上 下
4 / 20

4

しおりを挟む
翌朝、窓から差し込む太陽の光で目を覚ました私は、身支度を整えると一階へ降りた。


「おはようございます」


私が挨拶をすると、受付嬢のエリカさんが笑顔で挨拶を返してくれる。


「あら、おはよう! 昨日はよく眠れたかしら?」


「はい! おかげさまでぐっすり眠れました!」


「それは良かったわ」


少しするとカイトさんがやってきた。


「やあ、おはよう」


「おはようございます!」


挨拶を交わすと、引き受ける依頼をカイトさんに選んでもらう。


「今日も採取の依頼でいい?」


「どんな内容ですか?」


一通り目を通したルクトさんが指差す依頼板を覗きながらも、口頭で答え待つ。


「アーガス南東にある『溶岩の森』に生えている『マグマの木』の皮を削り取るだけの簡単な依頼だ」


「わかりました。でも、溶岩の森って……危険はないんですか?」


「クロエなら大丈夫だって、俺の判断で選んだから、問題はないさ」


私を高く評価してくれているのは嬉しいのだけれど、少し不安になる。


「ちなみに、『溶岩の森』はどんな魔物が出没するのですか?」


「あそこには、火属性の魔物が生息している。だから、水属性の魔法が使えないとキツいかな」


「それなら大丈夫です! 私、得意ですから!」


私は自信を持って答えた。実際問題として、私の魔力は常人を遥かに凌駕するレベルなのだ。森に生息する魔物程度なら歯牙にも掛けないだろう。


「それじゃあ、受注するね」


『溶岩の森』は馬車を乗り継ぎながら3時間ほど離れた場所にあるようだ。徒歩で向かうとかなり時間が掛かるため、今回は馬車を利用することにした。


馬車に揺られること数十分後、私たちは目的地に到着した。『溶岩の森』はその名の通り、燃え盛るマグマがあちこちを流れている場所だった。木々は溶けかけた状態で立ち並び、地面からは蒸気が立ち上っている。そして何よりも目を引くのは、あちこちに転がっている岩石群だ。それらはまるで火口から流れ出た溶岩のように真っ黒に焼け焦げている。


「ここが『溶岩の森』ですか……。初めて来ました」


私が周囲を見回しながら呟くと、カイトさんが説明をしてくれた。


「ここはかなりの高温で有名でね。下手に近づくと火傷じゃ済まないから気を付けてね」


その言葉に私はゴクリと喉を鳴らした。改めて危険な場所に来てしまったのだという実感が湧いてきたからだ。しかし、ここで怖じ気付いてはいられない。私は深呼吸をして気合いを入れ直した。


「よし! 行きましょうか!」


「了解」


こうして、私達は森の中へと足を踏み入れたのだった。

森の中は薄暗く、ジメジメとした空気が漂っている。時折吹く風によって木々の葉が擦れる音以外聞こえないほど静まり返っていた。まるで別世界に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥るほどの不気味さだ。しかし、ここで怖気づいているわけにはいかないと自分に言い聞かせながら歩みを進めることにした。


しばらく歩いていると、前方に大きな影が見えてきた。どうやら魔物のようだ。私は立ち止まり、その影を凝視した。どうやら狼のような姿をしているらしい。だが、普通の狼と比べるとかなり大きい。体長は3メートル近くもありそうだ。


「あれはファイアウルフだ。油断しないようにね」


カイトさんはそう言うと、腰から剣を抜いた。私もそれに倣うように杖を構える。そして、戦いが始まった!


「アイスアロー!」


先制攻撃とばかりに魔法を放つが、素早い動きで避けられてしまった。しかし、それは想定内だ。私は続けざまに次の魔法を放った。


「ライトニング!」


私の指先から放たれた雷光が激しく迸り、ファイアウルフに直撃した。轟音と共に激しい閃光が森を照らす。煙が晴れると、そこには倒れ伏すファイアウルフの姿があった。どうやら倒せたようだ。


「やった……!」


初めての戦闘に勝利したことに安堵しつつ、カイトさんの元へ駆け寄る。すると彼は感心したように呟いた。


「まさか1発で倒してしまうなんて驚いたよ」


「ふふん! どうでしたか?」


「うん、上出来だよ。後はこいつの素材を回収しよう」


そう言ってカイトさんがファイアウルフから牙を引き抜くのを見て、私もそれに倣うことにした。『ファイアウルフ』の牙を袋に詰め込むと、私たちはさらに奥へと進むことにした。しばらく進むと、一本の巨大な樹木が生えていた。


「あれが『マグマの木』だよ」


『マグマの木』の皮を採取しようとすると、地面から巨大な岩のような魔物が現れた!


「あれは……マグマリザードだ!」


カイトさんはそう言いながら剣を構えた。マグマリザードはその名の通り、マグマのような燃え盛る皮膚を持つ大きなトカゲだ。その大きさは5メートル近くもあるだろう。鋭い爪と牙を持ち、口から鋼鉄をバターのように溶かす炎を吐く。かなり強力な魔物のようだ。私は緊張しながらも杖を構えた。


「こいつは厄介な相手だ! 油断するなよ!」


カイトさんはそう叫ぶと、マグマリザードに向かって駆け出した! 私もそれに続くように走り出す!


「アイスアロー!」


私の放った魔法は命中したものの、あまりダメージを与えている様子はない。どうやら皮膚が分厚くて物理攻撃が通りにくいようだ。しかし、ここで諦めるわけにはいかない!


(何か方法はないかな……?)


そんなことを考えていた時、ふとあることを思い出した。それは以前読んだ本に書いてあったことだ。確か、溶岩やマグマといった高温の環境下では鉄の融点は下がると書いてあったはずだ。それならば……


「アイスレイン!」


私は氷属性の攻撃魔法を放つ。上空に発生した無数の氷の矢は一斉にマグマリザードに向かって降り注いだ! 命中した箇所がパキパキと音を立てて凍りついていく。すると、マグマリザードの動きが鈍くなったように見えた。やはり予想通りだ!


「今です! カイトさん!」


私の声に反応し、カイトさんは素早く距離を詰めた。そして、剣を振り下ろす!


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」


マグマリザードは断末魔の悲鳴を上げると、その場に崩れ落ちた。どうやら倒せたようだ。ほっと胸を撫で下ろすと、カイトさんが微笑みながら言った。


「よく頑張ったな」


私は照れくさくなって頬を赤らめたのだった……


『溶岩の森』で採取した素材を荷台に載せた後、私たちは帰路に着いた。その道中で先程の戦闘について話し合うことにした。


「それにしても凄かったよ。まさかマグマリザードを一人で倒してしまうなんて」


「いえ、カイトさんがいなかったら危なかったです」


謙遜ではなく、事実としてそう告げたのだが、彼は苦笑いを浮かべていた。何かおかしなことを言っただろうか? と考えていると、彼が口を開いた。


「俺は何もしてないよ。全部クロエの手柄さ」


「そんなことはありません! 私一人だったらきっと勝てませんでした!」


そんなやり取りをしている内に馬車は街へと辿り着いたのだった。ギルドに素材を納品し終える頃には、既に日が暮れかけていた。


「明日もこの調子で頼むよ」


「はい!」


カイトさんと別れると、宿屋で夕飯を食べ、ベットに横たわるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

処理中です...