上 下
30 / 151

第30話 グラビティ・スタンプ&俺、エルの過去を見る

しおりを挟む
「愚かしき者共に、見えぬ楔を打ち込み地に伏せ果てろ。グラビティ・スタンプ」

 俺はエルに教える魔法スキルをコロッセオの適当な所へ詠唱する。すると、1メートル程離れた地面が、突然陥没し2メートル大の穴が出来上がるが逆再生の様に直ぐに更地へと戻る。

「「凄い……」」
「驚いたか? どんな強力なスキルを放ってぶっ壊そうが、瞬時に元に戻るからな。幾らでもぶっ放せるぞ。これともう一つ魔法を教える。あ、そうだ。もう一つの魔法だが、せっかくだからアーサーにも覚えて貰おうかね」
「うん。わか……った」
「僕にも新しい魔法を教えて頂けるんですか!? やったぁ!」

 俺は前準備の為にエルにアイテムを渡す。

「エル、修行を始める前にこいつを渡しとくな」

 俺は、インベントリから【友情と努力の鉢巻】を取り出しエルへ手渡す。

「こいつを持っとけ。アーサーにも、同じものを持たせてある」
「これな……に?」
「付けているだけで、強くなれる凄いアイテムだ」
「どうすれば……いい……の?」
「どこでも自分の好きなように付けろ。アーサーみたく、頭に括りつけるのが普通だな。嫌なら持ってるだけでも良いぞ」
「ん……わかった」

 エルは鉢巻を左手に巻きつける。

「良し! じゃ、とっととやるか! アーサー、エルの隣に並んでくれ」

 俺はエルとアーサーの額に手を当て、ギフトを起動させエルにグラビティ・スタンプを。そして、エルとアーサーにエアリアル・ダイブを伝授する。

「エル、俺に向かってグラビティ・スタンプをMP半分――じゃなくて、ちょっち疲れる程度になるまで放ち続けてみようか」
「え……いいの?」
「おうよ、思いっきりかませ」

 エルは、眼を閉じ呼吸を整えると、俺に向かって、手を翳し詠唱を開始する。

「愚かしき者共に、見えぬ楔を打ち込み地に伏せ果てろ。グラビティ・スタンプ!」

 周囲の重力が乱れ、俺を押し潰そうとするが一切動かずその場に立ち尽くす。

「何だ? そんなものか? お前この国の出身なんだろ? そんなんじゃ蟻も殺せないぞ? もっと本気を出せ。良いか、エル。お前には詠唱をキャンセルした状態で俺程とはいかなくとも、それなりの威力を発揮するまでになってもらうからな」
「クッ……! 愚かしき者共に、見えぬ楔を打ち込み地に伏せ果てろ。グラビティ・スタンプ!」
「だめだ。全くだめだ。お前の本気はその程度なのか? もっと殺意を込めろ。お前冒険者なんだろ? なら命の危機に何度もあってる筈だ。そんなんで良く今まで生きてこれたな」

 俺はエルを延々と煽りながら、グラビティ・スタンプを唱え続けさせた。

 2時間後……。

「最初よりはマシになった。だが、まだまだ足らないな」
「ハァ……ハァ……グ……グラビ……」

 俺はインベントリからハイエーテルを取り出し、エルの方に放り投げる

「飲め。MPが尽きようとしてる。飲んだら少し休憩だ。エル、何故本気を出さない?」
「だって……ゲインあいつらと違って優しいから……」

 俺はエルの頭に手を乗せ魔法スキルを発動させる。
「少し頭の中を、お前の記憶を辿らせてもらうぞ。サイコメトリー」
「え?」

 数々のエルの姿が、俺の頭の中へと流れこんでくる。


 ――私の名はエルメンテ。エルメンテ・ド・シュビエル。
 私はシュビエル家に仕えるメイドが生んだ娘としてこの世に生を受けた。
 父も母も、私をとても可愛がってくれた。私は幸せだった。私には2人の姉がいた。アイーナとイクルナだ。アイーナは金色の髪にストレートロングヘアーが似合っている。イクルナも同じく金色の髪をしているが左右の髪が縦にロールしている。この2人にとって私は只の邪魔者ようで、愛する父を取られるとでも思ったのか、ある日を堺に親のいないとこで毎日のように虐待を受けるようになった。罵詈雑言は当たり前。魔法の杖を折られたり、引っ叩かれたり。その位何とも思わなかった。何をされようが無反応を貫いた。いつか飽きが来てやめてくれるだろう、そう思った。そう思っていたある日……母が倒れた。どんなに薬を飲ませても、治る事はなかった。母はどんどん衰弱していき、遂に亡くなってしまった。
 魔法学校にいる時は何故か、接触してこなかった。トイレに篭もり考え事をしていたある日、姉達が偶然入ってきて、私は真実を知る事になる。

「フフッ、あの女の母親ようやく死んだわね」
「ええ、長かったですわねお姉様、食事何とか毒を仕込み、体調を崩してからも薬と偽って毒を少しずつ飲ませていったんですもの」

 私は気が狂いそうになった。思わず叫びそうになった。あの2人が母を毒殺したのだ。絶対に許さない。いつか必ず復讐してやる。私は胸に誓った。

 だから、勉強し続けた。早くこの牢獄から抜け出す為に。気付いたら私は大きな声の出し方を忘れていた。だが、些細なことだと気にならなかった。図書館に篭って勉強していたある日、私にユニークスキルが発現していた。相手を注視する事でステータスや、使える魔法、弱点までもわかるというスキルだ。
 私は、このスキルを使いありとあらゆる授業で高得点を出し続けて、魔術学校を主席で卒業した。私は特例が認められ、最速で研究者へとなるか冒険者へなる事が認められた。私は冒険者へなる道を選んだ。この国に、いや、姉達の近くに居たくなかった。一刻も早く抜け出したかった。冒険者として、実力と、経験を積み、なんとしても復讐を成就させる。その為に。


 俺はサイコメトリー解除する。

「お前良いとこのお嬢さんだったのか。2人の姉に虐待を受け続け、母親を毒殺されその復讐の為に、今まで生きてきたと?」
「う……ん、あの2人は絶対に許さない」
「くだらんな。たかが、そんな事か。良いか? よく聞け。俺は邪魔する者あらば蹴散らすつもりでいる。そうしなければこちらが殺られるからだ。魔術大会には、恐らくお前の姉も出場するだろう。その時に復讐でも、何でも好きにすりゃいい。俺はあくまで大賢者に会う為に魔術大会へ出場する。その為にはお前にスキルを覚えて貰わなきゃならんのだ。最初に言ったな? 殺意を込めろと。今のままじゃ、復讐どころか逆に殺されるぞ。もう一度言う。俺にその姉達に向ける殺意を込めて、グラビティ・スタンプを放て」
「……愚かしき者共に、見えぬ楔を打ち込み地に伏せ果てろ。グラビティ・スタンプ!!」

 俺の立っている地面が、音を立てて徐々にひび割れていき、1メートル程の凹みが出来た。

「良し。合格だ。今の感覚忘れるなよ? 最終的には詠唱を省略した状態でこれ位の威力が出せる様になってもらうからな」

「今から1週間これとAEW。そして、お前の覚えてる魔法スキルを全て俺に叩き込み続けろ。良いな」
「うん。わかった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

魔法の魔ローダー✿セブンリーファ島建国記(工事中

佐藤うわ。
ファンタジー
 ファンタジー架空戦記建国もの+ほのぼの日常魔法ラブコメです!!  ひょんな事から主人公は硬くなったり雷が出るだけの単純な能力を貰い銀髪三白眼少年になって異世界転生させられるが、ちょっとだけ変態の少し痛い性格になってしまう……  無限の魔力があるが魔法が使えなくなり家出した小国の王女で超絶美少女雪乃フルエレの危機を救い、一目惚れされ良いゴーレムと勘違いされ、砂緒という名前を貰って仲間になり特に目的も無いので彼女と旅をしたり魔法ロボットで戦ったりする内に自分好みの国を建国します!  砂緒はひたすら彼女を助け必死に守っていく健気な物語ですが時々浮気もします…… お気に入り支援お願いします!! 小説家になろうで重複投稿しています。

俺がマヨネーズ男爵だとぅ!?~異世界でおっさん領主は奴隷ちゃんと結婚したい

武蔵野純平
ファンタジー
美少女性奴隷と幸せに暮らすため、おっさんは異世界で成り上がる! 平凡なおっさんサラリーマンの峰山真夜は、ある日、自室のドアが異世界につながっている事を知る。 異世界と日本を行き来し、異世界では商売を、日本ではサラリーマンの二重生活を送る。 日本で買ったアイテムを異世界で高額転売し金持ちになり、奴隷商人のススメに従って美少女性奴隷サラを購入する。 愛する奴隷サラと幸せに暮らすため、おっさんサラリーマン・ミネヤマは異世界で貴族を目指す。 日本ではかなえられなかった立身出世――成り上がりに邁進する!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

運極さんが通る

スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。 そして、今日、新作『Live Online』が発売された。 主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

処理中です...