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第二章 再来の悪夢
世界の呪縛
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124回
気が遠くなるほど繰り返した。
何度も何度も、何度も何度も何度も何度も繰り返して、それでもまだ届かない。
ソルヴァがあまりにも強すぎる。どのタイミングで襲っても返り討ちにされ、そのまま殺される。
俺の力じゃどうしても届かない。
しかも、毎回同じ世界が繰り返される訳じゃない。少しだけ変わることもあれば、まるっきり変わることもある。
ソルヴァの味方がそれで増えて、会う前に殺されるなんて時もあった。
そうしてまた世界が繰り返していく。
夢が終わらない。
124回目がちょうど今、爆音と共に終了した。
――――――――――――――――――――
125回目
終わる度、夢が覚めるのでは、という淡い期待を持つが、悉く打ち砕かれる。
またこの街並み。変わらぬ人混み。いい加減飽き飽きだ。
刀を使った。
魔法を行使した。
全身をフル稼働して、頭を回転させた。
俺の持てる全てをあてがった。
手は尽くした。
なのに、勝てない。
触れることすら叶わない。
それでも世界が俺を許さない。俺が投げ出すことを許さず、世界に縛り付ける。
今回もきっとダメだ。
そう絶望が胸に刻まれたまま、再スタートをする。
「もう、逃げてもいいかな……」
諦めずに立ち向かっただけ、良いだろう。
殺された時の痛みはちゃんとある。こんなもの慣れる訳がない。
一瞬で意識が消えるならいい。そうではない時の精神へのダメージが尋常じゃない。
俺の心はもう張り裂けそうだった。
それでも頑張って、何とかしようとしているのはシャロとティアのためだ。
2人がああなったのは紛れもない、俺の責任だ。
だが、もはや俺には助けられる希望が持てない。
ここは所詮夢の世界で現実ではないのだ。無理に助けなくても―――
「あら、さっきぶりね」
思案する俺に、聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。
「お、まえは……」
この女が出てくることは1度も無かった。この街で会ったのはこれが初めてだ。
今までになかった展開。
足りていなかったピースがいきなり見つかったような感覚。
最初にティアを殺した怒りに勝って、俺には確かな高揚感が芽生えていた。
「あなた……そういえば私を名前で呼んでくれたわよね? なんでか気になるわ」
確かに降ってきたチャンス。それをモノにするしかない。
「ああ、教えてやるよ。今時間あるか?」
こうして今、俺と『狂人』は街のカフェに入り、テーブルを挟んで向かい合っている。
「ふぅん。つまりその獣人の女の子達を助けるのを手伝ってほしいってこと?」
「ああ、そうだ。俺の力だけじゃどうにもならない。だからキミの……クラリスの力が必要なんだ」
この女はあのロイドにも勝っている。戦力としては申し分ない。申し分ないのだが、コントロールできるかが鍵だ。
「あなたが女の子を助けたいって言って、私がそれに協力すると思うの?」
今の口ぶりや現実での発言も考えると、この女は相当なヤンデレだ。なんで俺が好かれているかは分からないが、それを利用しない手は無い。
「報酬が俺自身って言ってもか?」
クラリスのコーヒーを飲む手が止まる。
「あなたを好きにする権利をくれると?」
「そうだ。俺はただ助けたいだけなんだ。手伝ってくれれば、俺は君に全てを差し出す。身も、心も全部が君のものだ」
夢の中だから別に構わない。俺は俺の持てる全てを使う。
「あなたが私のモノ……ふふ、魅力的ね」
「じゃあ!」
「いいわ、引き受けましょう」
その返事に俺の胸が熱くなる。
何とかなるかもしれない。そんな期待でいっぱいだ。
「よし、希望が見えてきた。ありがとう、クラリス!」
俺はクラリスの手を両手で掴みぶんぶん振る。
「ちょ、ちょっと……いきなり握られたら恥ずかしいのだけれど」
クラリスは頬を赤らめ、恥ずかしそうに、モジモジしている。
「早速だが、時間がない。詳しくは移動しながら話すからそれでいいか?」
「分かったわ。あなたを貰うためだもの。精一杯やるわ」
こうして、クラリスと奴隷市の所までやってきた。
ソルヴァがここで取引をするということは、何回やっても変わらなかった。これだけは確実だ。
着いた時にはちょうどシャロ達の競りが終わり、案内されるタイミングだった。
「任せるぜ」
「ふふ、腕がなるわ」
クラリスにはシャロ達の解放と警備員の無力化、ソルヴァの殺害をお願いした。
クラリスと一目散に通路目掛けて走る。
警備員がいるが、クラリスが通ると、誰も彼もが首から血を出し倒れる。
「す、すげぇ」
俺はせいぜい1人程度しか相手に出来ないのだが、それを簡単に無力化していく。
そうしてようやく、取引場に着いた。
「お前は……」
「ご主人様!?」
「イスルギ!?」
聞き慣れた驚きのセリフ。
それに対して、あらかじめ考えていた言葉を放つ。
「ああ、そうだ。助けに来たぜ」
ここに来るのに何回繰り返したことか。この部屋にそもそも入れたのが十数回ほどだ。ミスは許されない。
「クラリス、手筈通りに頼む」
「分かったわ」
そう言って、クラリスは部屋にいる敵を一瞬で全て斬り殺し、シャロ達の手枷を断ち切った。
「シャロ達は逃げろ! そこに隠し通路があるからそこを使え!」
俺がループ内で手にした情報。それもフル活用する。
奴隷の契約は主人が死ねば切れる。あのおっさんが死んだ時点で2人は自由だ。
「ご主人様は!?」
「俺は……」
もう会えない。この世界の俺はもうクラリスの物だ。それにここは現実ではない。これがきっと最後の邂逅だ。
「俺はここに残るよ。また後で会おう」
二人は戸惑っていたが、俺が目を逸らすと、そのまま逃げてくれた。
目の前では、『狂人』とソルヴァが死闘を繰り広げていた。
接近戦のクラリスと、魔法で中、長距離戦を好むソルヴァがお互いの領域に引きずり込もうと戦っている。
俺は足でまといだ。
それでも隙があればそれをつく。ソルヴァの魔法は何回も見たのだ。そこに俺の全魔力をぶっぱなす。
「契約の金はやったはずだ! なぜオレを攻撃してくる!?」
「お金よりも魅力的な報酬があれば、それを選ぶわ。ただそれだけよ」
以前に俺と戦ったときよりも、遥かにクラリスの動きが速い。あの時は遊ばれていた、ということか。
室内だからかソルヴァの動きが悪く、魔法で防いでいるようだが、だんだんと切り傷が増えていっている。
「くそッ、こうなりゃヤケだ」
ソルヴァは周囲に無数の火球を作り出した。この狭い部屋では全員巻き添えだ。
だが、それをつくる一瞬、隙が出来た。
「―――――――――雷槍!!」
そこを狙い撃ちし、俺は魔法を放つ。
魔法の防御が一時的にないので、それが直撃し、行動を封じる。
「ぐぉぉ」
「今だ!」
「共同作業ってやつね」
風が空を切り、ソルヴァの頭と体を引き離す。
ついにソルヴァを殺した。
「終わった……のか?」
改めて確認するが、明らかに絶命している。
俺は勝ったんだ。
「はは、安堵したら腰抜けたわ」
長い道のりだった。
この結果に辿りつくまでに何回も死んだ。
悪夢がようやく晴れるのだ。
「…………あれ」
目が覚めない。目標は達成したはずだ。
何が足りないんだ?
一体何が―――
直後、ソルヴァの体が光り、爆発を引き起こす。何が何だか分からないまま俺は爆撃を間近に受け、死んだ。
――――――――――――――――――――
「は?」
目を開けると、そこは見慣れた街並みだった。
「うそ……だろ……」
ソルヴァを殺した。シャロ達を助けた。
それでもまだ足りないっていうのか。
「なんで、だよ……」
目的があったから頑張れた。
終わりが見えていたから踏ん張れた。
今は、底の見えない水に放り込まれたような感覚だ。
―――悪夢が終わらない―――
気が遠くなるほど繰り返した。
何度も何度も、何度も何度も何度も何度も繰り返して、それでもまだ届かない。
ソルヴァがあまりにも強すぎる。どのタイミングで襲っても返り討ちにされ、そのまま殺される。
俺の力じゃどうしても届かない。
しかも、毎回同じ世界が繰り返される訳じゃない。少しだけ変わることもあれば、まるっきり変わることもある。
ソルヴァの味方がそれで増えて、会う前に殺されるなんて時もあった。
そうしてまた世界が繰り返していく。
夢が終わらない。
124回目がちょうど今、爆音と共に終了した。
――――――――――――――――――――
125回目
終わる度、夢が覚めるのでは、という淡い期待を持つが、悉く打ち砕かれる。
またこの街並み。変わらぬ人混み。いい加減飽き飽きだ。
刀を使った。
魔法を行使した。
全身をフル稼働して、頭を回転させた。
俺の持てる全てをあてがった。
手は尽くした。
なのに、勝てない。
触れることすら叶わない。
それでも世界が俺を許さない。俺が投げ出すことを許さず、世界に縛り付ける。
今回もきっとダメだ。
そう絶望が胸に刻まれたまま、再スタートをする。
「もう、逃げてもいいかな……」
諦めずに立ち向かっただけ、良いだろう。
殺された時の痛みはちゃんとある。こんなもの慣れる訳がない。
一瞬で意識が消えるならいい。そうではない時の精神へのダメージが尋常じゃない。
俺の心はもう張り裂けそうだった。
それでも頑張って、何とかしようとしているのはシャロとティアのためだ。
2人がああなったのは紛れもない、俺の責任だ。
だが、もはや俺には助けられる希望が持てない。
ここは所詮夢の世界で現実ではないのだ。無理に助けなくても―――
「あら、さっきぶりね」
思案する俺に、聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。
「お、まえは……」
この女が出てくることは1度も無かった。この街で会ったのはこれが初めてだ。
今までになかった展開。
足りていなかったピースがいきなり見つかったような感覚。
最初にティアを殺した怒りに勝って、俺には確かな高揚感が芽生えていた。
「あなた……そういえば私を名前で呼んでくれたわよね? なんでか気になるわ」
確かに降ってきたチャンス。それをモノにするしかない。
「ああ、教えてやるよ。今時間あるか?」
こうして今、俺と『狂人』は街のカフェに入り、テーブルを挟んで向かい合っている。
「ふぅん。つまりその獣人の女の子達を助けるのを手伝ってほしいってこと?」
「ああ、そうだ。俺の力だけじゃどうにもならない。だからキミの……クラリスの力が必要なんだ」
この女はあのロイドにも勝っている。戦力としては申し分ない。申し分ないのだが、コントロールできるかが鍵だ。
「あなたが女の子を助けたいって言って、私がそれに協力すると思うの?」
今の口ぶりや現実での発言も考えると、この女は相当なヤンデレだ。なんで俺が好かれているかは分からないが、それを利用しない手は無い。
「報酬が俺自身って言ってもか?」
クラリスのコーヒーを飲む手が止まる。
「あなたを好きにする権利をくれると?」
「そうだ。俺はただ助けたいだけなんだ。手伝ってくれれば、俺は君に全てを差し出す。身も、心も全部が君のものだ」
夢の中だから別に構わない。俺は俺の持てる全てを使う。
「あなたが私のモノ……ふふ、魅力的ね」
「じゃあ!」
「いいわ、引き受けましょう」
その返事に俺の胸が熱くなる。
何とかなるかもしれない。そんな期待でいっぱいだ。
「よし、希望が見えてきた。ありがとう、クラリス!」
俺はクラリスの手を両手で掴みぶんぶん振る。
「ちょ、ちょっと……いきなり握られたら恥ずかしいのだけれど」
クラリスは頬を赤らめ、恥ずかしそうに、モジモジしている。
「早速だが、時間がない。詳しくは移動しながら話すからそれでいいか?」
「分かったわ。あなたを貰うためだもの。精一杯やるわ」
こうして、クラリスと奴隷市の所までやってきた。
ソルヴァがここで取引をするということは、何回やっても変わらなかった。これだけは確実だ。
着いた時にはちょうどシャロ達の競りが終わり、案内されるタイミングだった。
「任せるぜ」
「ふふ、腕がなるわ」
クラリスにはシャロ達の解放と警備員の無力化、ソルヴァの殺害をお願いした。
クラリスと一目散に通路目掛けて走る。
警備員がいるが、クラリスが通ると、誰も彼もが首から血を出し倒れる。
「す、すげぇ」
俺はせいぜい1人程度しか相手に出来ないのだが、それを簡単に無力化していく。
そうしてようやく、取引場に着いた。
「お前は……」
「ご主人様!?」
「イスルギ!?」
聞き慣れた驚きのセリフ。
それに対して、あらかじめ考えていた言葉を放つ。
「ああ、そうだ。助けに来たぜ」
ここに来るのに何回繰り返したことか。この部屋にそもそも入れたのが十数回ほどだ。ミスは許されない。
「クラリス、手筈通りに頼む」
「分かったわ」
そう言って、クラリスは部屋にいる敵を一瞬で全て斬り殺し、シャロ達の手枷を断ち切った。
「シャロ達は逃げろ! そこに隠し通路があるからそこを使え!」
俺がループ内で手にした情報。それもフル活用する。
奴隷の契約は主人が死ねば切れる。あのおっさんが死んだ時点で2人は自由だ。
「ご主人様は!?」
「俺は……」
もう会えない。この世界の俺はもうクラリスの物だ。それにここは現実ではない。これがきっと最後の邂逅だ。
「俺はここに残るよ。また後で会おう」
二人は戸惑っていたが、俺が目を逸らすと、そのまま逃げてくれた。
目の前では、『狂人』とソルヴァが死闘を繰り広げていた。
接近戦のクラリスと、魔法で中、長距離戦を好むソルヴァがお互いの領域に引きずり込もうと戦っている。
俺は足でまといだ。
それでも隙があればそれをつく。ソルヴァの魔法は何回も見たのだ。そこに俺の全魔力をぶっぱなす。
「契約の金はやったはずだ! なぜオレを攻撃してくる!?」
「お金よりも魅力的な報酬があれば、それを選ぶわ。ただそれだけよ」
以前に俺と戦ったときよりも、遥かにクラリスの動きが速い。あの時は遊ばれていた、ということか。
室内だからかソルヴァの動きが悪く、魔法で防いでいるようだが、だんだんと切り傷が増えていっている。
「くそッ、こうなりゃヤケだ」
ソルヴァは周囲に無数の火球を作り出した。この狭い部屋では全員巻き添えだ。
だが、それをつくる一瞬、隙が出来た。
「―――――――――雷槍!!」
そこを狙い撃ちし、俺は魔法を放つ。
魔法の防御が一時的にないので、それが直撃し、行動を封じる。
「ぐぉぉ」
「今だ!」
「共同作業ってやつね」
風が空を切り、ソルヴァの頭と体を引き離す。
ついにソルヴァを殺した。
「終わった……のか?」
改めて確認するが、明らかに絶命している。
俺は勝ったんだ。
「はは、安堵したら腰抜けたわ」
長い道のりだった。
この結果に辿りつくまでに何回も死んだ。
悪夢がようやく晴れるのだ。
「…………あれ」
目が覚めない。目標は達成したはずだ。
何が足りないんだ?
一体何が―――
直後、ソルヴァの体が光り、爆発を引き起こす。何が何だか分からないまま俺は爆撃を間近に受け、死んだ。
――――――――――――――――――――
「は?」
目を開けると、そこは見慣れた街並みだった。
「うそ……だろ……」
ソルヴァを殺した。シャロ達を助けた。
それでもまだ足りないっていうのか。
「なんで、だよ……」
目的があったから頑張れた。
終わりが見えていたから踏ん張れた。
今は、底の見えない水に放り込まれたような感覚だ。
―――悪夢が終わらない―――
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