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第二章 再来の悪夢

蛇足⑤ クラリス

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「頼む!  金ならいくらでも出す!  だから殺さないでくれぇ」

「そう言われても、依頼を反故にするわけには行かないわ」

 目の前の女は冷酷にそう告げる。自分の護衛すべてを殺し、今まさに喉に刃を向けられている。その冷たさが否応なく死を感じさせてきて、絶望のあまり顔が歪む。

「頼むぅぅ、どうか命だけは」

 涙が止まらない。女の表情を見ればどんな判断を下すかが明確に分かる。死がゆっくりと近づいてくる。

「うーん、そうねぇ。……あなた、私のこと知ってる?」

 突然投げかけられた質問。それが1つの光に見えて、その希望に縋るように咄嗟に言葉が出た。

「あ、あ、あれだ!  お前は『狂人』だろ!?」

 直後、喉の中に異物が入ってくる感覚が脳に伝わる。

「――――――ぇ」

 声が出ない。現実が受け止められない。

   今自分は一体、どうなっている?

   認めたくない、肯定したくない、信じたくない、受け入れられない、それでも、

 そう、刃が喉を貫いて、血が止まらなくて、命の灯火が弱まっていって、視界が暗くなっていって、それで―――

「やっぱり、あなたもダメなのね」

 諦念の混じった声が最後に聞こえた。



 ▷▶︎▷



「汚れが付いちゃったわね」

 以前にとある依頼で手に入れたこのメイド服。デザインが気に入ったので仕事着として使っているのだが、返り血で汚さないようにするのは至難の業だ。

 この服は彼と初めて会った思い出。これを着ていると心から元気が湧いてくるのが分かる。

 こんな感情初めてだ。

 彼は私を名前で呼んでくれた。

『狂人』と呼ばなかった。

 それが私の唯一の希望で、心の支えになっている。

「不思議ね」

 依頼をこなすのが自分の生きる理由だったのに、今の自分の頭は彼のことでいっぱいだ。

 どんな形でもいい。彼が欲しい。

「また、会えるかしら……」

 再会を望む狂人は、静かにその刃を研いで未来に思いを馳せている。
 その思いは歪ながらも、たしかに世界へ伝わり、邂逅の運命を手繰り寄せる。

「ふふ、きっと会えるわ」

 ニヤリと笑うその表情にはある種の確信が宿っていた。
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