575 / 683
第十四幕 転生歌姫と繋がる運命の輪
第十四幕 25 『神姫の戦装束』
しおりを挟む神界から戻ってきた私達。
いつもの通り現実世界では殆ど時間は経過していないはずだ。
今回初めて神界に招かれた三人は、何が起きたのか一瞬では理解できないようで、キョロキョロと周囲を見回している。
「夢だった……わけではないですわよね?」
「夢じゃないよ。この現実世界では一瞬の出来事だったけど」
「まさかこんな体験が出来るとはね。カティアと一緒だと退屈しなくて良いわね」
「シフィル……あなた本当に楽しそうよね」
確かに、彼女らしいと思った。
そして……私の前世の話を聞いても、みんな私に対する態度が変わらないことに安心する。
もちろん、そうだと信じてはいたのだけど、やはり不安な気持ちもあったから……
「さて、じゃあそろそろ行こうか……」
「あ、ちょっと待ってカティアちゃん」
リル姉さんへの報告も終わったし、神殿から引き上げようとしたのだが、リナ姉さんから待ったがかかる。
はて?何だろうか……?
「実はね、昨日話をつけてるんだけど……あ、丁度こっちに来るね」
リナ姉さんが何か言いかけた時、誰かが私達に近づいてくる気配がした。
現れたのは神殿関係者らしき人物。
たっぷりとした髭をたくわえた老齢の男性。
威厳あふれる佇まいと立派な法衣から察するに、相当高位の人であると思われる。
「あ、大司教さま……?」
「うん?その声は……もしかしてメリエル嬢ちゃんか。変装しておるのだな」
「はい。ええと……もしかしてエメリナ様にご用でしょうか?」
「うむ。……昨日に引き続き、ようこそおいでくださいました、エメリナ様」
そう言って大司教猊下はリナ姉さんに向き直って挨拶する。
周りの人に聞こえないように、声を抑えて。
リナ姉さんも変装しているけど、昨日と同じ容姿なので神殿関係者ならすぐ分かるのだろう。
「こんにちは、昨日頼んでおいた件は……」
「ええ。ご用意させていただいております。ここではなんですから……応接室へ案内いたします。皆様、こちらへどうぞ」
そして私達は大司教猊下に案内され、礼拝堂から別室へと通されるのだった。
「さて……エメリナ様からご依頼いただきましたモノはこちらでございます」
応接室に通された私達。
大司教猊下が差し出してきたのは……別の神官が持ってきた大きな桐箱。
何というか、衣類の収納ケースみたいな感じだ。
「リナ姉さん……これは?」
「えへへ~……あなたのその腕輪とか、カイト君の剣と同じモノよ」
私やテオの……って!
「まさか……リナ姉さんの神器!?」
「いえす!元々はメリアに渡したモノなんだけど……あの娘に所在を聞いたら、神殿に奉納したって聞いたから。昨日、大司教さんに頼んでおいたんだ」
なんと……
じゃあ、リナ姉さんが神殿に用事があると言ってたのは、コレのことだったのか。
「十二神に認められた神子であるカティア様が使われるのであれば……我々も代々護り受け継いできた甲斐があると言うものですな」
「え……?私に?だって……それはウィラーの宝物なのでは?私よりも、メリエルちゃんが使うべきでは……」
何か既に私が使う事になってるけど、リナ姉さんの神器で、ウィラー初代女王であるメリアさんが使っていたものなら……神殿に所蔵されていたとは言え、ウィラー王家縁の品だろう。
「まぁ、誰が使うかはあなた達で決めてもらって良いけどさ。そうね……このメンバーなら、カティアちゃんかルシェーラちゃん、シフィルちゃんかしらね。まぁ、ともかく開けて見てみなさいな」
そう促されて、箱の蓋に手をかける。
私かルシェーラ、シフィルが使い手として相応しいもの……
何だろう?
そして蓋を開けると……
「これは……ドレス?……いや、鎧?」
綺麗に畳まれていたそれを取り出してみると……これは、アレだ。
いわゆるドレスアーマーと言うヤツだ。
気品あふれる白いドレスと、光の加減で虹色に煌めく金属製の軽鎧を組み合わせたもの。
輝くばかりの神々しさに、思わず息を呑む。
「どお?これは『神姫の戦装束』と言うの。物理・魔法防御の高さは言うまでもなく、自動治癒や身体能力向上の術式が組み込まれてるわ。もちろん、自動修復、防汚防臭、自動サイズ調整も完備よ!」
ひえ~……正に神器と呼ぶのに相応しいものだよ。
「こ、これ……誰が使おうか……?」
「カティアさんしかいないでしょう。ねぇ、シフィルさん?」
「だねぇ……。ちょっと国宝級の服なんて……王女様を差し置いて着れないわよ」
「め、メリエルちゃんは?」
「私は後衛職だから……」
ほ、本当に私がもらっていいのかな……
「はい、決まりね!じゃあ早速着替えようか!」
「ええ!?ここで着替えてくの!?」
「だって、見てみたいもん。ねえ、皆?」
「「「は~い!」」」
ノリが良いな!?
「というわけで、大司教さんとカイト君は外で待っててね~」
と、リナ姉さんは男性二人を部屋から追い出す。
そして私は半ば無理やり皆に着替えさせられるのだった……
「おお……!素晴らしいよ、カティアちゃん!想像以上だったわ!」
「本当に……伝説の姫騎士と言った感じですわね」
「そ、そお?……派手すぎない?」
比較的シンプルなデザインだし、ゴテゴテした飾りも無いのだけど……
神器というだけあって物凄いオーラが出てる気がする。
「すごくカッコイイよ!カティア!」
「気品と凛々しさと可愛らしさが同居する絶妙なデザイン……魔導具としての性能も超一級……素晴らしいわ……」
「……シフィル帰ってきなさい。でも、本当に素敵よ、カティア」
皆手放しに褒めてくれる。
そして……
「ど、どうかな……テオ?」
「あ、ああ……凄く、良いな。見惚れてしまった」
……えへ。
「うんうん、カイト君もご満悦だし、良かったわね!」
そう、リナ姉さんが締めくくる。
思いがけず強力な武具を手に入れたけど……
いよいよ最終決戦が近いのだと、浮かれた気持ちを切り替える。
さあ、イスパルに帰ろう。
そして、次に目指すのはアスティカント。
そして……『黒き神の神殿』へ!
10
お気に入りに追加
347
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる