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第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り

第十三幕 34 『一方そのころ……』

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ーーーー ウィラー大森林 某所 ーーーー


 カティア達がウィラー大森林へ足を踏み入れる頃と時を同じくして、ある一団が森の中を彷徨っていた。

 揃いの軽鎧と、剣槍を携えた武装集団。
 一見して国やそれに準ずる組織に所属する兵であろうことが分かる。

 その中にあって、他の兵より立派な装飾の施された鎧を纏い威厳を感じさせる風貌の男は、将軍と言ったところか。

 その男の前にやってきた兵の一人が、直立不動の姿勢で立ち、ビシッと敬礼してから報告を上げる。



「……まだ森は抜けられぬか」

「はっ!周辺に斥候部隊を放っておりますが、状況は変わっておりません」

「そうか。……折角こんな場所に何日も潜伏してようやく地形を把握し、作戦開始した矢先に……全く、こんなことになろうとはな」

 将軍格らしき男は忌々しげに、そう呟いた。

「……魔物どもはどうだ?」

「問題ありません。従順で大人しいものです」

「うむ……。しかし兵糧にも限界がある……早く何とかしなければ…………む?」

 その時、将軍は何かの気配を感じて後を振り返る。
 すると……

「ひょひょひょ……ブレイグ将軍よ、状況は如何かの?」

 何処からともなく声が聞こえたと思えば、いつの間にか将軍……ブレイグの近くに怪しげなローブを纏った人物が佇んでいた。
 顔はフードに隠れて判然としないが、声色と口調からすれば、老年の男性と思われた。


「『薬師』殿か。生憎と状況は変わっておらぬ。我軍は完全に現在位置を見失ってしまった。これまでの調査で作成した地形図もまるで役に立たない」

「ふむ、全くもって面妖なことじゃの。しかし将軍よ、此度の作戦は失敗は許されぬぞ。配下となる魔物の調達と、カルヴァード侵攻の足がかりとなる橋頭堡の確保。ここウィラー大森林は正にうってつけの地じゃからの。教皇猊下も大いに期待されておる」

「……分かっている。だが、勘違いをするなよ。俺が忠誠を誓うのは皇帝陛下ただお一人だけだ。お前たち黒神教のために動いてる訳じゃない」

 ブレイグは吐き捨てるように『薬師』に言う。


「ひょひょ……結構結構。その皇帝も黒神教の信奉者なれば、お主も教皇猊下のために働くことに否やはあるまいて」

「………」

「そう睨むでない。儂とて遊んでいた訳ではないぞ?この不可思議な状況の原因を調べておったのじゃよ」

「それで?何か分かったのか?」

「いや、さっぱりじゃ」

「………」

「待て待て!!剣を抜くでない!!……話は最後まで聞くものじゃぞ。原因はさっぱりわからぬが、森を抜けるのは何とかなりそうじゃよ」

「本当か?」

 その言葉に『薬師』がニヤリと嗤った……ような気配をブレイグは感じたのだった。




ーーーーーーーー













 森に入った私たち一行は、夜光樹が作り出した光の回廊を頼りに歩みを進める。

 そこは本来であれば星明かりも届かない暗闇に、幻想的な光景が広がっていた。
 無数にある花や葉が色とりどりの淡い光を灯し……ジークリンデ王女が言うように、妖精でも出てきそうな雰囲気だ。


「メリエルちゃん、こっちで良いの?」

「ん~、多分。周りのたちも大丈夫って言ってる……ような気がする」

 曖昧な返事だけど、今のメリエルちゃんにとっては森の中は自分のテリトリーのようなものだろうし、信頼は出来そうに思える。

 ……それにしても。
 まさかメリエルちゃんに道を聞くなんて日が来ようとは。
 あまりの成長ぶりに、お姉さんは感慨深いよ(ホロリ……)。



「しかし、魔物に襲われる危険は無いのかい?」

 イスファハン王子がそんな問を発する。

 かつての魔境の森は今でこそ人の住む場所も増えて街道が通るようになっていたが……魔物の生息する領域は魔境と言われた時代からそれほど規模も変わってないだろう。


「どうかな……?普段だったら『神狼の一族』がいるから街とか街道には魔物は殆ど現れないんだけど。今はこんな状況だから何とも言えないかな?」

「神狼の一族?」

「そう。この森の中で魔物たちを統制して人間を襲わないようにしてくれる、ウィラーの守護神みたいな……魔物。さっき話していた伝説にも出てきた、メリア様が飼っていたルナ・ウルフの子孫たちだよ」


 ルナ・ウルフってかなり脅威度の高い魔物なんだけど。
 確かに伝説ではメリアと行動を共にする狼……レヴィが出てきたけど、魔物だったんだ……


 光の回廊もそうだけと、言うなれば……これは伝説を辿る旅と言ったところか。


「とにかく、この状況で神狼たちを頼りにできるかどうかは分からないから……」

「警戒は怠るな、ということだな」


 光で照らされていても、森の中は視界が悪いのは変わらないからね……

 奇襲にも警戒しながら、私達は森の奥へと進んでいく。
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