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騎士団編

84.ふくたいちょうのいでんし

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ダスティンさんに2日連続で夜まで話をさせられた翌日......。
俺は剣術隊の訓練を視察しに来ていた。
騎士団の部隊は順番に街をパトロールして魔獣が来たら本部に知らせるのが主な仕事だが、それがない時は基本的に訓練をしている。
まあうちの母さんは例外でお茶会をしてサボってるんだけど。

俺とアリスは将来の総司令官として、これからそんな全部隊の訓練を回ることになっている。
まずは各々の適正と同じ部隊を、ということで俺は剣術隊を視察しに来ているのだ。


「ほらそこ!腰が入ってないぞ!もっとぐっと腰を入れるんだ!......ってあれ?ルーシャスじゃないか?」


昔と変わらず感覚的な熱血指導をしていた父さんが俺に気づく。父さんの指導は言葉になってないから理解するのに時間がかかるんだよなあ。


「久しぶり、父さん。今日は剣術隊の視察に来たんだ」


「そうかそうか!ぜひこいつらを一緒にしごいてやってくれ!お前よりへっぽこなやつばっかりだからな!」


そう言って豪快に笑う父さん。俺と2年ぶりに会ったことで少しテンションが上がっているようだ。相変わらず子どもみたいな人だなあ。

え?家では父さんに会ってなかったのかって?
それがちょうど俺が帰ってきてから父さんは夜勤が続いてて、休みの日もずっと寝てたから会ってないんだよな。
父さんは剣術隊の隊長でダスティンさんやカーロス国王からの信頼もある。だから人間の魔獣対策で王室の警備をしたり、剣術隊の夜のパトロールを率いたりで夜勤続きだったらしい。隊長も大変だ。


「それにしても割と人数は少ないんだね。これで全員?」


俺が見渡すと、そこには約10人の騎士たち。かなり少ないが、騎士団の規模ってこんなもんなのか?


「いや、それがだな......」


父さんは突然神妙な面持ちで話し出す。
聞くと、最近魔獣の襲撃が増えていてそれに伴って負傷者が増えているらしい。
単純に休みの隊員もいたり訓練に参加していないベテラン隊員もいるので、若い隊員を集めて訓練をしているそうだ。

だが俺はその中に1人明らかに動きが違う隊員がいることに気づいていた。
銀色の短髪に真っ黒な鋭い目をした30代くらいの隊員。双剣を使い、擬似魔獣を次々と倒していく。
その隊員を目で追っていると、俺の視線に気づいたのか訓練を中断してこちらへやって来た。
勘のいい方はお気づきだろうが、彼こそジェームズの父親、イアン・オルグレンである。


「やあルーシャスくん久しぶり!飛び級2回で小学校と高校を卒業したんだって?やるじゃないか」


「イアンさんお久しぶりです。いつもジェームズにはお世話になってます」


「はは、お世話されてるのはどっちなんだろうね?とりあえず、王国騎士団へようこそ!期待の新星くん」


戦っている時とは違う優しい眼差しで俺に話してくれるイアンさん。
彼はうちの父さんの補佐で、剣術隊副隊長だ。
ジェームズの家に手合わせに行っていた頃何度か会ったことがあるが、見ての通り気さくな人物だ。
それでいてしっかりしていて、テンションが上がると暴走しがちなうちの父さんを宥める役目を担っている。

これだけ聞くとかなりいい人に思えるが、実はイアンさんの特徴はこれだけじゃない。


「ところでジェームズは高校ではどうだった?ちゃんと三点倒立をマスターしていたかい?」


「何マスターさせようとしてんだ!出来てどうなるんだよ!!」


「その後も倒立、倒立歩行、倒立前転と続くからね。倒立の道は険しいよ?」


「だからなんなんだよ!!倒立の道極める気ねえわ!!」


「まあルーシャスくんなら倒立リフティングぐらいできるんだろうね。やっぱり君はすごいよ!」


「できねえしやろうと思ったこともねえわ!なんだ倒立リフティングって!」


「え?倒立の状態を保って誰かにボール代わりにリフティングしてもらうことだけど?」


「リフティングされる方かよ!!空中にいる時がシュールすぎるわ!!」


そう、ジェームズのボケ癖は彼から遺伝しているのだ。似るのは双剣を使うところだけで良かったのに......。

イアンさんは剣術隊副隊長という肩書きのせいで他の隊員からあまり気軽に話しかけられない。それはうちの父さんもそうだが。
だけどイアンさんはボケたがりなので、ツッコミを入れてくれる人が大好きなのだ。

あれは確か俺とジェームズが5歳の時だったか、俺たちが手合わせをしてから話しているのを聞いたイアンさんが目を輝かせながら俺のところへ話に来たのを覚えている。
あの時からイアンさんは俺と話す時必ずふざけるようになった。

最初は俺も遠慮していたが、何回か話すうちにこいつは大きいジェームズだと思うようになった。ということで遠慮なくツッコミを入れているのだ。


「いやーやっぱり君のツッコミは気持ちがいいね。どんどんボケたくなっちゃうよ!」


「いやまじ止めてもらっていいですか?ツッコミも疲れるんですよ?」


「おっと、それはフリかな?しかし君が騎士団に入ったということは、出勤すれば君がいる確率も高いということだ!遠慮なく顔を出しに行かせてもらうよ!」


「頼むから誰か代わりのツッコミ見つけてくださいよ......」


声を弾ませるイアンさんと対照的に、この先を憂う俺なのだった。
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