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ある日、俺はウエイターの仕事をすることになった。やってみると意外と楽しい。両手と頭を使ってトレイを運ぶのは慣れが必要だが、徐々に上手くできるようになってきた。


「本当にウエイター、初めてですか?」


「ああ、そうだが」


「信じられないぐらい要領がいいです」


こんな仕事は初めてだ。しかし、なぜか体が自然と動いて、戦闘でも探索でも、ここでも違和感がない。まるで以前の自分を思い出しているような感覚がある。


「気付いてます? デウスさん目当ての女性客が最近増えているんですよ。イケメンがいるって噂になっています」


「俺はイケメンなのか?」


「はいっ、間違いなくイケメンですよ!」


そんな会話をしながら、次々と客を捌いていく。閉店時間が近づいてきた頃、二人の美少女が入ってきた。


「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」


「はい、お願いします」


「かしこまりました。こちらの席へどうぞ」


2人は案内された席に座った。一人はアンナと同じくらいの年齢に見えるが、もう一人は10歳ぐらいだろうか? 姉妹か従妹かもしれないな。そんなことを思いながら注文を取るために彼女たちの元へ向かった。すると突然話しかけられたのだ。


「……魔王様ですよね?」


「え?」


「やっぱり! 私です、クロエ・アーレンスですよ!」


人間に擬態していたので気づかなかったが、魔王軍で給仕をやっている獣人族の少女であった。


「おお、久しいな。元気だったか?」


「はい! 魔王様もお元気そうですね。こちらのお店で働いていらっしゃったのですね」


「ああ、まあな」


まさかこんなところで再会するとは思いもしなかった。しかし、今は給仕の仕事中だ。あまり長話は出来ないだろうと思い話を切り上げた。


「注文が決まったら呼んでくれ」


そう言って立ち去ろうとしたのだが、再び呼び止められてしまう。今度は一体なんだというのだ?


「あの……このケーキを二つください!」


「……かしこまりました」


注文を受けたので厨房へ向かう。すると、アンナが話しかけてきた。


「クロエさんですね。彼女がいるってことはもう一人も……ルシールですか?」


「ああ、そうだ」


「分かりました。気を付けてくださいね……」


アンナは何か含みのある言い方をしたのだが、その意味を理解する前に仕事に戻ってしまったので聞き返すことは出来なかった。注文の品を持っていくと二人は嬉しそうに受け取った。俺は軽くお辞儀をしてその場を後にしたのだった。


「魔王様、今日はありがとうございました」


「こちらこそ楽しませてもらったよ。ありがとう」


二人は楽しそうに話し込んでいる様子だったが、邪魔しても悪いと思いそのまま去ることにする。最後にもう一度だけ振り返ってみたのだが、その時に見えたのはルシールの姿だけだった。クロエの姿が見当たらないことに少し疑問を覚えたが、まあ気にすることでもないだろうと思い直し店を後にしたのだった。
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