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オリヴィアは不安を抱きながらも、それを表には出さないようになんとかやり過ごしていた。
しかしあの一件以来、ジークヴァルトとリーゼルの噂は止むどころか多くの者達の間に拡散してしまい、廊下を歩いていると何度も二人の話を耳にするほどまでに広まっていた。
最初は二人が親し気に話している様子が噂になっていたのだが、最近では熱い視線を送り合っていただの、抱き合っていただのと内容も過激なものへと変わっていた。
これらは全て噂であり、自分の目で見た光景ではないので、オリヴィアは信じていない。
ジークヴァルトの方からそのような行動に出るとは考えづらいが、彼の事を特別な目で見ているリーゼルなら絶対に無いとも言えない。
オリヴィアに宣戦布告をするほどの度胸があるのだから、思い切った行動にだって出るかもしれない。
二人の仲を周囲に知らしめて、まるでオリヴィアに対する当てつけのようにも思えて来る。
以前は彼から事情を聞かされていたこともあったので、少なからずオリヴィアには余裕があった。
二人の噂が流れ始めた時も冷静でいられた。
だけど、こんなにも噂が広まっているのに、肝心のジークヴァルトは何も手を打とうとはしない。
この国が聖女であるリーゼルのことを、大切に扱おうとしていることは分かる。
災難がこの地に降りかかった時、聖女としての力は必ず必要になるだろう。
しかしその事実を知っているのは王宮にいる僅かな人間のみで、この学園に在校している殆どの生徒には、まだ知らされていない情報だ。
そんな者達からしてみれば、二人のしていることは不貞行為以外のなにものでもない。
彼はこの国の王太子なのだから、一言『違う』と伝えれば、こんな噂なんて直ぐにでも止むはずだ。
それなのに何もしない。
こうなってくると、オリヴィアは何のために自分の存在があるのか分からなくなってくる。
彼の評価を上げるために、影ながらずっと努力をし続けてきた。
辛いことだって沢山我慢してきたし、時には感情を押し殺して耐える場面もあった。
それは全て二人の未来、もっと先を見据えた言い方をすれば、この国のためにしてきたことだ。
国王になるのなら、周囲から認められるような人間でなくてはならない。
彼だってそれは良く分かっていることなのに、こんなところで浮気を疑われるような真似をして、一体ジークヴァルトは何を考えているのだろう。
オリヴィアは我慢の限界を迎えていた。
こんなことで、自分たちの積み上げてきたものを壊したくはない。
ジークヴァルトが血迷っているのであれば、婚約者であるオリヴィアが正しく導かなければならない。
それも婚約者としての立派な勤めだ。
そう思い立った翌日、オリヴィアは行動に出ることにした。
普段よりも早く登校するのは久しぶりだ。
この時間を選んだのは、なるべく人目に付かない状態でジークヴァルトに会うためだ。
余計な視線がない方が、オリヴィアにとっても話しやすい。
前回のようにリーゼルもいるかもしれないが、そうなった場合は三人で話せばいい。
遅かれ早かれそうなることは避けられないのだから、大した問題にはならないはずだ。
(ジーク様との約束を破ってしまうことになるけど、今回は仕方ないことよね。婚約者として、正しい道に戻さないと。今ならきっとまだ間に合うはずだわ)
オリヴィアの胸はいつもに増して高揚していた。
二週間ぶりに、ジークヴァルトの顔を見れると言うことが一番の理由だった。
ずっと恋い焦がれていた者に会えるのだから、そう思うのは当然のことだ。
怒られるかもしれないが、それよりも会えることへの嬉しさの方が勝っていて、あまり気にしていなかった。
オリヴィアは彼がいるであろう中庭へと足を進めた。
思った通り、そこには彼の姿があった。
オリヴィアは周囲を見渡してみたが、リーゼルの姿は近くには見当たらなかった。
(ジーク様……)
遠くから彼の存在を眺めているだけでも、鼓動が激しく揺れ、胸の奥が熱くなっていくのを感じる。
たった二週間なのに、もっと長く会っていなかったような錯覚すら感じてしまう。
「……リヴィ?」
あまりにじっと視線を送り続けていた所為か、オリヴィアが声をかけるよりも前に彼に名前を呼ばれてしまう。
オリヴィアはビクッと体を震わせて、少し気まずそうに表情を歪めた。
今になって約束を破ってしまったことへの罪悪感を持ってしまったようだ。
「あ、あの……」
「どうした?」
オリヴィアは戸惑いながら声をかけようとしたが、ジークヴァルトは怒るような素振りは一切見せず、柔らかい表情を彼女に向けていた。
優しい笑顔を眺めていると、考えていた様々なことが一瞬頭から抜け落ちてしまう。
「約束を破ってしまってごめんなさい」
「約束……?」
オリヴィアが謝ると、ジークヴァルトは不思議そうに問いかけた。
「ジーク様に会ってはいけないと言われていたのに、来てしまいました」
「私はそんなことを言った覚えはないぞ?」
オリヴィアがすまなそうに答えると、彼はさらりと答えた。
「え? でも以前会った時に暫く会えなくなるけど我慢して欲しいって……言いましたよね?」
「ああ、それは言ったな。だけどリヴィに会いに来るなとは言っていない」
その言葉を聞いて、オリヴィアは狼狽えてしまう。
思い返してみると、たしかにジークヴァルトの言ったとおりに思えてきた。
(わたしが勘違いしていただけ……? それじゃあ、会いに来ても良かったってこと!?)
「そんなところでいつまでも突っ立って居ないで、こちらに来たらどうだ? 私に用事があってここに来たのだろう?」
「……はい」
オリヴィアは彼の元へと移動した。
「随分と深刻そうな顔をしているな。ここで話にくいことなら、場所を変えた方が良いか?」
「そうして頂けたら有り難いですが、訓練の途中だったのに宜しいのですか?」
「リヴィのそんな顔を見てしまったら、話の方が気になるからな」
「……っ」
目の前にいるジークヴァルトは、以前と何も変わっていない。
オリヴィアの良く知っている、優しい表情をしていた。
だから余計に分からなくなる。
彼が何を考えて行動しているのか。
詳しいことは何も聞かされていないが、事情があることだけは確かなのだろう。
二人は騎士科の校舎に入り、一階の端にある応接間のような部屋へと入って行った。
***
中央にソファーとテーブルが置かれているだけで、至ってシンプルな部屋だった。
ジークヴァルトが席に着くと、オリヴィアは対面するようにして腰を下ろした。
これから大切な話をすると思うと、次第にオリヴィアの顔は強ばっていく。
こんな話をしたら嫌な顔をされるかもしれないという自覚があったから、今になって躊躇ってしまう。
彼に嫌われたくないと言う気持ちが、オリヴィアの中には強くあるからなのだろう。
「リヴィ? 話して」
「……はい。リーゼル様との噂のことです」
オリヴィアは覚悟を決めると、口を開いた。
「…………」
「私の校舎にも流れてくるくらい広まっているので、当然ジーク様もご存知ですよね? 何故、なにも否定なさらないのですか? 変な噂が立てば、あなたの名前に傷が付いてしまいます」
ジークヴァルトは彼女の言葉を聞くと、何も答えずに僅かに目を細めただけだった。
オリヴィアは続ける。
「一言「違う」と周囲に伝えれば、皆納得してくれることです。お願いです、今日にでもそうしてください。今なら大事にならずに済むはずです」
「噂のことは私も把握しているし、リヴィの言うとおりだと思う」
「分かっているのなら、どうして……」
「これは私の意思ではなく、そう命じられてのことだ」
「え……」
ジークヴァルトはどこか苦しげな表情を見せて、そう言った。
オリヴィアは戸惑った表情を見せる。
彼は命じられたと言った。
王太子である彼に命じることが出来る人間は、一人しか存在しない。
(まさか、陛下が……?)
答えを見つけると、オリヴィアの顔からは表情が消えていく。
「このことは婚約者であるリヴィにも黙っているようにと命じられたが、お前にも迷惑をかけてしまっている以上、話しておくべきなのかもしれないな」
彼はオリヴィアの瞳の奥をじっと窺うように見つめていた。
そう言いながらも、話す事を迷っているのだろうか。
これを聞いてしまったら、また悩み事が増えるかもしれない。
だけど、何も知らされないまま分からない不安と戦うよりは、知って悩んだ方が全然マシだ。
悩みを共有すれば、解決策だって意外と直ぐに見つかるかもしれないのだから。
「話してください」
「この事実を知ったら、お前をもっと苦しませることになるかもしれないのだぞ」
「構いません」
オリヴィアは彼の目を真っ直ぐに見据えて、冷静な声で答えた。
彼女の中に迷いは一つもなかった。
脅すような言葉を告げられて、怖い気持ちも若干あった。
しかし、自分だけが蚊帳の外で何も知らされない方が、オリヴィアには耐えがたかった。
今のままだとジークヴァルトとの距離が遠ざかっていってしまいそうで、それをなんとかして食い止めたかったのかもしれない。
「お前は本当に出来過ぎた婚約者だな。それに比べて私は不甲斐なくて、心底自分が嫌になる。陛下に言われたことに、ただ従うことしか出来ないのだからな」
「そんな風に自分を卑下させてはいけません。あなたは不甲斐ない人間ではないし、わたしは立派な方だと思っています」
彼の弱音を見たのは、これが恐らく初めてだ。
それ程までに、彼も何かに追いつめられているのだろう。
だったら尚更のこと、自分が支えなくてはならないのだと、オリヴィアは思った。
「話してください」
「……本当に後悔はしないか?」
「くどいですよ」
「そうだな。それでは話すが、これから私が話すことは他言無用で頼む」
「分かりました。これはわたし達二人の秘密ですね」
オリヴィアはクスッと笑って冗談交じりに答えると、ジークヴァルトは僅かだが表情を緩めた。
その顔を見て、オリヴィアは少し安堵していた。
しかしあの一件以来、ジークヴァルトとリーゼルの噂は止むどころか多くの者達の間に拡散してしまい、廊下を歩いていると何度も二人の話を耳にするほどまでに広まっていた。
最初は二人が親し気に話している様子が噂になっていたのだが、最近では熱い視線を送り合っていただの、抱き合っていただのと内容も過激なものへと変わっていた。
これらは全て噂であり、自分の目で見た光景ではないので、オリヴィアは信じていない。
ジークヴァルトの方からそのような行動に出るとは考えづらいが、彼の事を特別な目で見ているリーゼルなら絶対に無いとも言えない。
オリヴィアに宣戦布告をするほどの度胸があるのだから、思い切った行動にだって出るかもしれない。
二人の仲を周囲に知らしめて、まるでオリヴィアに対する当てつけのようにも思えて来る。
以前は彼から事情を聞かされていたこともあったので、少なからずオリヴィアには余裕があった。
二人の噂が流れ始めた時も冷静でいられた。
だけど、こんなにも噂が広まっているのに、肝心のジークヴァルトは何も手を打とうとはしない。
この国が聖女であるリーゼルのことを、大切に扱おうとしていることは分かる。
災難がこの地に降りかかった時、聖女としての力は必ず必要になるだろう。
しかしその事実を知っているのは王宮にいる僅かな人間のみで、この学園に在校している殆どの生徒には、まだ知らされていない情報だ。
そんな者達からしてみれば、二人のしていることは不貞行為以外のなにものでもない。
彼はこの国の王太子なのだから、一言『違う』と伝えれば、こんな噂なんて直ぐにでも止むはずだ。
それなのに何もしない。
こうなってくると、オリヴィアは何のために自分の存在があるのか分からなくなってくる。
彼の評価を上げるために、影ながらずっと努力をし続けてきた。
辛いことだって沢山我慢してきたし、時には感情を押し殺して耐える場面もあった。
それは全て二人の未来、もっと先を見据えた言い方をすれば、この国のためにしてきたことだ。
国王になるのなら、周囲から認められるような人間でなくてはならない。
彼だってそれは良く分かっていることなのに、こんなところで浮気を疑われるような真似をして、一体ジークヴァルトは何を考えているのだろう。
オリヴィアは我慢の限界を迎えていた。
こんなことで、自分たちの積み上げてきたものを壊したくはない。
ジークヴァルトが血迷っているのであれば、婚約者であるオリヴィアが正しく導かなければならない。
それも婚約者としての立派な勤めだ。
そう思い立った翌日、オリヴィアは行動に出ることにした。
普段よりも早く登校するのは久しぶりだ。
この時間を選んだのは、なるべく人目に付かない状態でジークヴァルトに会うためだ。
余計な視線がない方が、オリヴィアにとっても話しやすい。
前回のようにリーゼルもいるかもしれないが、そうなった場合は三人で話せばいい。
遅かれ早かれそうなることは避けられないのだから、大した問題にはならないはずだ。
(ジーク様との約束を破ってしまうことになるけど、今回は仕方ないことよね。婚約者として、正しい道に戻さないと。今ならきっとまだ間に合うはずだわ)
オリヴィアの胸はいつもに増して高揚していた。
二週間ぶりに、ジークヴァルトの顔を見れると言うことが一番の理由だった。
ずっと恋い焦がれていた者に会えるのだから、そう思うのは当然のことだ。
怒られるかもしれないが、それよりも会えることへの嬉しさの方が勝っていて、あまり気にしていなかった。
オリヴィアは彼がいるであろう中庭へと足を進めた。
思った通り、そこには彼の姿があった。
オリヴィアは周囲を見渡してみたが、リーゼルの姿は近くには見当たらなかった。
(ジーク様……)
遠くから彼の存在を眺めているだけでも、鼓動が激しく揺れ、胸の奥が熱くなっていくのを感じる。
たった二週間なのに、もっと長く会っていなかったような錯覚すら感じてしまう。
「……リヴィ?」
あまりにじっと視線を送り続けていた所為か、オリヴィアが声をかけるよりも前に彼に名前を呼ばれてしまう。
オリヴィアはビクッと体を震わせて、少し気まずそうに表情を歪めた。
今になって約束を破ってしまったことへの罪悪感を持ってしまったようだ。
「あ、あの……」
「どうした?」
オリヴィアは戸惑いながら声をかけようとしたが、ジークヴァルトは怒るような素振りは一切見せず、柔らかい表情を彼女に向けていた。
優しい笑顔を眺めていると、考えていた様々なことが一瞬頭から抜け落ちてしまう。
「約束を破ってしまってごめんなさい」
「約束……?」
オリヴィアが謝ると、ジークヴァルトは不思議そうに問いかけた。
「ジーク様に会ってはいけないと言われていたのに、来てしまいました」
「私はそんなことを言った覚えはないぞ?」
オリヴィアがすまなそうに答えると、彼はさらりと答えた。
「え? でも以前会った時に暫く会えなくなるけど我慢して欲しいって……言いましたよね?」
「ああ、それは言ったな。だけどリヴィに会いに来るなとは言っていない」
その言葉を聞いて、オリヴィアは狼狽えてしまう。
思い返してみると、たしかにジークヴァルトの言ったとおりに思えてきた。
(わたしが勘違いしていただけ……? それじゃあ、会いに来ても良かったってこと!?)
「そんなところでいつまでも突っ立って居ないで、こちらに来たらどうだ? 私に用事があってここに来たのだろう?」
「……はい」
オリヴィアは彼の元へと移動した。
「随分と深刻そうな顔をしているな。ここで話にくいことなら、場所を変えた方が良いか?」
「そうして頂けたら有り難いですが、訓練の途中だったのに宜しいのですか?」
「リヴィのそんな顔を見てしまったら、話の方が気になるからな」
「……っ」
目の前にいるジークヴァルトは、以前と何も変わっていない。
オリヴィアの良く知っている、優しい表情をしていた。
だから余計に分からなくなる。
彼が何を考えて行動しているのか。
詳しいことは何も聞かされていないが、事情があることだけは確かなのだろう。
二人は騎士科の校舎に入り、一階の端にある応接間のような部屋へと入って行った。
***
中央にソファーとテーブルが置かれているだけで、至ってシンプルな部屋だった。
ジークヴァルトが席に着くと、オリヴィアは対面するようにして腰を下ろした。
これから大切な話をすると思うと、次第にオリヴィアの顔は強ばっていく。
こんな話をしたら嫌な顔をされるかもしれないという自覚があったから、今になって躊躇ってしまう。
彼に嫌われたくないと言う気持ちが、オリヴィアの中には強くあるからなのだろう。
「リヴィ? 話して」
「……はい。リーゼル様との噂のことです」
オリヴィアは覚悟を決めると、口を開いた。
「…………」
「私の校舎にも流れてくるくらい広まっているので、当然ジーク様もご存知ですよね? 何故、なにも否定なさらないのですか? 変な噂が立てば、あなたの名前に傷が付いてしまいます」
ジークヴァルトは彼女の言葉を聞くと、何も答えずに僅かに目を細めただけだった。
オリヴィアは続ける。
「一言「違う」と周囲に伝えれば、皆納得してくれることです。お願いです、今日にでもそうしてください。今なら大事にならずに済むはずです」
「噂のことは私も把握しているし、リヴィの言うとおりだと思う」
「分かっているのなら、どうして……」
「これは私の意思ではなく、そう命じられてのことだ」
「え……」
ジークヴァルトはどこか苦しげな表情を見せて、そう言った。
オリヴィアは戸惑った表情を見せる。
彼は命じられたと言った。
王太子である彼に命じることが出来る人間は、一人しか存在しない。
(まさか、陛下が……?)
答えを見つけると、オリヴィアの顔からは表情が消えていく。
「このことは婚約者であるリヴィにも黙っているようにと命じられたが、お前にも迷惑をかけてしまっている以上、話しておくべきなのかもしれないな」
彼はオリヴィアの瞳の奥をじっと窺うように見つめていた。
そう言いながらも、話す事を迷っているのだろうか。
これを聞いてしまったら、また悩み事が増えるかもしれない。
だけど、何も知らされないまま分からない不安と戦うよりは、知って悩んだ方が全然マシだ。
悩みを共有すれば、解決策だって意外と直ぐに見つかるかもしれないのだから。
「話してください」
「この事実を知ったら、お前をもっと苦しませることになるかもしれないのだぞ」
「構いません」
オリヴィアは彼の目を真っ直ぐに見据えて、冷静な声で答えた。
彼女の中に迷いは一つもなかった。
脅すような言葉を告げられて、怖い気持ちも若干あった。
しかし、自分だけが蚊帳の外で何も知らされない方が、オリヴィアには耐えがたかった。
今のままだとジークヴァルトとの距離が遠ざかっていってしまいそうで、それをなんとかして食い止めたかったのかもしれない。
「お前は本当に出来過ぎた婚約者だな。それに比べて私は不甲斐なくて、心底自分が嫌になる。陛下に言われたことに、ただ従うことしか出来ないのだからな」
「そんな風に自分を卑下させてはいけません。あなたは不甲斐ない人間ではないし、わたしは立派な方だと思っています」
彼の弱音を見たのは、これが恐らく初めてだ。
それ程までに、彼も何かに追いつめられているのだろう。
だったら尚更のこと、自分が支えなくてはならないのだと、オリヴィアは思った。
「話してください」
「……本当に後悔はしないか?」
「くどいですよ」
「そうだな。それでは話すが、これから私が話すことは他言無用で頼む」
「分かりました。これはわたし達二人の秘密ですね」
オリヴィアはクスッと笑って冗談交じりに答えると、ジークヴァルトは僅かだが表情を緩めた。
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