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トワ

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(優って本当に何でもできるよな)

(流石は俺の息子だ)

(優ちゃん、今度お母さんと一緒に出かけない?)

(ねぇ、優くんってすごいかっこいいよね)

(優と比べると何でも劣って見えるよなぁ)

(あんな可愛い彼女がいて、優が羨ましいよ)

(優くん、大好きだよ)

「……俺じゃない」

 意図的に発した言葉ではなかった。

 でも、口に出した瞬間何かが腑に落ちた。

 俺は出来た人間じゃない。何重にも皮を被った、化け物だ。
 ただ、「普通」を演じて、「普通」に擬態をして、「普通」に適応してるだけなのに、どうも違う。

「……死ねたら、楽なのにな」

「おじさん、何してるの?」

「え?」

 驚いて顔を上げると、俺の目の前に少女が立っていた。とても幼い……たぶん5~6歳くらいだろうか、黒髪でツインテールの幼女だ。

「き、みは?」

「わたし?  わたしはトワだよ」

「トワ……」

 まだ状況が飲み込めない。今は深夜0時をとっくに過ぎている。そんな時間帯にこんな小さな子が何故いるんだ?

「君、お母さんとかは?」

「ん~、そこにいるよ」

 少女が指さしたのは、公園のすぐ近くのアパート。木造で、かなり年季の入った建物だ。

「なんでこんな時間に外にいる。危ないだろ」

「そんなことより、おじさんのお名前はなんなの?」

「え、」

「わたしはちゃんと自分のお名前を言いました。だったらおじさんも言わないとだめでしょ」

 少女は口元でばってんをつくり、頬を膨らませている。

「あー……ごめん。俺は優だ」

「ゆー?」

「ゆ、う。英語みたいな言い方するな」

「ゆう、ゆう……じゃあ、ゆうちゃんね!」

 そう言って顔を輝かせる少女に俺は今更ながら、取り繕うのを忘れていた事に気づく。俺は誰に対しても皮を被る。たとえそれが子供でも、赤ん坊だろうと徹底してきた。
 だが、何故か今この瞬間、そうあることが抜け落ちていた。

「ゆうちゃん、なんか顔くらいねぇ。悩み事?」

「まぁ、そんなところだ」

 1度ああして気を抜いてしまった以上、かえっていつも通りに戻さない方が良いだろう。どうせ子供だ。

「う~ん、じゃあトワがおはなし聞いてあげるよ!」

「え?」

「おはなししてくれたら、ゆうちゃんを元気にしてあげる!」

 言葉の意図がよく理解できない。

「君が俺を?」

「うん!」

 少女は満面の笑みで大きく頷く。その純粋無垢な眼差しが俺に突き刺さり、つい言葉が漏れてしまった。

「……聞いてくれるのか?」

「だからそう言ってるじゃん!  ゆうちゃんっておバカさん?」

「ふっ、なんだそれ」

 笑った? 

 今、俺は笑ったのか?

 自覚のない、だが、これは本物だ。

「……少し長くなるぞ」

 俺は今までの自分のことを、年端もいかない少女に話し始めた。理解ができるわけが無い。そう考えていても、話したいと思ってしまった。
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