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第一章 幼少期編
第13話 『後片付けと、治療と』
しおりを挟む先程まで、森であった場所にぽっかりと開いた広場。
そこへ、水魔法を広範囲に展開したエリスが人工的な雨を降らせていた。
炎の嵐は既に消え去った。しかし、その熱波の残滓は未だあちこちで燻っており、火災になる危険はまだ無くなっては居ないのだ。
万が一にも火の気が残らぬよう、エリスは念入りに消火活動を続ける。
魔力も、体力も、その殆どを出し尽くしたリクとシルヴィアは背中合わせで座り込み、以前に作らされた魔法具『魔力貯蔵具』から、貯め込んでいた魔力を取り出し、体へと流し込んでいた。
毎日、寝る前には残った魔力を注ぎ込み、こういった切羽詰まった状況の為にと備えるよう言い付けられてきたものだ。
貯蓄した魔力は元々、自分で注いだ物ならではの親和性を見せ、自然に吸収されてゆく。
そして、シルヴィアの【体力回復】を使い。子供達は、ほぼ完全に回復した。剣を片手に足元の草を薙ぎ、妻の消火活動を手伝っていたラルフは、立ち上がる子供達に声を掛ける。
「お前達、回復は終わったか?」
「うん。魔力は全快してないけどね。魔力貯蔵具が空になっちゃったよ」
「二人とも体力は十分ですけど・・・あ、私は魔力も大丈夫です」
「俺とエリスは暫くの間、火の気が残ってないかの確認と消火をしなきゃならん。お前達、手分けして騎士団員の怪我を直してやれ」
リクとシルヴィアの状態を確認し、一つ頷いたラルフは二人に、騎士団員へ治癒魔法を掛ける様にと指示する。
見れば、重篤な騎士こそエリスによって治療を施されているが、未だ多数の騎士は大小、程度は異なるが怪我を負ったままだった。
リクもそれなりに治癒系統の魔法は扱えるようになっており、シルヴィアに至っては言わずもがな、だ。
早速二人は、騎士団員の休息する場所へと歩き出す。少し離れた場所で、団員たちは兜を脱ぎ、その場にへたり込むように座っていた
そこで初めて、騎士団員たちが思ったよりも若い男女の集団である事を、リクとシルヴィアは初めて知った。
ある若い男性騎士は、腕に巻かれた包帯に滲む血に顔を顰め。また別の若い女性騎士は、腹部を手で押さえ苦悶の表情を浮かべている。
かろうじて重症一歩手前、といった姿を晒している騎士達は、まだヒヨッコと言うだけあってか、20歳に満たない者ばかりだったのだ。
「男の人の方が多くて・・・傷も深そう。リっくん、私、男の騎士の人を治療するね?」
「解った。じゃあ、俺が女の騎士さんを治せばいいんだね。んじゃ、始めよっか!」
内訳は、男性騎士8人をシルヴィア。女性騎士2人をリクが担当。二人は頷きあい、それぞれ魔力を高めてゆく。
まずはシルヴィアだ。目を閉じた彼女は、ゆっくり、大きく両腕を広げるように緑色に輝く治癒の光を解き放った。
「【広域治癒】、【体力回復】、【心身安定化】・・・・えいっ!!」
掛け声と共に、シルヴィアから放たれた治癒の光が、円を描くように騎士たちを包み込み、半ドーム状の結界のような形に安定する。
複数人同時の傷の治療、体力の回復、そして心と体をリラックスさせる効果を持続的に行う、『治癒の空間』だ。
「お・・・おお?・・・傷が癒えていく・・・痛みが無くなったぞ?」
「ちょっと待て!何か、体力が急激に戻ってきてないか!?さっきまでの疲労が・・・」
「ああ・・・傷だけじゃない。この、心も体も癒される感じ・・・」
「しかし・・・あの女の子、今、一度に魔法・・・幾つ使ったん・・・・だ?」
一様に驚き、そして、急速に回復してゆく自分達の心と体に、緊張の極致に晒され続けていた若き騎士達が、安堵の表情を浮かべる。
彼等は、その効果に驚き。更に、シルヴィアが『同時に三つの魔法を行使した事』に呆然としていた。
一方でリクの方は、両手に治癒魔法をそれぞれ発動させ、二人の女性騎士の治療にあたる。
「ううっ・・・わ、私達は・・・大丈夫、だから・・・・」
「お姉さん達、痛いだろうけど少しだけ、手をどかさせて貰うね。・・・よしっと。【大治癒】、二人掛け!」
「・・・・・・えっ!?・・・・ええっ?!」
痛みに顔を歪めていた女性騎士の手を、慎重に患部から引き剥がして、自らの小さな手をそれぞれに翳す。
治癒の光。その色は緑色に変わりは無いが、シルヴィアの物より少し黄色に寄った緑色だ。
シルヴィア程の治癒魔法は使えない、リクなりの強化魔法【大治癒】は、【肉体強化】を重ね掛けする事で、自然治癒力を高めて回復を促す仕組みだった。
効果はすぐに現れ。女性騎士たちは目を瞬かせて、傷の癒えた腹部を手で擦る。
そして、傷一つ残っていない事を確認すると、今度こそ大きく息を吐いて脱力する。こちらも緊張の糸が切れたのだろう。
「大丈夫?お姉さん達、痛くない?」
「・・・ありがとうね。ホントにもう大丈夫よ。・・・凄いのね、君達・・・」
「・・・へへっ、どういたしまして。褒めてくれてありがと!!」
お礼の言葉と褒められた事に気を良くするリクは、白い歯を見せてニカっと笑う。
その子供らしい屈託のない笑顔に、二人の女性騎士は、思わず胸を打ち抜かれてしまった。
実力が残念なのは、経験不足と訓練不足故だが、中身も相当残念な素質を持ち合わせているのかも知れない。
そして・・・シルヴィアと男性騎士たちの方でもまた、似たような残念な光景が繰り広げられていた。
「ええっと・・・皆さん、もう痛いところとか、辛い感じとか、無いですか?良かったら治します・・・よ?」
「「「いいえ!!もう自分達は大丈夫です!!本当にありがとう!心優しき少女よ!!」」」
「ふえぇっ!?・・・よ、良かったです・・・」
8人の男性騎士が右手を胸に当て、直立不動でシルヴィアにお礼を述べていた。一糸乱れぬ、無駄に統率が取れた動きと声に驚いたものの、彼女もまた笑顔で応えるのだった。
(騎士団の若手は紳士や淑女の素質を持つ者が多いとかじゃないわよね・・・)
一通りの消火を終え、子供達の様子を見ていたエリスは頭痛がする思いだった。
その心配は杞憂に終わるのだが、別の問題は発生した。
少し後に、王都に無事帰還した騎士団員達は、口々に出会った少年と少女の事を褒め称えつつ、仲間達や家族に語ったのだ。
『小さな勇者と優しい神子に救われた』と、かなりの尾ひれが付いた物を・・・
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