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29 フィリアンのカクテル

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俺とフィリアンはバーカウンターでカクテル作りに没頭していた。

まぁ・・・なんというか、色気もへったくれもねぇ・・・

ベースになりそうな酒を色々並べて好きなのを使えっていうスタイルだ。

ジュース関係は一通り冷蔵庫に入ってる。

俺はこの昆布茶酒をどうしてやろうか頭を悩ませてるんだが・・・

これ自体塩味だ・・・アルコールも入ってる・・・

果物系は軒並み失敗した

どうにも海藻臭さと合わないのだ・・・

脳裏に閃く一杯のお茶・・・

そうだ!梅昆布茶だ!

こいつをどうにか・・・単に梅をこの酒に合わせればいいのか?

しかし・・・それでは芸が無い・・・

梅昆布茶酒の調合に満足した後は。他との組み合わせを考える・・・

コブショットってカクテルがあったよな・・・ウォッカとお湯を使ったホットカクテル・・・

しか~し、真似だけではバーテンダーとしてどうなんだ?

そんな思いで他の酒との組み合わせを試していく・・・

び・・・微妙だ・・・元々の方が上手いじゃないか!

梅昆布茶酒は完成度が高すぎる!


そんな俺の苦悩を横目にフィリアンも色々と試している



フィリアンはライムジュースが気に入ったようだ、ホワイトラムとドライベルモットを味見してシェイカーに入れる

首をかしげながらブランデー、ドライジンで調整していく

最後にライムジュースを注いだ・・・

一口飲んだ後、グラスに注いで割合を変えて作っていく・・・

「むふふっ」

嬉しそうに笑うフィリアン

ん~でもなぁ、その割合とレシピはなぁ・・・

俺は知っていた、フィリアンの作ったカクテルを・・・



【アディオス・アミゴス】
ライム・ジュース20m
ホワイト・ラム40ml
ブランデー20ml
ドライ・ジン20ml
ドライ・ベルモット20ml

まさにこれだな・・・

聞いた事があるフレーズだと思うが、複数形になってる所がミソかな

(長期間の)友人達との別れって意味合いだ

死んだ仲間に使われるのがこれだね。


小ネタとしてはちょっとの別れはチャオが使われる

知ったかぶりで学校帰りにアディオスとか言う奴がいたが、転校でもするのか?ってツッコミを入れてあげよう



話は逸れたが、出来上がった物の味見をお願いされる。

「うん、イイネ、シェイカーの扱いも上手くなったなぁ」

満面の笑み、嬉しそうなフィリアンにグッとくる物があるが・・・

「アディオス・アミゴスってカクテルだね、美味しいよ」

「やっぱり先に作った人がいらっしゃいましたか」

ちょっと残念そうなフィリアンだが

「自力でこの味に辿り着けたんだから凄くセンスがあると思う。俺以上かもよ」

誉め言葉に涙を浮かべる

「そんな・・・ハル様を超えるなんて・・・」

実際俺のレシピは偉大なバーテンダー達が作ったもの、そのアレンジでしかない。

前知識無しで酒を組み合わせる事ができるのは凄い事だと思う。

「まったく俺の知らないカクテルを作りたかったら、こっちの世界の酒を使えば早いと思うよ」

そう、こっちの世界の酒を使ったカクテルのレシピなんて持ち合わせていない

この前火酒を使って作った奴くらいだ。

「わかりました、やってみます。」

そう言って再びカクテル作りを始めるのだった。



俺の方は・・・というと、昆布茶酒カクテルに悩み続けてる・・・

薄塩味・・・やっぱりテキーラか・・・

梅昆布茶酒にテキーラ、炭酸水を入れて飲んでみる・・・

テキーラが邪魔だ・・・

だが、味のふくらみがもう少し欲しい・・・

中々思う通りに進まない俺は

「ああぁぁぁぁぁぁ~」っと叫ぶと厨房に行く

そして、魚を捌き始める。

「ハル様?」

「いや、気にしなくていい、気分転換に飯を作るだけ」

先日釣った鯛を使っての鯛めしだ・・・

醤油・・・砂糖・・・出汁・・・酒・・・酒・・・?


「日本酒?・・・合うんじゃね?」

鯛めしを炊飯器にセットしてバーカウンターに戻る

とりあえず日本酒と梅昆布茶酒をハーフ&ハーフで作ってみる。

「ん・・・日本酒は半分でいい・・・」

調整を繰り返す・・・

「味、バランスもいいんだが・・・何か・・・」

ふと思い立ったかのように日本酒と梅昆布酒を湯煎にかける・・・

そして新たに作り直す

「ん・・・OK、これはいい!」

フィリアンにも味見を頼む

「・・・飲みやすくて優しい味ですね、ほっこりします」

一応完成としてレシピを紙に保存する。

熱燗は盲点だったな・・・

冬場に売れそうなカクテルだ・・・冬は遠いが・・・


フィリアンの方は・・・

グラスランドの苦酒とライムジュース、アプリコットブランデーで合わせている・・・

ふむ、面白い組み合わせだ・・・

どうしてもライムジュースが使いたいらしい・・・

苦酒の風味とライムジュースは合うと思う。

苦みを緩和する甘めのアプリコットブランデーか・・・

頭の中で味をイメージする・・・

うん、美味しいかも・・・

苦酒の癖が強すぎてアプリコットブランデーとのバランス調整に苦労している。

まぁ・・・あれの取り扱いは難しいよな・・・

そう、一人呟き厨房へ向かった。


「汁物を作るか・・・」

鯛のアラやエビの頭、カニなんかで出汁をとっていく

勇者が採ってきたエビやハマグリに似た貝を具材に決め海鮮汁を作っていく。

勿論、味噌味だ。

「贅沢な味噌汁だな・・・たまにはいいか・・・」

たま~に来るお客様の相手をしながら、俺とフィリアンはカクテルの研究をする。

これこそが平穏!素晴らしい!

そう心で思う俺だった。


そうこうしてるとフィリアンが嬉しそうにカクテルグラスを持って来る

上手くできたようだ。

「できました!味見をお願いします!」

俺はグラスを受け取ると香りを嗅ぐ

ライムの清々しい香りとアプリコットの甘い匂い

アクセントにはちょうどいい薬草の香り・・・使い方はハーブに近いかな・・・

ゆっくり一口・・・舌の上で転がすように味わう・・・

ライムの酸味とアプリコットブランデーの甘味が苦酒の苦みを緩和させる。

苦味が不快ではなく心地いいレベル。

「これはいいね!うん美味しいよ!間違いなく初めて飲むカクテルだ!」

「よかったです、アプリコットブランデーと苦酒のバランスが凄く難しくて心が折れそうになりました」

嬉しそうに報告するフィリアンにほっこりする。

「名前をつけなきゃね」

俺の言葉にフィリアンは考え込む・・・

「どんな名前がいいでしょう?」

質問を返された・・・返答を疑問形で返す奴は戦場で死ぬぞ・・・

「作者の名前が付けられたカクテルも多いから【フィリアン】なんかいいんじゃない?」

初めて作ったオリジナルカクテルだしね

「え?私の名前でいいんですか?」

「初めて作った記念に自分の名前を付けたっていいだろ?」

そんなわけで、この新作カクテルは【フィリアン】に決定した。

「これは店で出してもいいね」

そういうととても誇らしげに笑うフィリアンだった。









後に様々なオリジナルカクテルを世に送り出し称賛を浴びる伝説のバーテンダーになるフィリアンだったが

その伝説の第一歩はここで作られたこのカクテルだったのだろう

ハーフエルフの長寿命で俺の死後も店を守り続け、あちこちから誘いがあったがすべて断り

最後まで俺がプレゼントしたシェイカーを離さなかった。

後のバーテンダーはフィリアンのブレンドセンスは神に等しいと評価し、

その才能を見出した俺を『バーテンダーの開祖』と語り継いだのはまた別の話・・・
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