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第23話 作戦失敗!?

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 シルフィアが仮面の剣士と、ファイレーンがドラゴンと対峙している時、
 ライカもまたドラゴンとの戦いを繰り広げていた。

「チッ!ドラゴンってのは厄介だな!!」

 初めて戦ったが、その巨体から繰り出される力とスピードも、爪や牙の鋭さも、空を駆ける空間的な戦いも、口から吐く火炎息ブレスも、全てが脅威だった。
 そして、戦っていて特に煩わしいのはその硬い鱗による防御力だった。
 生半可な攻撃は通らない。
 しかも、先に挙げた様々な脅威を搔い潜りながらこの鱗を貫くのは難易度が高いだろう。

「まあオレには関係ねぇけどな!!」

 ライカはようやく初めて戦うドラゴンの動きに慣れてきて、そう吠える余裕が出てきた。

 空からその牙を突き立てようと急降下してくるドラゴン、その牙がライカに迫る瞬間に飛び上がり、その勢いでドラゴンの翼を切りつけた。
 案の定、他の部位に比べて防御は薄いようだ。
 ドラゴンは苦悶の声を上げながら、着地したライカに向かい、自らも地面をその足で蹴り、その爪で襲い掛かってくる。
 それを紙一重で掻い潜りドラゴンの腹下に体を沈めて入り込み、

「ウラァ!!」

 その剣を両手で切り上げる!!

 腹を裂かれたドラゴンは先ほどよりも大きな叫び声をあげるが、まだ終わらない。
 今度は後ろに飛びのきつつ体を回転させ、大きな尾で薙ぎ払いに来た。

(タフさも武器ってわけか!!)

 ライカは剣の腹で尾の一撃を受け止めた。それでもその衝撃は大きく、
 少し飛ばされて距離を開けられてしまった。

 そこにドラゴンの火炎息ブレスが迫る!!
 だが・・・

「焦って雑な攻撃したな!馬鹿め!!」

 火炎息ブレスは先ほど何度か食らって・・・・
 我慢すれば突破できることを確認している!!

 ライカは火炎息ブレスに真正面から突っ込み、結果、ドラゴンからは死角からの攻撃となったその一撃で、ドラゴンの頭を剣で貫いた。

「・・・・」

 そのままライカは少し待ったが・・・・

「念のためだ!!おりゃおりゃ!!」

 それだけで死ぬか分からなかったので、引き抜いた剣を心臓があると思われる場所に何カ所か突き刺し、確実に倒したことを確認した。
 はた目から見たら恐ろしい光景に見えたかもしれないが、こればかりは仕方ない。

「ふぅ、これがドラゴンか・・・」

(次に戦う時はもう少し効率化できるかな)

 そんなことを少し考えた後、すぐに先ほどシアとはぐれた場所、迷宮の入り口の方を見た。

 ドラゴンに連れられだいぶ離れてしまった。
 シアはどうしているか・・・。

 そう思って・・・ふと、その方向に、先ほどのドラゴンとはまた別の大きな力があることに気付く。

「なんだ・・・!?」

 ライカは急いで駆け出した。

 ◆

 緑光蝶りょくこうちょうのシルフィアは、その名の通り、この緑色に光る蝶、風の蝶の大群を操り戦うのが本来のスタイルである。

「行け!蝶よ!!」

 シルフィアのその言葉で、沢山の蝶が虹のような弧を描き仮面の剣士に殺到していく。
 蝶は一匹一匹が風の刃を身にまとっている。
 並みの相手ならこれでズタズタになるはずだ。が・・・

 ズシャァァァ!!

 仮面の剣士は、その剣を回転させ蝶の群れを霧散させ、その隙をついてシルフィアに迫る!
 勿論、普通に剣を振っただけでこのようになるものではない。剣に巨大な魔力が込められていることは明らかである。

(こいつは・・・!!!)

 規格外である。
 シルフィア達四天王と互角・・・!と言いたいところだが、
 もしかしたらそれより強いかも知れない。

 だがそんな弱気なことを考えている場合ではない。

「クッ!」

 仮面の剣士がシルフィアに斬りつける!
 それをシルフィアは蝶を体の近くに集め、厚い壁にした。
 衝撃は来るが、斬られることは防いだ。
 そのまま蝶を相手の体にまとわりつかせようとするが・・・

 剣士はそのまま押し切り、シルフィアの体を吹き飛ばした!

「うぁ!!!」

 谷の壁に叩きつけられ、シルフィアはうめき声をあげた。
 最初につけられた傷のハンデが歯がゆい。

 だがもちろん敵は待ってはくれない。
 間髪入れずに斬りつけてくる!

「―――――!!」

 今度は声をあげることもできずに、シルフィアは吹き飛ばされた。
 蝶で致命傷は避けているが、状況を打破する糸口が見つからない。

(逃げた方がいいか)

 逃げる。
 どちらに逃げようか。
 ファイレーンとウォーバルか、ライカか?

 ライカが選択肢に浮かんだことに自分でも少し驚いたが、
 その感情を深堀りする余裕を敵は与えてくれなかった。

 仮面の剣士がさらに迫る。

 ともかくここをしのぐしかない。

(ボクにも四天王の意地がある)

 これまで蝶の攻撃で決定打を与えられなかったが・・・・、
 最初に放った蝶の全てを使っていた訳ではない。
 半分は接近戦用に行使しながら、残りの半分は戦いのフィールド周囲に広く展開し、そして・・・・仮面の剣士を中心に、魔法陣の形を成した!!

「ランザス・エアリア!!」

 仮面の剣士の周囲の空間に、蝶から姿を変えた無数の風の槍が生まれ、そして一気に剣士に迫る!!

 逃げ場は無い!

 だが―――――

 仮面の剣士は僅かな時間で深く構えを取ると、体を一回転させながら剣を振りぬいた。
 すると、全ての風の槍はかき消され、さらに衝撃がシルフィアを襲い、今度は地面に倒れこんでしまった。
 周囲の蝶も姿が消えてしまった。

(イテテ・・・、さっきから叩きつけられてばっかりだな)

 一瞬場違いな感想を思い浮かべたが、すぐに気を取り直し、倒れたまま、仮面の剣士の様子を見る。

 剣の一振りですべての槍を迎撃した?
 いや、あの瞬間、槍を迎撃したのは、奴が手に持っている剣だけでは無かったはずだ。

(あれは・・・・?ああいうのどこかで・・・・)

 自分でも結論がハッキリしない。
 考えをまとめようとするが、仮面の剣士はすぐに体勢を立て直してきて、それどころではない。

 だがその時。

「てめぇ!!こっちにかかってこいやぁああ!!」

 でっかい声を上げながら、ライカが谷底の影から現れた。
 ドラゴンと一緒に消えていった先からなので、ちょっと距離があるのだが、
 とにかくすごいスピードだ。

(ライカ!じゃあ、ドラゴンは倒してきたんだな)

 シルフィアはようやく明るい材料が出てきて少しだけホッとした。
 まあ、先ほどのドラゴンはかなり強そうなタイプだったが、ライカなら十分倒せるだろう。そこは疑問に思う必要はなかった。

 だが、登場したのがちょっと遠い場所なのでまだ安心できない。
 凄い勢いで走ってきてはいるが。

 仮面の剣士の立場からすれば、ライカの横やりを入れられる前にシルフィアに攻撃できそうな位置関係ではあったが、剣士はそうはしなかった。
 間に合うか間に合わないか微妙なタイミングであったからか・・・・、
 ライカの脅威に備えたかったのか・・・どう考えたのかは分からないが、
 だが少なくともシルフィアの事を放っておいてはくれる、というわけではないようだった。

 ライカとシルフィアの間、その上、いつでもシルフィアへの攻撃に移れる場所に位置どった。

「くっそ・・・!」

 ライカは驚異的なスピードですぐ近くまで到着したが、そこで止まらざるを得なかった。

「大丈夫か!?シア!!」

 ライカはそう問いかけた。
 ライカから見ると、自分がいない間に現れた新しい魔王軍のモンスターに、シアがやられて倒れている、という状況に見えるだろう。

「あんまり大丈夫じゃないかも」

 シルフィアは倒れたまあそう言ったが、あんまり大きな声を出す気力もないのでライカに聞こえているか分からない。
 取り合えず片手をあげて、話は聞こえているアピールはしておいた。

「チッ!こいつ・・・シアがやられるなんて、かなりの強敵か」

 ライカは、シルフィアが会話できる状況じゃないと判断して、独り言モードに入ったようだ。

(ボクの事、そう思ってくれてたのか。ちょっと嬉しいかも)

 シルフィは取り合えず流れを見守ることにした。

「おい!仮面なんかつけてないで、何か言ったらどうだ!
 お前まさか・・・魔王軍の四天王か!!!」

(いや、違うよ!四人目の四天王はボクなんだけどなー)

 思わぬ方向にライカが勘違いを始めたので、思わず心の中で突っ込んでしまった。
 確かに、魔王軍の特別強い敵が新たに表れたとなると、そう勘違いしても仕方ないかも知れない。

(あー、もう。ボクが人質になる作戦もメチャクチャだし、ボクが4人目の四天王だってバラす作戦もこれで変な感じになっちゃうよ。
「え、シアが四天王?あの仮面の剣士が四天王じゃなくて?」
「いや、あいつは四天王じゃなくてね・・・」
 みたいな・・・?)

 シルフィアは、ライカが来て気が緩んだのか、
 ようやく今まで作戦のためにしてきた努力が水の泡になりそうなことに思いがいたって、心の中で愚痴り始めた。
 正直言うと、起き上がろうと思えば起き上がれるのだが、

(このままライカがコイツを倒してくれるのを待つか)

 この状況になってしまえば、もうそれしかない気がする。
 そう思うと、このまま寝転がっていようかと思った。

(どうせもう作戦はメチャクチャなんだし・・・)

 だがそこであることに気付く。

(ドラゴンも出てきて謎の敵も出てきて・・・ファイレーンやウォーバルは何で何も言ってこないんだ!?)

 明らかに異常事態である。
 普段はライカに怪しまれないように通信は控えているが、
 今この状況なら、緊急通信をよこしてこないとおかしいはずだ。

 そう思っていたまさにその時・・・

 魔術通信でシルフィアに語り掛けてくる声があった。

『シルフィアさん!シルフィアさん!大変ですよ!!』
「!?グリーズ!?
 あんたどうしたの?どうしてあんたが通信を!?」

 シルフィアは状況が飲み込めないまま、小声で答えた。
 どこで何をしているかも分からないグリーズからの通信というのは全く想定していなかった。
 声だけでグリーズは続ける。

『大変です!迷宮の中、生贄の作戦の場所にドラゴンが現れたんです!!』
「なんだって!?」
(こちらに現れた1体だけじゃなかったのか!?)

『今ファイレーン様とウォーバル様が戦っていますが、被害は広がっています!
 シルフィアさんも早く助けに来てください!!』

 そこまで言うと通信は切れてしまった。

「えっ!?おい!ちょっと待て!それじゃ分からないよ!!」

 ファイレーン達の状況も、ドラゴンが何体いるのかも、どれくらい被害が出ているのかも、何も分からない。
 グリーズの方も混乱しているのか?

 だが、呼びかけても通信は帰ってこない。

(助けに行く!?ボクが?
 でもこの状況からどうやって!?)

 目の前ではライカと仮面の剣士が対峙しており、自分は地面に転がされている、この状況から、どうやって?
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