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幼年編

24.るーしゃすのゆううつ

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ゴトゴトゴト……。
馬車の車輪が転がる音を聞きながら、俺は大きな溜息をつく。


「どうしたルーシャス?1週間しか地上にいられないセミ達の運命を嘆いてるのか?」


「何をどうしたらその解釈になるんだ」


向かいに座るジェームズのボケへの反応もいつもより薄い。もっとも、ジェームズ自身は平常運転のようだが。



















前回の気の抜けた雰囲気から一変、緊張感の中で俺たちがこうして馬車に乗っているのには当然理由がある。
それは今朝、朝ごはんを食べている時のことだったーー。
































「はあ⁉︎1等貴族ぅ⁉︎」


「ああ、そうだ」


突然父さんが真剣な顔で俺に話した内容は、ミーナちゃんが作った朱雀型のポテトサラダを噴きださせるには十分なものだった。

それは、今日ジェームズと一緒に騎士団の全部隊をまとめている1等貴族の一人娘に挨拶に行け、というものだ。
なんでも、2等貴族の家庭に生まれた男児はある程度成長すると1等貴族の娘に挨拶に行くのが慣わしなんだとか。
稀にその挨拶で気に入られた男児は、そのまま結婚して1等貴族になっちゃうこともあるらしい。

ミーナちゃんにいつ買ってきたのか、カッチリとしたスーツを着せられ、いそいそと馬車に乗り込んだものの、会ったことのない女の子、それも国1番の貴族の娘さんに挨拶に行くのは気がひける。
元日本人だからか、こういった貴族のしきたりには苦手意識もあり、俺の気分を暗くしている。
そういえば入試の面接の時もこんな感じだったな……。























「ルーシャス…そんなに気負うこと無いんじゃないか?セミ達の運命はお前にもどうしようも出来ないんだから」


「だからセミじゃねえっつってんだろ⁉︎」


相変わらずなジェームズに呆れる一方、その普段通りな様子を見て少し元気になっている自分がいることに気づいて苦笑する。

俺と違って元々この世界の住民であることに加え、あいつには緊張という概念がない。
普段は俺がジェームズに思わせていることなのだろうが、俺はジェームズが羨ましい。
俺は前世ではなんでも平凡な男で、彼女や女友達なんてリア充チックなものはできなかった。女性との関わりが粉末スープを入れ忘れたカップ麺くらい薄い人生を送ってきた俺は、同年代の女の子に会うと思っただけで緊張してしまう。


「なあジェームズ、お前はこんな時でも緊張しないのか?」


ほんの少しの期待を込めて尋ねる。
人は不安になったら同じような境遇の人を探すものだ。


「ん?緊張?全くしないな。これからどんな美人に会えるのかと思ったら、おらワクワクすっぞ」


どこぞのサイヤ人のようなことをのたまうジェームズ。
ったくこいつは…。知らないはずのネタを次々と放り込んでくるのだが、思わずツッコミたくなってしまって困る。
もしそうなったら俺がこの世界の住民でなかったことがばれてしまう。
ミーナちゃんですらそれは知らないのだ。
ジェームズだけならいいが、セシリアさんに知られてしまうと非常にマズい。
彼女はメイドとしては優秀なのだが、結構お喋りな面がある。
セシリアさんを通じてミーナちゃんやイーナさんに話が通ると、もう俺に逃げ道はなくなり、結果的に俺の素性が明らかになってしまうことになりうる。
何としてもそれだけは避けたい。
生まれた時から世話してきた子供が、実は前世で18年生きてる大人でしたーなんて絶対ショックだからな。
うちの家族にパニクられたら面倒なのもあるが。




















「ルーシャス、見えてきたぞ」


不意にジェームズに声をかけられて、俺は我に帰った。
ジェームズが指さした方向を見ると、俺の家の倍はあろうかという大きな屋敷があった。


「うげえ、あんなとこに行くのかぁー?キッツイなあ」


「そうだな。あれだけ庭に木があればかなりの数のセミが…」


「セミじゃねえっつってんだろおお⁉︎」








いろんな意味で気が重いですハイ。
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