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オフィーリア様とクロエは馬に乗り、私はルナと一緒に歩いた。彼女は私のペースに合わせて歩いてくれた。


「ルナさん、本当にありがとうございました」私は改めてお礼を言った。


「いいのよ、困った時はお互い様だからね」彼女は笑顔で答えた。


私たちは静かに王国へと歩を進めていた。夕暮れの砂漠は、オレンジ色の光に包まれていた。


「キョーコ」突然、ルナが私に声をかけた。「その『太陽の宝珠』、まだ何か感じるものがある?」


私は手の中の宝珠を見つめた。確かに、まだ何か不思議な力が宿っているような感覚がある。それは温かく、でも時折痺れるような感覚を伴っていた。


「はい……でも、それが何なのかはわかりません」


ルナは真剣な表情で頷いた。「その宝珠には古代の力が眠っているの。それは使い方次第で祝福にも、呪いにもなり得る」


「呪い、ですか?」


「ええ。だからこそ、慎重に扱わなければならない」


その時、遠くで雷鳴が轟いた。見上げると、空には不気味な雲が立ち込めていた。


「嵐が来るわ」オフィーリア様が言った。「近くに避難できる場所はありませんか?」


レオナルドが地図を確認した。「この先に廃墟となった宿場町があります。そこまで急げば……」


その言葉が終わらないうちに、大粒の雨が降り始めた。私たちは急いで馬を走らせ、宿場町へと向かった。


しかし到着してみると、そこには思いがけない光景が広がっていた。廃墟のはずの建物から、明かりが漏れていたのだ。


「おかしいわ」クロエが眉をひそめた。「ここには誰も住んでいないはず」


「罠かもしれない」レオナルドが剣に手をかけた。


しかし、ルナは落ち着いた様子で言った。「大丈夫よ。この気配は……」


その時、建物のドアが開き、一人の少女が姿を現した。彼女は白い髪を靡かせながら、私たちを見つめていた。


「お待ちしていました」少女は静かな声で言った。「私の名はアリア。『月の巫女』と呼ばれています」


私たちは驚きの表情を交わした。『月の巫女』とは、古くから伝わる予言者のことだ。彼女たちは月の力を借りて未来を見通すことができると言われている。


「どうか中へお入りください」アリアは私たちを招き入れた。「お話ししたいことがあります。特に……」


彼女は私を見つめた。


「『太陽の宝珠』を持つあなたに」


私たちはアリアの案内で建物の中へと入った。暖炉の火が静かに揺らめき、部屋全体を柔らかな光で照らしていた。


「座ってください」アリアは丸テーブルを指差した。私たちは言われるままに腰を下ろした。


「『太陽の宝珠』を見せていただけますか?」アリアが私に尋ねた。


私は少し躊躇したが、オフィーリア様が頷いたのを見て、宝珠をテーブルの上に置いた。アリアはそれを見つめながら、静かに話し始めた。


「古の伝説によれば、『太陽の宝珠』には二つの力が宿っているとされています」


「二つの力、ですか?」私は身を乗り出した。


「はい。一つは創造の力。もう一つは破壊の力です」


アリアは宝珠に手をかざした。すると、宝珠が淡い光を放ち始めた。


「この宝珠は持ち主の心に呼応します。純粋な心を持つ者なら創造の力を引き出すことができる。しかし……」


彼女は一瞬言葉を切った。


「もし心に闇が生まれれば、破壊の力が目覚めてしまう」


「それで、私に何か起きているんですか?」私は自分の胸に手を当てた。確かに、宝珠を手にしてから何か違和感があった。


アリアは深い青色の瞳で私を見つめた。「あなたの中で、力が目覚め始めています。でも、それがどちらの力なのかは……まだわかりません」


「どうすれば……」


その時、突然外で大きな音が響いた。私たちは驚いて立ち上がった。


「来たわ」ルナが低い声で言った。


次の瞬間、窓ガラスが砕け散り、黒い影が部屋に侵入してきた。それは先ほどの遺跡で見た魔族とは違う、もっと強大な存在だった。


「『闇の使徒』!」クロエが叫んだ。


巨大な影は私たちを見下ろしながら、不気味な声で言った。


「『太陽の宝珠』を渡せ」


「渡すわけないでしょう!」私は宝珠を掴み、後ずさりした。


「キョーコ、下がって!」ルナが私の前に立ちはだかった。


しかし、『闇の使徒』は一瞬で彼女を弾き飛ばした。オフィーリア様とクロエが魔法を放つが、それも通用しない。


「無駄なことを」影が言った。「その宝珠は我が主のもの。人間如きが扱える代物ではない」


私は震える手で宝珠を握りしめた。その時、不思議な感覚が全身を包み込んだ。まるで宝珠が私に語りかけてくるかのように……。


「キョーコ!」アリアが叫んだ。「宝珠の力を信じて! あなたの心が、その力を決めるの!」


私は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。そして、心の中で願った。


(お願い、みんなを守りたい……!)


その瞬間、宝珠が眩い光を放った。その光は部屋中を満たし、『闇の使徒』を包み込んでいく。


「なっ……!」影が悲鳴を上げた。「この力は……!」


光は次第に強さを増していき、やがて『闇の使徒』の姿を完全に飲み込んだ。そして一瞬の閃光の後、影は消え去っていた。


「やりましたね」アリアが微笑んだ。「あなたは創造の力を引き出すことができた」


私は両手で宝珠を抱きしめた。確かに、温かな光が私の中に流れ込んでくるのを感じた。


「でも、これはまだ始まりに過ぎません」アリアは真剣な表情になった。「『闇の使徒』は必ずまた現れる。そして次は、もっと強大な力で」


「私たち、どうすればいいの?」クロエが尋ねた。


アリアは窓の外を見つめた。雨はまだ降り続いていた。


「まず、私たちは『月の神殿』へ向かわなければなりません。そこには、この戦いの真実が眠っているはず」


私たちは互いの顔を見合わせた。新たな冒険が、また始まろうとしていた。
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