511 / 683
第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り
第十三幕 34 『一方そのころ……』
しおりを挟むーーーー ウィラー大森林 某所 ーーーー
カティア達がウィラー大森林へ足を踏み入れる頃と時を同じくして、ある一団が森の中を彷徨っていた。
揃いの軽鎧と、剣槍を携えた武装集団。
一見して国やそれに準ずる組織に所属する兵であろうことが分かる。
その中にあって、他の兵より立派な装飾の施された鎧を纏い威厳を感じさせる風貌の男は、将軍と言ったところか。
その男の前にやってきた兵の一人が、直立不動の姿勢で立ち、ビシッと敬礼してから報告を上げる。
「……まだ森は抜けられぬか」
「はっ!周辺に斥候部隊を放っておりますが、状況は変わっておりません」
「そうか。……折角こんな場所に何日も潜伏してようやく地形を把握し、作戦開始した矢先に……全く、こんなことになろうとはな」
将軍格らしき男は忌々しげに、そう呟いた。
「……魔物どもはどうだ?」
「問題ありません。従順で大人しいものです」
「うむ……。しかし兵糧にも限界がある……早く何とかしなければ…………む?」
その時、将軍は何かの気配を感じて後を振り返る。
すると……
「ひょひょひょ……ブレイグ将軍よ、状況は如何かの?」
何処からともなく声が聞こえたと思えば、いつの間にか将軍……ブレイグの近くに怪しげなローブを纏った人物が佇んでいた。
顔はフードに隠れて判然としないが、声色と口調からすれば、老年の男性と思われた。
「『薬師』殿か。生憎と状況は変わっておらぬ。我軍は完全に現在位置を見失ってしまった。これまでの調査で作成した地形図もまるで役に立たない」
「ふむ、全くもって面妖なことじゃの。しかし将軍よ、此度の作戦は失敗は許されぬぞ。配下となる魔物の調達と、カルヴァード侵攻の足がかりとなる橋頭堡の確保。ここウィラー大森林は正にうってつけの地じゃからの。教皇猊下も大いに期待されておる」
「……分かっている。だが、勘違いをするなよ。俺が忠誠を誓うのは皇帝陛下ただお一人だけだ。お前たち黒神教のために動いてる訳じゃない」
ブレイグは吐き捨てるように『薬師』に言う。
「ひょひょ……結構結構。その皇帝も黒神教の信奉者なれば、お主も教皇猊下のために働くことに否やはあるまいて」
「………」
「そう睨むでない。儂とて遊んでいた訳ではないぞ?この不可思議な状況の原因を調べておったのじゃよ」
「それで?何か分かったのか?」
「いや、さっぱりじゃ」
「………」
「待て待て!!剣を抜くでない!!……話は最後まで聞くものじゃぞ。原因はさっぱりわからぬが、森を抜けるのは何とかなりそうじゃよ」
「本当か?」
その言葉に『薬師』がニヤリと嗤った……ような気配をブレイグは感じたのだった。
ーーーーーーーー
森に入った私たち一行は、夜光樹が作り出した光の回廊を頼りに歩みを進める。
そこは本来であれば星明かりも届かない暗闇に、幻想的な光景が広がっていた。
無数にある花や葉が色とりどりの淡い光を灯し……ジークリンデ王女が言うように、妖精でも出てきそうな雰囲気だ。
「メリエルちゃん、こっちで良いの?」
「ん~、多分。周りの木たちも大丈夫って言ってる……ような気がする」
曖昧な返事だけど、今のメリエルちゃんにとっては森の中は自分のテリトリーのようなものだろうし、信頼は出来そうに思える。
……それにしても。
まさかメリエルちゃんに道を聞くなんて日が来ようとは。
あまりの成長ぶりに、お姉さんは感慨深いよ(ホロリ……)。
「しかし、魔物に襲われる危険は無いのかい?」
イスファハン王子がそんな問を発する。
かつての魔境の森は今でこそ人の住む場所も増えて街道が通るようになっていたが……魔物の生息する領域は魔境と言われた時代からそれほど規模も変わってないだろう。
「どうかな……?普段だったら『神狼の一族』がいるから街とか街道には魔物は殆ど現れないんだけど。今はこんな状況だから何とも言えないかな?」
「神狼の一族?」
「そう。この森の中で魔物たちを統制して人間を襲わないようにしてくれる、ウィラーの守護神みたいな……魔物。さっき話していた伝説にも出てきた、メリア様が飼っていたルナ・ウルフの子孫たちだよ」
ルナ・ウルフってかなり脅威度の高い魔物なんだけど。
確かに伝説ではメリアと行動を共にする狼……レヴィが出てきたけど、魔物だったんだ……
光の回廊もそうだけと、言うなれば……これは伝説を辿る旅と言ったところか。
「とにかく、この状況で神狼たちを頼りにできるかどうかは分からないから……」
「警戒は怠るな、ということだな」
光で照らされていても、森の中は視界が悪いのは変わらないからね……
奇襲にも警戒しながら、私達は森の奥へと進んでいく。
10
お気に入りに追加
347
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる