「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる～今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い～

21

ある日のこと、俺たちはギルドマスターの呼び出しを受け、支部長室へと足を運んだ。


「失礼します」


扉を開けると、そこにはギルドマスターのダグラスさんが待ち構えていた。いつも通りサングラスをかけ、ソファに座っている。


「来たか」


そう言って俺たちを見回し、口を開いた。


「実は新しい依頼が入ったんだ。だがちょっと厄介な案件でな……」


俺は眉をひそめる。一体どんな内容なのか想像もつかないが、かなり深刻な状況であることは間違いなさそうだ。


「詳しく聞かせてくれますか？」


俺の言葉にダグラスさんは頷き、一枚の紙を取り出した。そこには奇妙な紋章が描かれているだけだった。


「この紋章を見てくれ」ダグラスさんはそう言って紋章を指差した。その表面には複雑な紋様が刻まれており、どこか禍々しさを感じさせるデザインだ。


「この紋章には何が込められていると思う？」


俺は少し考え込んだ後、ゆっくりと答えた。


「呪い……ですか」


その言葉に反応するように、ダグラスさんの眉間に深い皺が刻まれた。そして彼は重々しく口を開く。


「……その通り、この紋章には呪いがかけられている。それもかなり強力なものだ」


「一体どんな呪いなんですか？」


俺が尋ねると、ダグラスさんは厳しい表情で言った。


「これは『死者の刻印』という呪いだ。この紋章に触れたものは例外なく死に至ると言われている」


俺は息を呑んでその紋章を見つめた。確かに、見ているだけで背筋がゾッとするような恐怖を感じる。だが同時に、その美しさにも目を奪われてしまう。まるで生きているかのように脈動する紋様……それはまさに死の芸術と呼ぶに相応しい代物だった。


「その呪いは誰がかけたんですか？」


俺の言葉にダグラスさんは首を横に振った。


「詳しいことはまだ分かっていないが……恐らくこの紋章を刻んだ者だろう」


俺は改めて紋章を見つめる。一体誰が何のためにこんなものを作ったのか、全く想像がつかない。だが一つだけ言えることは、この紋章には何か不吉な力が宿っているということだ。


「その紋章を解除する方法は？」


彼は一瞬言葉を詰まらせた後、重々しく答えた。


「それを調べるのが今回の依頼だ。だが、この呪いを解くためには『結界術の達人』が必要になるだろう。そして、お前がその候補として選ばれている」


俺の胸が高鳴った。結界師としての実力には自信があるが、これほど強力な呪いに挑むのは初めてだ。しかし、ここで尻込みするわけにはいかない。


「俺に任せてください。どんな呪いでも必ず解いてみせます」


そう宣言すると、俺の隣で仲間のフィーナが不安そうな表情を浮かべた。


「でも、もし何かあったらどうするの？ この紋章、ただの呪いじゃない気がする……」


彼女の懸念ももっともだった。紋章の禍々しい雰囲気は俺たち全員の心を蝕むほどの力を感じさせる。それでも俺は仲間たちに微笑みかけ、安心させるように言った。


「大丈夫だ。俺がこの力を持っているのは、こういう時のためだろ？」


そう言って、俺は手をかざし、わずかに結界の力を解放する。すると空間全体が一瞬震えるような感覚に包まれた。フィーナや黒猫のノワールも言葉を失ったように俺を見つめている。


『……相変わらず規格外じゃな』


「褒め言葉として受け取っておくよ」


俺はそう言って笑い、改めて紋章に向き直った。この紋章はただの呪いではない。何かもっと深い秘密が隠されているはずだ。その謎を解き明かすためにも、この紋章の真の力を知る必要があった。


「さて、まずはこの紋章について詳しく調べよう」


ギルドから出た俺たちは、早速紋章が発見された遺跡へ向かう準備を整えた。


「ノワール、今回も頼むぞ」


『当然じゃ。お主がやらかした時の保険はわししかおらんからの』


そう言って尻尾を揺らすノワールに、俺は苦笑しながら手を差し伸べた。彼女が肩に飛び乗ると、フィーナが俺をじっと見つめて呟いた。


「でも、本当に大丈夫なの？ あの紋章、ただの呪いじゃない気がする……まるで生きているみたいだった」


彼女の声に微かな震えが混じっている。それほどまでに、あの紋章が異質だったのだ。


「大丈夫だ、フィーナ。俺がここにいる限り、誰一人死なせやしない」


俺の言葉に、フィーナは少しだけ安心したように頷いた。だが、その不安を完全に拭うことはできない。俺も同じだった。この依頼は、ただの呪いの解除に留まらない気がしてならないのだ。