俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜

5

翌日、俺たちは家でゴロゴロしていると、玄関のチャイムが鳴る。


「はーい」


扉を開けると、そこには見覚えのある少女が立っていた。


「君は……」


そこに立っていたのは、先日チンピラに絡まれていた少女だった。


「この前は助けてくれてありがとうございました」


少女はぺこりと頭を下げる。


「無事だったようでよかったよ」


俺が微笑むと、彼女は頬を赤く染めた。


「それで、今日は何の用かな？」


俺が尋ねると、彼女は恥ずかしそうにモジモジし始めた。それから意を決したように口を開く。


「あの……お礼がしたいので、私の家に上がってくれませんか？」


俺は彼女の言葉に驚く。まさかそんなお誘いを受けるとは思っていなかったからだ。


（う～ん、どうしようかな……）


そんなことを考えていると彼女の顔がみるみるうちに青ざめていく。


『何じゃ、この前の女子か』


人化が解けて、馬鹿でかいフェンリルの姿になっているリザが不機嫌そうに言った。


「こ、この大きい狼さんはなんですか……？」


フェンリルの放つ圧倒的な存在感に圧倒されたのか、彼女は後ずさりする。


『我はフェンリルじゃ。よろしく頼むぞ』


リザは少女に近寄ると、スンスン匂いを嗅ぎ始めた。


「き、きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ！！！！！！！！」


あまりの恐怖にその場にへたり込む少女。しかしそれも無理はないかもしれない。体長3メートルはある巨大なオオカミが現れれば誰だって驚くはずだ。


「おい、現実では人間の姿でいろとあれほど……」


俺は慌ててリザを止める。このまま放っておけば、この少女が恐怖のあまり失神してしまいそうだ。


『む、そうか』


リザは渋々といった感じで人化すると、少女の手を取った。


「ほら、立ち上がれるか？」


「あ、ありがとうございます……」


少女はリザに手を引かれながら立ち上がった。それから改めて自己紹介をする。


「俺は新城直人、こっちはリザだ」


「私は木村紗彩といいます」


彼女はぺこりと頭を下げた。どうやらかなり礼儀正しい性格のようだ。


「本当にフェンリルが人間の言葉を喋ってるんですね……」


彼女は感心した様子で言う。どうやらリザのことを本物のフェンリルだと思っているらしい。


「とりあえず、中にどうぞ」


俺たちは家の中へと入っていった。リビングに通された紗彩は興味深そうに部屋を見回す。


「素敵なお家ですね」


「ありがとう」


俺は紅茶を用意すると、紗彩の前に置いた。


「実は俺の祖父が勇者でね……」


俺は自分が異世界から来た人間だということを彼女に話した。そしてリザがフェンリルであることも伝える。


「まるでラノベみたいですね……」


紗彩は苦笑いしている。


「まぁ、信じられないよな」


俺も自分が異世界から来た人間だと言われても信じることはできなかっただろう。だから紗彩の反応も理解できる。


「いえ、信じますよ」


しかし、紗彩はあっけらかんとした様子で言った。


「え？」


「だって、実際にフェンリルさんがいるんですから」


彼女はリザの方を見る。


『なんじゃ、我に惚れたかえ？』


リザは冗談めかして言う。


「……そうか、ありがとう」


俺は心から感謝した。やはり誰かに信じてもらえるというのは嬉しいことだ。俺の心が少しだけ軽くなるのを感じた気がした。


「もし良ければ……私も異世界に行ってみたいです」


彼女は目を輝かせて言う。その純粋な瞳に、俺はドキッとした。


「じゃあ、行ってみるか？」


俺はリザの方をチラッと見る。リザは頷いた。


『うむ、構わんぞ』


こうして、俺たちは紗彩を連れて異世界へ行くことになったのだった。