上 下
44 / 134
第三章 王立学校

浴衣姿

しおりを挟む
 おっさんが出た後、俺は30分程湯に浸かり、風呂から出た。季節的に気温がかなり低いので、逆上せるギリギリまで入っていようと思ったのだが、案外耐えれてしまった。

 ポカポカした体を維持するべく、急いで更衣室に戻り、着替えて待合室へ来た。シャロとティアの姿はまだない。きっと髪を乾かしたり色々とやることがあるのだろう。
 前の世界でも、姉と母は数分しか湯に浸からないとか言うくせに出てくるのが遅かったことを思い出す。そういったことはどこの世界も変わらないようだ。

 待合室をキョロキョロしていると、館内図が目に入った。館内の施設が大雑把に描かれているのだが、その中でもBARと書かれている所が目に留まる。文字通りお酒が飲める場所なのだろうか、この世界では18歳から飲酒が認められているのでたぶん俺でも入ることができる。

 前の世界では親から少しだけ貰うことがザラにあったので、屋敷の中でも遠慮せずに飲んでいた。俺はアルコールには強いのでベロベロに酔うことはないのだが、一応試験が終わるまでは我慢をしよう。強いのはきっと遺伝なんだと思う。因子のおかげ……というのもあるかもしれないが、そもそも親がどちらも強かったのだ。

 食い入るように俺が見ていると後ろから声をかけられた。

「お待たせしました」

「おお、結構遅かった―――」

 後ろを振り返った俺の目に映ったのは、いつものとは違う衣服を身につけた2人。髪を後ろで結い、うなじが晒されている。そう、これは温泉ならではの―――

「ゆ、浴衣だ……」

「どうですか?  似合ってますか?」

 くるりと一周して全身を隅々まで見せつけてくる。

「…………」

「おい、なんか言えよ……」

「あ、ああ。ごめん、ごめん。驚いて声が出なかった。すっげぇ……似合ってる。新札が発行されるなら2人を推薦したいくらいだ」

「な、なんだそれ?」

「つまり可愛いってことですよね?」

「ああ、まぁ、うん……そうだ」

 俺の照れ隠しなどシャロに見透かされているようだ。てか顔めっちゃ熱いわ。なんだこれ、はっず!

「ちゃんと言わないとダメですよぉ」

 火照った顔を隠すように別の方向を向いたのだが、前屈みになったシャロが覗き込んでくる。不意打ちの上目遣いに俺の心臓が破裂しそうな程脈打つ。

「ふふ、顔真っ赤ですねぇ」

「おっ、おいっ!?」

 そのまま攻めの姿勢を崩さず、シャロが片腕にしがみつく。腕に感じる柔らかい感触。慣れることの無いそれが、この非現実的空間をスパイスにして俺の脳天に雷を落とす。

 腕を組むなんて何度もやった事があるはずなのに、傍にいる、手が届くという状況が俺の胸を熱くする。

「こうすると新婚さんみたいですねぇ」

「し、新婚さんって……」

 どうもここ最近、俺自身のシャロへの耐性が無くなってきている気がする。もっと前は軽くあしらえてもしかして……これが恋か?

「あ、アタシを置いていくなよ!」

 慌ててティアも俺の反対の腕にしがみつく。

「おい、ティアも何して……」

「……シャロは良くてアタシはダメなのかよ」

「ちがっ、そうじゃなくてだな」

 こんな美女二人を侍らせていると嬉しい反面、やはり恥ずかしさが勝る。だが、それも俺が曖昧な態度をとっているのが原因だろう。俺の中でとっくに答えは出ている。にもかかわらず、未だに何もしていないのは、俺自身がそれを形にするのを恐れているだけだ。

「……そろそろ向き合わねぇとな」

「ん? どういうことだ?」

「二人が超絶可愛いってことだよ」

「なっ!?」
「ふふ、照れますね」

 ひとまずは受験だ。
 それが片付いたなら俺は———

 横にいる二人の姿を今一度目に焼き付け、俺は確かに決心をしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...