サヨナラの後

1

「もうすぐ12月だな。」
彼が言った。
「あー。
そうだぁねぇ。」
12月、か。
「クリスマス、欲しいものある？」
付き合って5年の恋人。
5回目のクリスマス。
「んー。
子種？」
11月最後の土曜日のピロートークはこんな感じ。
取り繕うこともない会話。
だが少しあけすけだったか。
２つ年上の彼は苦笑した。
「それは難しいな。」
いつだって彼はきちんと避妊をしてくれた。
もちろんそれは恋人として付き合うのには当たり前の事だけど。
でもその先はどうなんだろうと勘ぐることがあるあたしは現在29歳。
年々結婚年齢は上がってきているというし、高齢出産だって珍しくはない。
結婚はしなくてもいいから子供はそろそろ産みたいなとは思っている。
高齢出産のリスクを考えれば。
「そっかぁ、残念。」
あたしが答えれば彼はあたしの頭を抱き寄せて額にキスをした。
でもあたしの胸に何か刺さったような、そんな気がした。
「大好きだよ。」
「あたしも。」
それでもあたしは彼の言葉にそう答えていた。


子種は半ば本気だった。
親からも結婚はまだか、結婚は駄目でも孫だけでも、なんて無茶ぶりを聞かされている。
三人姉妹の1番下のあたしだけがまだ結婚していない。
姉たちは早々に結婚して家を出て、小中学生を育てているので早くあたしも、と思っているようだ。
見合いをしないかとまで焦っているようなのは今年の春に母が心筋梗塞になったせいだ。
病院の指導できちんとした生活を送っているもののいつ発作が起きるかわからないと言われて両親はあたしに期待を向けるようになった。
せめてウェディングドレスの姿だけでも見たいと思っているようだ。
煩わしいと思わなくはない。
でも。
5年付き合っている恋人から同棲の話も結婚の話も一切出ないのは将来に不安を覚えるばかりだ。
焦っても仕方ないとは思う。
仕方ないけど時間が、ない。
いろんな意味で。