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翌日、私たちは王宮へと向かった。道中、昨日教わった礼儀作法を何度も頭の中で反芻する。
「着いたぞ」とカイトさんの声。顔を上げると目の前には壮大な門があり、衛兵たちが私たちを見張っている。ここから先は私たち二人だけで進まなければならない。緊張しながらも一歩ずつ前に進んでいく。
中に入ると、そこは別世界だった。煌びやかな装飾が施された柱や天井が目に入る。床一面に敷かれた赤い絨毯の上を歩くたびに、靴底が心地よい音を立てた。そしてその先には、一際大きな扉があった。その前には一人の男性が立っている。
「勇者様!」と彼は叫んだ。白髪頭に立派な髭を生やした老齢の男性だった。
「陛下! 突然の来訪をお許しください」とカイトさんは深々と頭を下げる。私もそれに倣う。陛下と呼ばれた人物は優しく微笑みながら言った。
「話は聞いておる、事情があるようだな。入りなさい」
中に入ると、そこは応接室のような場所だった。豪華な装飾が施された壁や絨毯に圧倒されそうになるが、なんとか平静を保つ。
「こちらに掛けたまえ」
陛下に促され、私たちは椅子に腰掛けた。すると陛下は私たちをじっと見て言った。
「儂はこのアルカディア王国の国王だ。君たちの名前は?」
「カイトです」と彼は答える。続いて私も名乗った。
「クロエと申します」
それを聞いた陛下は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔に戻ると言った。
「ふむ……異世界から来た勇者というのは君かと思っていたが……」
どうやら陛下も私たちのことは既に知っていたようだ。
「陛下は何故僕たちのことを……」
カイトさんが尋ねると、陛下は静かに答えた。
「実は数日前から、異世界から来た勇者がこの国に来ているという情報が入っていてな」
陛下の言葉に私たちは驚愕した。まさか私たちが来る前に既に召喚されていたなんて……。
「その方は今どこに……?」と私が聞くと、彼は少し困ったような表情を浮かべた。
「……今は行方不明だ」
どうやらその人物は私たちよりも先にこの世界に来ていて、何らかの理由で姿を消したらしい。
「そうですか……」
私たちはそれ以上何も言えなかった。すると陛下は立ち上がり、私たちに頭を下げた。
「君たちには申し訳ないことをしたと思っている」
予想外の展開に驚きながらも、私は慌てて言った。「いえ、そんな……顔を上げてください!」
しかし陛下はゆっくりと首を横に振った。
「儂らは勇者召喚の儀を執り行う際に、その者の同意を得ていなかったのだ」と彼は続ける。そして再び頭を下げると、謝罪の言葉を繰り返した。
「どうか許してほしい……」
そんな陛下の様子を見て、カイトさんは優しく肩に手を置いた。
「陛下、顔を上げてください」と彼は言った。「大丈夫ですから……」
その言葉を聞いた陛下はゆっくりと顔を上げる。そして再び椅子に座り直すと、深々と頭を下げた。
「ありがとう……」
私たちはその姿に胸を打たれながらも、同時に疑問を抱いた。なぜこんなに簡単に許してくれるのか? それともこれは何か裏があるのだろうか……。
そんなことを考えていると、不意にドアが開く音が聞こえた。振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。年齢は20代半ばといったところだろうか? 黒い髪を長く伸ばしており、顔立ちは非常に整っている。服装は白いドレスのようなものを着ており、まるでお姫様のようだ。
「お母様!」と陛下が言った。どうやらこの女性は国王の奥様らしい。
「あら、お客様かしら?」
そう言って微笑む姿はとても優しげで、思わず見とれてしまうほどだった。
「ああ、彼らは異世界から来た勇者だよ」と陛下が説明すると、彼女は目を輝かせた。そして私たちに歩み寄ると、手を差し出してきた。
「初めまして! 私はこの国の王妃よ」
私たちは慌てて立ち上がり、握手を交わした。王妃は優しく微笑むと「よろしくね」と言った。
「それで……陛下? 勇者召喚の儀について詳しくお聞かせ願えますか?」と王妃が尋ねる。その目は真剣そのもので、何か強い意志のようなものを感じた。
「ああ、もちろんだとも……」と言って陛下は話し始めた。その内容は主に勇者召喚の儀についての注意事項だった。まず第一に、召喚された勇者には拒否権があるということ。そして第二に、異世界から召喚された勇者は特殊な能力を持っていることが多いということ。最後に第三に、勇者たちが元の世界に帰るためには魔王を倒さなければならないということだった。
王妃はその話を聞き終えると、大きくため息をついた。
「そう……分かりましたわ」と言って目を伏せる。そして再び顔を上げると、私たちに向かって微笑みかけた。
「改めて歓迎しますわ、勇者様方。どうかこの国をお救いくださいませ……」
その言葉に私たちは深く頷き返したのだった。
「着いたぞ」とカイトさんの声。顔を上げると目の前には壮大な門があり、衛兵たちが私たちを見張っている。ここから先は私たち二人だけで進まなければならない。緊張しながらも一歩ずつ前に進んでいく。
中に入ると、そこは別世界だった。煌びやかな装飾が施された柱や天井が目に入る。床一面に敷かれた赤い絨毯の上を歩くたびに、靴底が心地よい音を立てた。そしてその先には、一際大きな扉があった。その前には一人の男性が立っている。
「勇者様!」と彼は叫んだ。白髪頭に立派な髭を生やした老齢の男性だった。
「陛下! 突然の来訪をお許しください」とカイトさんは深々と頭を下げる。私もそれに倣う。陛下と呼ばれた人物は優しく微笑みながら言った。
「話は聞いておる、事情があるようだな。入りなさい」
中に入ると、そこは応接室のような場所だった。豪華な装飾が施された壁や絨毯に圧倒されそうになるが、なんとか平静を保つ。
「こちらに掛けたまえ」
陛下に促され、私たちは椅子に腰掛けた。すると陛下は私たちをじっと見て言った。
「儂はこのアルカディア王国の国王だ。君たちの名前は?」
「カイトです」と彼は答える。続いて私も名乗った。
「クロエと申します」
それを聞いた陛下は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔に戻ると言った。
「ふむ……異世界から来た勇者というのは君かと思っていたが……」
どうやら陛下も私たちのことは既に知っていたようだ。
「陛下は何故僕たちのことを……」
カイトさんが尋ねると、陛下は静かに答えた。
「実は数日前から、異世界から来た勇者がこの国に来ているという情報が入っていてな」
陛下の言葉に私たちは驚愕した。まさか私たちが来る前に既に召喚されていたなんて……。
「その方は今どこに……?」と私が聞くと、彼は少し困ったような表情を浮かべた。
「……今は行方不明だ」
どうやらその人物は私たちよりも先にこの世界に来ていて、何らかの理由で姿を消したらしい。
「そうですか……」
私たちはそれ以上何も言えなかった。すると陛下は立ち上がり、私たちに頭を下げた。
「君たちには申し訳ないことをしたと思っている」
予想外の展開に驚きながらも、私は慌てて言った。「いえ、そんな……顔を上げてください!」
しかし陛下はゆっくりと首を横に振った。
「儂らは勇者召喚の儀を執り行う際に、その者の同意を得ていなかったのだ」と彼は続ける。そして再び頭を下げると、謝罪の言葉を繰り返した。
「どうか許してほしい……」
そんな陛下の様子を見て、カイトさんは優しく肩に手を置いた。
「陛下、顔を上げてください」と彼は言った。「大丈夫ですから……」
その言葉を聞いた陛下はゆっくりと顔を上げる。そして再び椅子に座り直すと、深々と頭を下げた。
「ありがとう……」
私たちはその姿に胸を打たれながらも、同時に疑問を抱いた。なぜこんなに簡単に許してくれるのか? それともこれは何か裏があるのだろうか……。
そんなことを考えていると、不意にドアが開く音が聞こえた。振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。年齢は20代半ばといったところだろうか? 黒い髪を長く伸ばしており、顔立ちは非常に整っている。服装は白いドレスのようなものを着ており、まるでお姫様のようだ。
「お母様!」と陛下が言った。どうやらこの女性は国王の奥様らしい。
「あら、お客様かしら?」
そう言って微笑む姿はとても優しげで、思わず見とれてしまうほどだった。
「ああ、彼らは異世界から来た勇者だよ」と陛下が説明すると、彼女は目を輝かせた。そして私たちに歩み寄ると、手を差し出してきた。
「初めまして! 私はこの国の王妃よ」
私たちは慌てて立ち上がり、握手を交わした。王妃は優しく微笑むと「よろしくね」と言った。
「それで……陛下? 勇者召喚の儀について詳しくお聞かせ願えますか?」と王妃が尋ねる。その目は真剣そのもので、何か強い意志のようなものを感じた。
「ああ、もちろんだとも……」と言って陛下は話し始めた。その内容は主に勇者召喚の儀についての注意事項だった。まず第一に、召喚された勇者には拒否権があるということ。そして第二に、異世界から召喚された勇者は特殊な能力を持っていることが多いということ。最後に第三に、勇者たちが元の世界に帰るためには魔王を倒さなければならないということだった。
王妃はその話を聞き終えると、大きくため息をついた。
「そう……分かりましたわ」と言って目を伏せる。そして再び顔を上げると、私たちに向かって微笑みかけた。
「改めて歓迎しますわ、勇者様方。どうかこの国をお救いくださいませ……」
その言葉に私たちは深く頷き返したのだった。
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