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第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り

第十三幕 58 『毒』

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 ついに姿を現した魔族『薬師』。

 ヤツの異能によって倒したはずのグラナ軍が蘇り、再び進軍を開始した。
 一度は勝利を確信しながらも、再び戦いに身を投じるウィラー兵だったが……戸惑いを隠せない様子で、その動きは精彩を欠く。
 加勢したいところだけど、先ずは薬師を何とかしないと……!



「メリエルちゃんは皆のフォローをお願い!!」

『うん!!何度復活しても、これ以上は先に進ませないよ!!』

 下手に薬師に攻撃すれば、先程みたいに手痛い反撃を食らってしまうからね……

 だけど、近付いたら危険なのは私も同じか?
 だったら……!


「[氷霜]!!」

 魔法で遠距離から!!

 私が放った冷気の中級魔法が薬師に襲いかかる!!


「ひょ……挨拶じゃのぉ」

 余裕の表情で薬師は右腕を突き出し……突如として炎が舞い上がって冷気に対抗する!


 魔法……じゃないね?
 あれも何らかの薬によるものなのか?


「こっちも反撃させてもらうぞい。ほれ」

 薬師が両腕を振るうと、何かの飛沫のようなものが周囲に撒き散らされ……


 ビキビキッッ!!


 石畳を凍らせながら極低温の冷気が私に向かってくる!!


「[熱閃]!!」

 ジュワッッ!!!


 即座に高熱の光を放つ魔法で冷気の進行を食い止める。
 熱によって溶かされた氷が音を立てて蒸発した。



 ……やっぱり、中級魔法程度で魔族を相手にするのは厳しい。
 でも、威力のある魔法を使うには詠唱時間が必要だ。
 だけどメリエルちゃんは皆のフォローで手一杯。
 ウィラー兵を頼ってもいたずらに犠牲が増えるだけだし……


 さて、どうする……?



「ひょひょ……どうしたんじゃ、嬢ちゃん?そっちが来ぬなら、ワシの方からゆくぞ。……そろそろ本気でのぉ」

「!!」


 ゆらり……と身体を揺らしながら、奇妙な歩き方で薬師が近付いてくる。
 スピードは無いが、ランダムな足取りと緩急を付けた捉えどころのない動き。
 それはまるで酔っ払いの千鳥足のよう。
 【俺】の絶招歩法『酔歩』に似ている。

 接近戦を挑んでくる気かっ!!


「[氷弾・散]!!」


 私は薬師を近付けないように氷の散弾をばら撒く!

 しかし、無数の氷の弾丸の僅かな隙間をスルスルと抜けて、私に肉薄する!

 そして、薬師の右手に黒い瘴気が集まり……掌打を放ってきた!!


「ひょっ!『腐毒黒魔掌』!!」


 くっ……!?
 見るからにヤバイ気がする!!

 私の鳩尾あたりを狙ってきた掌打を、くるりと身体を反転させて躱す!!
 紙一重で……なんて余裕はない!
 だけど反撃はさせてもらう!

 躱す動作の流れで、薬師の頭を狙って後ろ回し蹴りを放つ!!


 ぶぉんっっ!!


 それは空を切ったが、一旦間合いを離すことに成功する。


「ひょひょ……流石、ブレイグ将軍を無手で倒しただけのことはおるのぉ」

「そっちこそ……まさか魔族が体術使ってくるなんて思わなかったよ」

「ワシはもともとは東方の出身でな。そちらの方の体術の流派を修めておるのじゃ」


 前世で言うところの中国拳法みたいな感じか。
 仙人みたいな見た目もそれっぽいし。

 ただ、真に恐ろしいのは……


「その手に纏った闇は……?」

「もう気づいておるのじゃろう?これはワシの身体に蓄積された毒素を凝縮して瘴気とブレンドしたものじゃな。普通の人間であれば掠っただけでイチコロじゃよ。ひょっひょっひょ……」

 うん、やっぱりロクなものじゃなかったね。


「ワシはのぉ、古今東西のありとあらゆる薬と毒を喰らい、この身に蓄えておるのじゃ。そして、それをいつでも瞬時に調合して使うことが出来るのじゃよ」

 なるほど……伊達に『薬師』を名乗ってる訳じゃないか。



 しかし、一人でコイツの相手をするのはやっぱりキツいなぁ……と思ったその時!


「カティア!!」

 その場にテオが駆けつけてくれた!!
 だけど……

「テオ!!?あっちは大丈夫なの!?」

「元凶の魔族を倒さなければ……と、メリエルが敵を抑えるのを買って出てくれた!!他の皆も直に合流するはずだ!!」

『倒せなくても……抑えるだけならステラと私で何とかするよ!!』

「助かるよ!!」


 仲間が揃えば……
 皆の力を合わせて薬師を倒すんだ!
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