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午後の授業中、ドアが勢いよく開かれたと思うと、鬼のような形相を浮かべたラインハルト様とフィーナ様がやって来た。


「クロエ! リチャードとかいう奴に唇を奪われたというのか本当か!?」


「フィーナ様、落ち着いてください。まずは事情を聞かなくてはなりませんよ」


ラインハルト様はフィーナ様を宥めると私に向き直って言った。


「クロエ嬢、事情を教えていただけないでしょうか?」


私は迷ったものの正直に話すことにした。すると二人は納得したように頷くと言った。


「……なるほどな、そういうことか……」


「はい……それでどうすればいいのかわからなくて困ってるんです……」


「許せん! その不届き者をこの手で成敗してくれるわ!」


「待ってください! 相手は王子なのですよ? そんな簡単に手を出せる相手ではありませんよ?」


今にも飛び出していきそうな勢いのフィーナ様をラインハルト様が止める。確かにその通りだと思った私は慌てて言った。


「ありがとうございます……でも大丈夫ですから……!」


「……しかし……!」


納得していない様子の二人を見て困っていると、そこに助け舟が現れたのだった。それはなんとエミリーだった。彼女は微笑みながら言う。


「まあまあ落ち着いてください。クロエちゃんだって困ってるじゃないですか?」


「むう……確かにそうだな……」


「そうですね、失礼しました」


二人は素直に頭を下げると再び私に向き直った。そして真剣な表情で言う。


「……ではこうしようじゃないか。今後そいつには絶対近寄らないこと! そして何かあったら私たちに相談すること!いいね?」


「はい、わかりました……!」


そうしてひとまず話がまとまったところで授業開始を告げるチャイムが鳴り響き、私たちは慌てて教室に戻ったのだった。


「クロエちゃん! 一緒にお昼ご飯食べよう!」


昼休みになると、エミリーが駆け寄ってきた。そして私の手を掴むと強引に引っ張っていく。その様子をクラスの男子たちが羨ましそうに見つめていたのだが、当の本人は全く気にしていない様子だった。そのまま中庭までやって来るとようやく手を離してくれたのでホッと胸を撫で下ろすと同時に疑問が浮かんだので尋ねてみた。


「ねえエミリー、どうして急に誘ってくれたの?」


すると彼女はニッコリ微笑んで答えたのである。


「そんなの決まってるじゃない。私はクロエちゃんともっと仲良くなりたいと思ったからだよ」


その一言を聞いた瞬間、私は思わずドキッとしてしまった。それはまるで告白されているかのような気分になってしまったからだ。


「クロエ」


いつの間にかリチャードが隣に立っていて声をかけてきた。驚いてそちらを見ると彼は無表情のまま言ってくる。


「一緒に飯を食おう」


リチャードは強引に私の手を取って歩き出すと、そのまま歩き出してしまったため、私は仕方なくついていくことにした。エミリーも後ろからついてきているようだったが特に文句を言うつもりはないようだ。


「あの……リチャード様……」


「何だ?」


「手を離していただけませんか……?」


私が恐る恐る言うと、彼は立ち止まって振り返った。そして手を離すとそのまま何も言わずに立ち去っていってしまったのである。その様子を見ていたエミリーが心配そうな声で言った。


「クロエちゃん大丈夫……? あの人に酷いことされてない? もし何かされたら私に言ってね!」


「う、うん……ありがとう」


私はそう答えることしかできなかったのだが、それでも彼女は満足そうな顔をしていたのだった。それから私たちはベンチに座ってお昼ご飯を食べることにしたのだが、何故かエミリーは隣に座ったのである。しかもピッタリと体を密着させてくるものだから落ち着かないったらありゃしない……!


「ちょ、ちょっと! そんなにくっつかないでよ!」


私が抗議すると彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて言ったのだった。


「えぇ~、いいじゃん別にぃ~」


「良くないよ!」


そんなやり取りをしている私達をリチャードがじっと見つめていたことに気づいた私は慌てて弁解しようとしたのだが遅かったようだ。彼は不機嫌そうに舌打ちをするとどこかへ行ってしまったのである……。
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