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同期の話
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翌朝、LINEの返信がなく彼女にまた電話をしてみる。
朝早いが出勤前だろうから大丈夫だろうと。
しかし。
「お客様のおかげになった電話番号は電波の届かない場所にあるか、電源が切れているためお繋ぎすることができません。」
味気ないアナウンスだった。
現在社内メールは私用メールは厳しく禁止されている。
彼女と連絡をとるには生産管理部に内線をかけるか、何か用事を作って部に行くかだ。
私は郵便物の仕分けをしていた後輩に頼んで生産管理部の郵便物を持っていくことにした。
「郵便持ってきました。」
昼前。
生産管理部宛に届いた手紙を持ってフロアに入る。
私に気が付いた木瀬さんが目配せをしてきた。
「ランチ、付き合ってもらうわよ。」
私は郵便物を置きながら脅迫するように言った。
彼女は顔を上げる。
私は飲み込みそうになる息をとめた。
なんて顔をしてるのか。
泣き腫らした顔をようやく眼鏡と化粧で隠しただけの。
彼女は小さく頷いた。
昼休み。
私は彼女をフロアまで迎えに行った。
彼女はぼんやりペットボトルのお茶を飲んでいて、私は彼女を引きずって少し離れた丼物専門の店に入った。
「あんたが転勤するとは思わなかったわ。」
私が水を飲みながら言うと、彼女は意外だと言わんばかりの顔を見せた。
「そう?」
「アレと上手く行ってないの?」
もちろんアレとは御曹司だ。
私は天丼、彼女はミニうどんを頼み、それはすぐにテーブルにあがった。
「いただきます。」
手を合わせて言うけど彼女の箸は進まない。
「上手くいってるもなにも…。」
なにも、とは。
上手くいっていないということか。
「洗いざらい吐きなさいよ。」
私が言うと、彼女はポツポツ話し出した。
ホワイトデーに会ってからは全く会っていないこと。
付き合いはじめた1年はよく会っていたが、2年目に入ると急に仕事が増えてなかなか会えなくなったこと。
そして、先日相手の家で口紅のついたマグカップを見つけてしまったこと。
彼女の口ぶりから少しずつ溜まってきた不満が、その口紅のついたマグカップを見て弾けてしまったように感じた。
そして、昨夜木瀬さんと食事に行った帰りにデート中らしき相手に会ってしまったことも話した。
木瀬さんは気がつかなかったのかもしれない。
でも彼女は御曹司が困ったような顔をしていたと口にした。
「で、別れるの?」
「うん。」
彼女はどれだけ泣いたんだろう。
私は息を吐く。
「あんたが決めたことをとやかく言うつもりはないけど。
そういうことになった原因はあんたにも相手にもあるってことだけは覚えておきなさいよ。」
おそらく、私の恋人が言っていた事が本当であれば、あの御曹司が彼女を愛しているのであれば、こうなってしまった原因は2人のすれ違いなのだろうから。
だとすれば私の経験上、2人はぶつかって本音を言い合うこともなかったのだろう。
私はこの件に関してどうこう言うつもりはない。
他人の人生に深く入り込んで、お互い嫌な気分になっても良くない。
でも、次に彼女が恋をした時に覚えておいて欲しいから。
「うん。」
彼女は小さく頷いた。
「転勤の件は誰にも言わないわ。
関連書類、あたしが捌くからあたしに回して。
それと。」
もう1つ大切なこと、伝えておかないと。
「あんたのスマホ、電源切れてる。」
彼女は慌ててバッグからスマホを取り出し、
バッテリーに繋いでいた。
ならない電話に触れる気力もなかったのだろうか。
食事を終えて私達は会社のあるビルへと戻った。
朝早いが出勤前だろうから大丈夫だろうと。
しかし。
「お客様のおかげになった電話番号は電波の届かない場所にあるか、電源が切れているためお繋ぎすることができません。」
味気ないアナウンスだった。
現在社内メールは私用メールは厳しく禁止されている。
彼女と連絡をとるには生産管理部に内線をかけるか、何か用事を作って部に行くかだ。
私は郵便物の仕分けをしていた後輩に頼んで生産管理部の郵便物を持っていくことにした。
「郵便持ってきました。」
昼前。
生産管理部宛に届いた手紙を持ってフロアに入る。
私に気が付いた木瀬さんが目配せをしてきた。
「ランチ、付き合ってもらうわよ。」
私は郵便物を置きながら脅迫するように言った。
彼女は顔を上げる。
私は飲み込みそうになる息をとめた。
なんて顔をしてるのか。
泣き腫らした顔をようやく眼鏡と化粧で隠しただけの。
彼女は小さく頷いた。
昼休み。
私は彼女をフロアまで迎えに行った。
彼女はぼんやりペットボトルのお茶を飲んでいて、私は彼女を引きずって少し離れた丼物専門の店に入った。
「あんたが転勤するとは思わなかったわ。」
私が水を飲みながら言うと、彼女は意外だと言わんばかりの顔を見せた。
「そう?」
「アレと上手く行ってないの?」
もちろんアレとは御曹司だ。
私は天丼、彼女はミニうどんを頼み、それはすぐにテーブルにあがった。
「いただきます。」
手を合わせて言うけど彼女の箸は進まない。
「上手くいってるもなにも…。」
なにも、とは。
上手くいっていないということか。
「洗いざらい吐きなさいよ。」
私が言うと、彼女はポツポツ話し出した。
ホワイトデーに会ってからは全く会っていないこと。
付き合いはじめた1年はよく会っていたが、2年目に入ると急に仕事が増えてなかなか会えなくなったこと。
そして、先日相手の家で口紅のついたマグカップを見つけてしまったこと。
彼女の口ぶりから少しずつ溜まってきた不満が、その口紅のついたマグカップを見て弾けてしまったように感じた。
そして、昨夜木瀬さんと食事に行った帰りにデート中らしき相手に会ってしまったことも話した。
木瀬さんは気がつかなかったのかもしれない。
でも彼女は御曹司が困ったような顔をしていたと口にした。
「で、別れるの?」
「うん。」
彼女はどれだけ泣いたんだろう。
私は息を吐く。
「あんたが決めたことをとやかく言うつもりはないけど。
そういうことになった原因はあんたにも相手にもあるってことだけは覚えておきなさいよ。」
おそらく、私の恋人が言っていた事が本当であれば、あの御曹司が彼女を愛しているのであれば、こうなってしまった原因は2人のすれ違いなのだろうから。
だとすれば私の経験上、2人はぶつかって本音を言い合うこともなかったのだろう。
私はこの件に関してどうこう言うつもりはない。
他人の人生に深く入り込んで、お互い嫌な気分になっても良くない。
でも、次に彼女が恋をした時に覚えておいて欲しいから。
「うん。」
彼女は小さく頷いた。
「転勤の件は誰にも言わないわ。
関連書類、あたしが捌くからあたしに回して。
それと。」
もう1つ大切なこと、伝えておかないと。
「あんたのスマホ、電源切れてる。」
彼女は慌ててバッグからスマホを取り出し、
バッテリーに繋いでいた。
ならない電話に触れる気力もなかったのだろうか。
食事を終えて私達は会社のあるビルへと戻った。
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