上 下
29 / 30

29

しおりを挟む
次なる試練は、想像を絶するものだった。古代の魔法が渦巻く塔の中で、俺たちは数々の罠や謎解きに挑戦しなければならない。しかし、その先に待つのは新たな力と知識だけではなく、心までも試される過酷な旅路だ……。


「行くしかないな」俺は深呼吸をし、覚悟を決めた。仲間たちもそれぞれ力強く頷き返す。


『その意気じゃ』ノワールが尻尾を振りながら言った。『お主らなら、必ず乗り越えられるじゃろう』


螺旋状の階段の先に、次の階層へと続く扉が見えた。それはまるで古代魔道の複雑なパズルが組み合わさったような構造をしており、俺は小さく息を吐いた。


「これ全部解かないといけないのか……?」フィーナが不安そうに呟く。


『ふむ……これは中々に難物じゃのう』ノワールも唸るように答えた。「さすがに一筋縄ではいかんようじゃな」


階段を上り切った先にあったのは、巨大な円形の部屋だった。壁一面には奇妙な文字や記号のようなものが刻まれ、中央には複雑な装置のようなものが設置されている。だが、それら全てに魔力が満ちており、迂闊に触れるのは危険だと感じさせる。


「これは……古代の魔法道具か?」俺はゆっくりと近づきながら呟いた。


『おそらくな。この装置は何かを起動させるためのものじゃろう』ノワールは慎重に周囲を見渡しながら言った。『じゃが、その原理や仕組みを理解するためには相当な時間と知識が必要じゃな……』


その時、部屋の壁の一部が突然輝き出したかと思うと、空中に映像が浮かび上がった。その映像には、壮年の魔道士と思われる人物が映し出されていた。白髪に深いしわが刻まれた顔、そして長いローブをまとい、杖を持つその姿は、威厳に満ちていた。だが、その瞳には奇妙な冷たさがあり、ただ者ではないことを示していた。


「試練に挑む者よ……」彼は低く響く声で語り始めた。「ここは、古代の知恵と力を得る者のみが進むべき場所。我が名はアルセイド、かつてこの塔を守護した者だ」


その名に聞き覚えはなかったが、ただならぬ存在感に俺も仲間たちも息をのむ。


「これより与える試練は三つ。すべてを突破せし者のみ、次の階層への扉を開くことを許される。その代わり、試練に失敗すれば……命を失う覚悟をせよ」


「命を失う、だと?」フィーナが息を呑むように言った。


「どうやら本気の試練らしいな」俺は冷静を装いながらも、心の奥底で緊張が走った。


アルセイドの映像が消えると同時に、部屋の中央の装置がガシャリと音を立てて動き始めた。そして、その場に三つの円形の光のゲートが現れた。それぞれ異なる色で輝いている。赤、青、そして緑。


『色によって試練の内容が違うようじゃな』ノワールが興味深げに尻尾を振る。『さて、どれを選ぶかじゃな?』


「時間は限られていないみたいだが、どれも簡単ではなさそうだな」俺はゲートを見比べながら言った。


赤いゲートには「炎の迷宮」と記されている。青いゲートには「水晶の知恵」。そして緑のゲートには「森の幻影」。


「炎の迷宮は物理的な力を試されるだろうし、水晶の知恵は知性の試練、森の幻影は精神の強さを試されるといったところか」俺はゲートの説明を読み上げながら分析する。


『お主はどれにするつもりじゃ?』ノワールが興味深そうに俺を見上げた。


「どれを選んでも困難なのは間違いない。だが……」俺は青いゲートに目を向けた。「まずは『水晶の知恵』だ。知識と分析なら、俺たちに向いている」


「賛成」フィーナが即答する。「頭を使うのは得意よ、きっと乗り越えられる」


『ほほう、面白い選択じゃ』ノワールはクスクスと笑った。『よし、ならば参ろうかの』


俺たちは意を決して青いゲートに足を踏み入れた。


青い光に包まれた瞬間、風景が一変した。そこは無限の空間のような場所で、無数の水晶が宙を漂っていた。それぞれの水晶の中には複雑な模様が刻まれており、まるでパズルのピースのようだ。


「これが試練の場か……」俺は目の前の浮かぶ水晶を注意深く観察した。


その時、水晶の一つが突然声を発した。


「我を正しき順序で並べよ。さすれば道を示そう」


水晶の間に一瞬で現れる無数の魔法陣と紋様。それは知恵だけでなく、魔力の繊細な操作が求められる課題だった。


「よし、やってやろうじゃないか」俺は笑みを浮かべ、手をかざした。


俺は水晶の周囲を慎重に見回した。それぞれが異なる色彩と模様を持つ水晶の配置は、まるで絡み合うパズルのようだ。だが、一つだけ共通点がある――魔法陣が全て中心へと収束する構造になっている。


「正しき順序で並べよ、か」俺は呟いた。「これは単に形や色だけの問題じゃない。おそらく、魔力の流れを正確に読み解かないといけない」


「つまり、間違えたら……」フィーナが不安げに言葉を切る。


「爆発でもするかもな」俺は軽く笑ってみせたが、冗談ではないかもしれない。


『慎重にな』ノワールが真剣な表情を浮かべた。『この水晶は単なる飾りではない。古代の魔術が仕込まれておる』


俺は魔力を指先に集中させ、水晶の一つに触れる。すると、頭の中に突然膨大な情報が流れ込んできた。魔力の流れ、模様の意味、そして隠されたエネルギーの結びつき。


「なるほど、これは頭を使うだけじゃない。魔力を正確に操作しなければ順序は解けない仕組みだ」


「でも、どうやってそれを見分けるの?」フィーナが焦り気味に尋ねる。


「流れだ」俺は目を閉じて集中する。「全ての水晶から流れ出す魔力の方向を感じ取れれば、どの順番で配置すべきかが分かるはずだ」


俺は指を水晶の上で滑らせ、流れる魔力を視覚化する。光のラインが空間を繋ぎ、徐々に一つの形を成していく。それは複雑な迷宮のようでありながら、一貫した論理が存在する。


「よし、これだ」俺は最初の水晶を選び、中央の台座に置いた。水晶が淡い光を放つと、空間全体に響くような音が鳴り響いた。


『うむ、正解じゃな』ノワールが満足げに言う。


「次はこれだ……」俺はさらに魔力の流れを読み取り、次々と水晶を配置していく。


三つ目、四つ目と配置するたび、台座から放たれる光が増し、空間全体が輝きを増していく。しかし、五つ目の水晶に触れた瞬間、突然周囲の空気が変わった。


「ん?これは……」


空間全体が揺らぎ始め、水晶の一つが赤黒い光を放ち出した。


「やばい!」フィーナが叫ぶ。


『その水晶は偽りのものじゃ!』ノワールが鋭い声で警告する。『間違えた水晶を選ぶと罠が発動するぞ!』


「くそっ!」俺は即座に魔力を操作し、水晶から手を離した。だが遅かった。罠が発動し、空間に鋭い槍のような光の矢が出現した。


「みんな伏せろ!」


俺は瞬時に結界を展開し、仲間たちを守る。光の矢が次々と結界に衝突し、激しい音を立てたが、俺の力をもってすれば破ることはできない。


「やれやれ、やっぱり一筋縄ではいかないか」俺は苦笑しながら結界を解除し、再び水晶を見つめる。


「次はもっと慎重にいく」俺は手を再び水晶に伸ばし、魔力の流れをさらに深く感じ取る。「これだ……今度こそ間違いない」


慎重に五つ目の水晶を配置した瞬間、空間全体が静まり返った。そして、中央の台座が低い音を立てて動き出し、青い光の道が現れた。


『見事じゃ』ノワールが満足げに言う。『これで第一の試練は突破じゃな』


「簡単じゃなかったけど、ここまでは予定通りだな」俺は汗を拭いながら笑った。「次に行くぞ」


俺たちは青い光の道を進み、次の試練へと向かった。これが終わりではない――まだまだ過酷な挑戦が待っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...