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高校生編

74.とくべつじゅぎょう

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 時は過ぎて夏休み初日。俺はブラウン先生のいる職員室へと向かっていた。

 高校にも夏休みというものはある。が、寮にいる1年生は帰宅を禁じられている。
 高校は大人になる為の訓練をするところという位置づけでもあるので、1年間は完全に寮で生活をするのだ。

 だが俺たち上級生は特に帰宅を禁じられてはいない。1年間の強制寮生活の期間を終えたからだ。

 それでも俺は人間の魔獣や転移魔法陣についてもっと調べたいので帰らないことにしている。俺が200年前に行って倒した人間の魔獣、レオンは父さんと母さんが言っていたように人間同士を戦わせるということをしなかった。
 つまり、人間の魔獣についての話は歴史上何度か現れた人間の魔獣の話が混じって伝わっている可能性がある。

 レオンからは人間の魔獣についての基本的な情報を聞き出せた。しかし俺のところに現れた人間の魔獣を倒すには、他の人間の魔獣についても知る必要がありそうだと考えている。

 その為には転移魔法陣を使うかもしれないので、俺は寮に残ることにしたのだ。
 ちなみにアリスとエリック先輩も寮に残るそうだ。魔法陣の研究と、もし俺が過去に行って人間の魔獣と戦うことがあればそのサポートをする為だと言っていた。なんてありがたい......。

 とは言うものの、夏休み初日の今日はブラウン先生と2人きりで特別授業だ。
 なんか怪しい言い回しになってしまったが、特に変なことをするわけではない。
 魔獣について詳しいブラウン先生から、人間の魔獣について教えてもらうだけだ。......本当だよ!?


「おうグレイステネス!来たか!」


 俺が脳内でわけわからん弁明をしていると、職員室のドアが開いてブラウン先生が顔を出した。


「こんにちはブラウン先生。今日はよろしくお願いします!」


「任しとけ!じゃあ空き教室に行くぞ!」


 大股で歩き出すブラウン先生の後を追う。
 着いた先はいつもの空き教室。俺がブラウン先生の補習を受けているところだ。


「それで、今日は人間の魔獣について知りたいんだったな。実際に200年前に行ってレオンに会ってどう思った?」


「聞かされていた話と少し違うな、と......。人間の魔獣は貴族と一般市民を戦わせ、人間同士で潰し合いに持ち込むという話でしたけど、レオンはそんなことはしていなかった。俺の予想では、人間の魔獣はあの後何度か現れているんじゃないでしょうか?」


 俺が答えると、ブラウン先生は満足そうに頷く。鍛え上げられた胸鎖乳突筋がしなやかに動く。相変わらずムッキムキだな。


「お前の言う通り、人間の魔獣はジェルダーリ王国の歴史に何度か現れたという説がある。お前が会ったレオンは、最初の人間の魔獣と言われているんだ」


「やっぱりそうなんですね......他の人間の魔獣はどんな奴らなんです?」


「順番に紹介していこう。これはあくまで記録上のものだから、もし気になるならまた俺に声をかけて実際に会いに行ってみてもいいかもな」


 そう言うとブラウン先生は黒板に簡単な年表を書き始めた。
 学校の先生が得意な、チョークでカカカッと点線を引くやつもやってた。やっぱあれ先生なら誰でもできんのかな。


「まず2番目の人間の魔獣は今から約130年前、つまりレオンが現れてから約70年後に現れた。この時にはもう人間社会では身分制が確立され、王族、貴族、一般市民に分かれていた」


「おお、てことはこいつが人間同士を戦わせたとかいう魔獣ですか?」


「いや、こいつはその魔獣じゃない。こいつは自ら街に繰り出して闇魔法で作り出した偽金を使い、米を買い占めた。貴族も一般市民もみんな米が食えなくなり、この魔獣のところへデモをしに行ったそうだ」


「米騒動じゃねえか!!確かにちょっと困るけど代替品は十分あるわ!」


「3番目に現れた人間の魔獣は闇魔法で作り出したスタンドマイクを使い、漫談をして人々を笑いの渦に巻き込んだ。中には笑いすぎて笑い死にする人もいたらしい。人呼んで、笑いのニューウェーブだ」


「もう陣○智則じゃねえか!!笑いで人を殺すのはただの芸人の夢だろ!!」


 なんでそんなふざけたやつばっかりなんだよ......。いや、確かに俺のところに現れたやつに比べたらレオンはやけに真面目なキャラだったなとは思ったけどさ。他のやつふざけ過ぎだろ。


「そして最も直近で現れたのが、今から約60年前に現れた人間の魔獣だ。こいつが人間同士を戦わせた張本人だ」


「めっちゃ最近じゃないですか!だから人間の魔獣はそういうものって伝わっちゃったのか......」


「この4番目の人間の魔獣は、貴族は一般市民のプリンを食べたぞとあらぬことを吹き込み、一般市民は貴族のチョコレートを食べたぞとこちらもあらぬことを吹き込んだ。それで人間同士の大戦争が始まったんだ」


「馬鹿ばっかりか!!なんだその兄弟喧嘩みたいな原因!?」


「ここで人間たちを救った剣士がいた。魔獣の言ったことは嘘だと言い放ち、一般市民にはプリンを、貴族にはチョコレートを配ることで解決した。それが夜明けの時刻だったことから、暁の剣士と呼ばれている。これは、200年前に現れたのと同一人物だという説がある」


 うん俺だねこれ。多分近いうちに60年前に行かなきゃいけないことが確定したわ。
 なんで俺こんな馬鹿みたいな戦争収めに行かなきゃならんの!?まあこんなんでも収めないと人類滅びちゃうしな......。

 アホな戦争に終止符を打たなければならなくなった俺は、「暁の剣士」となった自分の運命を嘆くのだった。
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