悪役令嬢の兄に転生したので、妹を聖女に生まれ変わらせます

11

帝国軍との戦争から数週間後、俺たちは再び学園での生活に戻った。クロエと一緒に登校していると、アリアの姿が見えた。


「あら、アリアさん」


クロエが声をかける。すると、アリアは微笑んで言った。


「おはようございます。二人ともこれから登校ですか？」


「ええ、そうよ。あなたも一緒にどうかしら？」


クロエの提案に、アリアは少し迷った様子を見せたが、やがて小さく頷いた。俺たちは三人で談笑しながら校舎へと向かった。


「今日はこのクラスに転校生が来ます」


教室に入るなり、担任の教師が言った。生徒たちが一斉に騒ぎ始める。


「どんな人なんでしょうか？」


クロエが目を輝かせて言った。すると、教室の入り口から一人の少女が入ってきた。彼女は緊張した様子で教壇に上がると、ぺこりと頭を下げた。


「はじめまして！ 私はリーベ・フォン・アルカディアと申します！ どうかよろしくお願いいたします！」


その言葉に、クラス中がざわついた。無理もないだろう。隣国の王女が転校してくるとは誰も思っていなかったはずだ。


「私はカイト様の婚約者なので、皆様仲良くしてくださいね！」


リーベの言葉に、クラスメイトたちは驚きを隠せなかった。特に男子生徒からは嫉妬の視線が向けられる。俺は慌てて彼女を諫めようとしたが、時既に遅かったようだ。


「おい！ なんでお前が婚約者なんだよ！？」


一人の生徒が声を荒げた。すると、それに呼応するかのように他の生徒たちも騒ぎ始めた。しかし、そんな中でもリーベは全く動じていない様子だった。それどころか余裕のある表情を浮かべているように見えるほどだ。そして、彼女はゆっくりと口を開いた。


「あら、おかしいことかしら？ 私はカイト様を愛しているし、彼も私を愛してくれているわ。それを咎める権利なんて誰にもないと思うんだけど？」

彼女の言葉は正論だった。しかし、その言葉に反感を抱いた者たちはますますヒートアップしていく。


「うるさい！ お前なんか認めないぞ！」


男子生徒の一人が叫んだ瞬間、教室の中が静まり返った。リーベの表情からは笑みが消え去り、冷たい眼差しで彼らを見据えている。その威圧感に誰もが言葉を失った。そんな中、彼女は静かに口を開いた。


「……そう」


それだけ言うと彼女は自分の席へと戻った。そして、何事もなかったかのように授業が始まったのだった。


「カイト様、お昼はどうされますの？」


昼休み、クロエが声をかけてきた。


「そうだな……今日は天気もいいし、中庭で食べないか？」


俺が提案すると、クロエは嬉しそうに頷いた。そして、三人で中庭へと向かうことにしたのだった。


「お兄様！ あそこに座って食べましょう！」


リーベが指さす方向には大きな木の下があった。確かにあそこなら日陰になっていて居心地が良いだろう。


「はい、あーん」


リーベがサンドイッチを差し出してくる。俺はそれを口に含むと、ゆっくりと咀嚼した。


「うん！ 美味しいよ！」


俺が褒めると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。そんな俺たちの様子を、周りの生徒たちが羨ましそうに見ていることに気が付いた。その視線に気付いたのか、クロエが言った。


「あら、あなたたちも食べたいのかしら？」


その言葉に、男子生徒たちが慌てて首を横に振る。しかし、そんな彼等の様子を見て、今度はアリアが口を開いた。


「よろしければ私が作ってきますよ」


そんな彼女の申し出に、周囲の男子たちが一斉に群がった。


「本当か！？ ぜひ頼む！」


生徒たちの反応を見て、アリアが困ったように言った。


「……さすがに全員分作るのは大変だと思うけど頑張るしかなさそうね……」


その言葉を聞き、男子生徒たちは黙り込んだ。しばらく沈黙が続いた後、一人の少女が進み出た。それは先ほどリーベに対して暴言を吐いた生徒だった。


「すみませんでした！ もう無礼な真似はしませんので許してください！」


深々と頭を下げる彼に、周りの生徒たちも同調するように謝罪の言葉を口にした。その光景を見ていたクロエが満足そうに言った。


「これで一件落着ね」


その言葉に、アリアも安堵した様子だった。こうして騒動は収まり、平和な日常を取り戻したのだった……