手。ミルルーシュ大陸の海を隔てて南方にあるザイカン大陸北部に住む「砂漠の民」の出身。髪は弁髪に結っている。 人間以外の種族 フィア・ルー 大人の平均身長が1グラウト(約20センチ)。トンボのような羽で、空を飛べる。男女問わず緑色の髪は、短く刈り込んでいる。 地名など パロップ城 ガタリア王国南部にある温暖な都市。有名なパロップ図書館がある。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

婚約破棄ですか? 無理ですよ?

星宮歌
恋愛
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」 そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。 「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」 それはそれは、美しい笑顔で。 この作品は、『前編、中編、後編』にプラスして『裏前編、裏後編、ユミル・マーシャルというご令嬢』の六話で構成しております。 そして……多分、最終話『ユミル・マーシャルというご令嬢』まで読んだら、ガッツリざまぁ状態として認識できるはずっ(割と怖いですけど(笑))。 それでは、どうぞ!

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...