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副社長室にあの人が来ました。

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「高橋さんっ。」
あたしは名前で呼びそうになるのを抑えてちゃんと彼の姓で呼んだ。
「お待たせ、だったね。座って。」
少し笑いの含んだ副社長の声。
「いえ、大丈夫です。
深和、足はどうだ?」
「た、高橋さんっ!」
最初は驚いて呼んだけど今回は怒ってである。どうして名前で呼ぶんだっ。
「市川くん、普段は彼のことはそうは呼ばないんだろう?今は無礼講でいいよ。」
副社長は、一体何をご存知なのだろうか。
「副社長は親父の大学の後輩で家族ぐるみで今もお付き合いさせてもらってるんだ。」
「そうなんですか…。」
言うと副社長は穏やかな笑みを見せた。
「大樹くんにはずっと本社に来ないかと言っていたんだが、市川くんの婚約破棄でやっと決心してくれたよ。」
「まだゴタゴタしていますが。」
少しため息が混じる。
「あぁ、その件に関してはうちに来る営業は変えてもらうように伝えてある。今後彼が来るようであれば取り引きはしないと言ってある。」
えっ。
「そこまでせずとも…。」
そもそも彼の会社がこの会社と取り引きできるようになったのは彼の尽力なのに。
「大樹くんがこだわる女性がどんな人かしりたくてね、営業部の連中に聞いたことがある。彼等の君に対する評価は高かったよ。そんな社員は守るに値するんだ。社員を守れないようでは会社が存在する意味なんてないよ。」
「はあ…。」
「まあ、大変だったね。」
「いえ、まだ肝心なことが終わっていませんので…。」
婚約破棄されてキャンセルするところは全てキャンセルした。
式場からドレスから引き出物招待客。
しかしかかった費用の弁償に関する問題が終わってない。
そこがきちんとしないとあたしは先には進みたくないのだ。
「失礼します。」
ドアをノックする音がして久瀬さんが入ってきた。
「さて、仕事の時間だ。」
久瀬さんがコーヒーを置いていく。
「久瀬くんも座って。」
「はい。」
「市川くんは、来週から久瀬くんに付いて秘書業務を覚えてください。」
「来週から、ですか?」
驚いたのは久瀬さんだった。
「引き継ぎが1週間は短くないですか?」
「と君の新しい上司になる人は言っているけど?」
副社長から話を振られた。
「営業部さえ問題なければ、私は先週から準備をしておりますので問題ありません。」
あたしは答える。
「先週あのような事がございましたので移動になる覚悟は出来ていましたので。秘書は意外でしたが。」
「だそうですよ、久瀬くん。」
久瀬さんはふうと息を吐きあたしを見た。
「では来週月曜日よりよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
あたしは頭を下げた。
「これで大樹くんも安心した?」
「ええ。安心してこちらに来ることができます。」
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