異世界転移に夢と希望はあるのだろうか？

第三章 王立学校

閑話

「ふむふむ……ふむむ？」

　とある奴隷商の奥。牢の前で首を傾げる男がいる。見た目にこれといった特徴はない。街ですれ違っても忘れてしまいそうな風貌だ。

「なにかお眼鏡にかなう奴隷はいたかい？」

　数分間、ただただそこにいる男に店主が声を掛ける。

「……いや、失敬。吾輩はそれに興味はないのだ」

「おいおい、なんだ冷やかしか？」

　比較的綺麗めなスーツを着ていて、金銭的に問題があるように見えない。普段の客と何ら変わりない。それなのに奴隷に興味がないとは、冷やかし以外の何者でもないだろう。

「そうか……そちらからすればそう捉えても仕方ないか」

　その男は手を顎にあて、

「しかし、だ。吾輩に悪意はない。許してくれたまえ」

　己の行動を振り返り、そう抑揚があまりない声色で謝罪をする。

「んん……まぁいいけどよ、買う気がないならとっとと出てってくれ」

「そうさせてもらおう。と、その前にそちらのメッセージを記録させてくれ」

　男は懐から取り出したカメラで壁に刻まれた文字を現像する。

「では、さらば」

　その用が済むと早々に店から出て行ってしまった。

「なんだったんだ……あの……」

　不思議とその男に対する疑問が段々小さくなり、そして

「あれ、何だっけ？」

　記憶はある。なのに、店主はそれ以上悩むことが出来なかった。

　▷▶▷

「ふぅむ、ふむふむ。これは『ドラマ』の匂いがするなぁ」

　人の往来が激しい道の真ん中で、男はその写真を見ながら呟く。

「この街に別の奴がくるとは……ふふ、ふははははは！」

　突然笑い出す異常者に子供が指差し、親がそれから引き離す。周囲の人間もその気味の悪い男を避けるように歩くが、男は自分の世界に完全に浸かっているようで、気にも留めていない。

「目的はわからない……が、しかしだ。吾輩の勘が『ドラマ』の舞台があそこだとビンビンに察知している」

　男の瞳孔は少し先の巨大な建物を捉えていた。

「さぁ、どうしてくれようか」

　怪人は次なる『ドラマ』を求め、行動を始めた。