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「アンナ、フィーナ、ちょっと来てくれ」


部屋から呼びかけると、二人は好奇心いっぱいの表情で入ってきた。


「これは……浴場、ですか?」


アンナが目を丸くする。フィーナも珍しく驚いた表情を見せていた。


「ああ。魔力で水を沸かしてある。疲れた体を温めるには最高だぞ」


「すごい……街でも貴族しか入れない贅沢品なのに……」


アンナが感嘆の声を上げる。確かに、一般の人々にとって湯浴みは高価な贅沢だった。


「使い方を説明しよう。まず体を洗ってから……」


基本的な入浴方法を説明していると、フィーナが不思議そうな顔をした。


「人間は温かい水に浸かって何が楽しいのです?」


「ああ、それは実際に入ってみれば分かる。今日から交代で使おう」


二人の反応を見ていると、この設備を作って正解だったと確信できた。フィーナは最初は戸惑っていたが、アンナの熱心な説明を聞いているうちに興味を示し始めた。


「では、最初は私から試してみてもいいですか?」


アンナが期待に満ちた瞳で尋ねる。


「ああ、どうぞ。湯加減が合わなかったら言ってくれ」


「はい! ではお言葉に甘えて……」


アンナはいそいそと服を脱ぎ始めた。フィーナもそれに続くように服を脱いでいく。そして、一糸まとわぬ姿になると、ゆっくりと湯に足を入れた。その瞬間、その表情が驚きに変わった。


「これは……本当に温かいですね」


「ああ、これが人間にとって最高の贅沢だと言われている理由だよ」


俺が言うと、二人は納得したような表情を浮かべた。それからしばらく沈黙が続いた後、不意にフィーナが口を開いた。


「……このお湯はどこから湧いているのですか?」


「地下から湧き出している水を利用しているんだ」


俺が答えると、フィーナは不思議そうな顔をした。そして、しばらく考えた後、何かに気づいたようにハッとした表情を浮かべた。


「……もしかして、これは『聖泉』の水ですか!?」


「ああ。その通りだよ」


このダンジョンの地下には、かつて女神が封印したと言われる聖なる泉があると言われているのだ。その泉の水は、どんな傷や病も治す効果があるとされているため非常に重宝されている。


「この水を使うと、病気や怪我が治ると聞きました。本当ですか?」


「ああ。その泉の水を汲み上げて湯浴みに使うことで、心身ともにリフレッシュできるという寸法だ」


俺が説明すると、フィーナは興味深そうに聞いていた。アンナも興味津々といった様子で聞き入っているようだ。


「それでは、さっそく試してみましょう!」


そう言ってアンナは湯船に入った。俺も続いて入ることにする。すると、途端に心地よい温かさに包まれたような感覚に陥ったのだった。まるで温泉に浸かっているかのような気分だ。


「これは……とても気持ちいいですね」


アンナも満足そうな表情をしている。フィーナもまた、うっとりとした表情を浮かべていた。


「よし、次は私です!」


そう言って今度はフィーナが湯船に入った。すると彼女は驚いたような表情を浮かべた後、幸せそうな吐息を漏らすのだった。


「……ふぅ、確かに良いものですね」


「そうだろう? この風呂は毎日入ることを想定しているからな」


俺が言うと、二人は納得したように頷いた。それからしばらくの間、三人で談笑しながら湯船に浸かっていた。


「さて、そろそろ出るか」


俺が立ち上がると、二人もそれに続いて立ち上がった。そしてタオルを手に取ると、体を拭き始めた。


「ありがとうございました! とても素晴らしい経験でした!」


アンナが元気よく言う。その表情はとても満足気だった。フィーナも満足そうにしている。


「そうか、それは良かったよ」


俺は笑顔で答えたのだった……。
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