458 / 683
第十二幕 転生歌姫と謎のプリンセス
第十二幕 41 『巨人』
しおりを挟む隠し階段を発見した私達は、騎士達の中でも特に精鋭とされる者を連れ、地下に降りていく。
階段は長く先が見通せなかったが、途中から魔道具のものらしき明かりがぼんやりと見え始めた。
息を殺し、足音も極力抑えて慎重に進むこと暫し。
階段はようやく終わって、更に真っ直ぐ通路が伸びる。
魔道具の照明に照らされた通路は幅広く天井も高いので、突入部隊の大所帯でも手狭には感じないくらいだ。
「ここまで誰とも遭遇しませんね……」
「見張りすらいないとなると……やはり待ち伏せを警戒したほうが良いかもしれません」
ケイトリンの呟きに、リュシアンさんが改めて隊員たちに警戒を促す。
黒爪の組織規模の全容ははっきりと分かっていないが、レーヴェラントからの情報では数十名から、多くても百名前後と予想されている。
今現在、全員が揃ってここにいる訳ではないだろうが……全く誰にも遭遇しないのは考えにくいことではあった。
やがて、通路の先に扉が見えてきた。
両開きの大きなそれは固く閉ざされている。
私達は扉の前で一旦止まって、中の気配を伺う。
すると……
「これは……!既に誰かが戦ってる!?」
「!……別働隊が動いてるのか?」
「まだのはずだけど……行ってみよう!!」
扉の向こう側からは戦闘の気配が感じられた。
耳をすませば破壊音や怒号も微かに聞こえる。
私達は、既に誰かが中で戦っていると判断して扉を勢い良く開け放ち、内部へと急いで突入するのだった。
扉を潜ったその先も同じような通路が続いていたが、更に先に進むと広大な空間が広がっていた。
以前発見した地下神殿はまさに神殿という雰囲気だったが……こちらはただ単に広いだけの何も無い空間だ。
そして、そんな場所で私達が見たものは……
「……一体ここで何が起きたの?」
広大な空間、その床はあちこちがひび割れ、何らかの肉片が散乱し……それらはグズグズに崩れて黒い灰になりつつあった。
「これは……あの時と同じ?」
テオが言ってるのは、私のお披露目パーティーの時に表れた異形のことだろう。
確かに……残された残骸は、アレの成れの果てと同じような感じだ。
そんな痕跡がそこかしこにある。
「……つい先程まで戦いが行われていたようですね」
「そうだ!さっきの破壊音は……」
そう、私が言いかけたとき……
ドゴオーーーンッッッ!!!!
ズズン………!!!
爆発音が鳴り響いた!!
「行くぞっ!!」
爆発音がした奥の方に向かって私達は駆け出す!!
果たして……そこには何が待ち受けてるのか!?
それは、『巨人』だった。
広大な空間の天井……目算で十メートルはありそうだが、その天井に頭が届きそうなほどの巨体。
全体的な姿かたちは人型のそれだが、その肌は漆黒に染まり……というよりは、甲虫の様に硬質な黒光りする外殻で覆われ、所々に鋭いトゲの様な突起を持っている。
その頭部も人間らしさはまるで無く……一言で表せば、それは『昆虫巨人』と言うべきか。
そんな怪物が三体。
そのあまりの圧倒的存在感に、皆目を奪われ絶句するが……私はそのうち一体の肩に誰かが乗っているのに気がついた。
その人物は、ローブを纏い目深にフードを被って顔を隠している。
そして、そんな巨人たちと相対するのは……
「シェラさん!?」
「……カティアさん?なぜ、ここに?」
「それはこっちのセリフですよ」
ちらっ…と、こちらを見たシェラさんは、そう問いかけてくるが、それを聞きたいのはこちらも同じだ。
だが、その答えを聞く前に、巨人の肩に乗る人物(?)が話しかけてきた。
「これはこれは、皆さんお揃いで……どうやら役者が揃ったようですね」
「この声は……『調律師』か!!」
かつて聞いたその声は、確かに『調律師』と呼ばれていた魔族のものだった。
「ええ。お久し振りですね、王女さま。ご機嫌いかがですか?」
「……お陰様で」
よくもまぁ、しれっと言うもんだね……
「いったい、ソイツは何なの?」
「ふふふ……『薬師』の研究成果の集大成ですよ。人間を進化させ、さらなる高みへと至らせる……その崇高なる目的を果たすためのね」
「……それは、『魔薬』?」
「ええ。お姫様から聞いたのですね」
……やはりエファメラさんの存在は知られてるのか。
恐らくは、この状況も……
「待ち伏せしていたと言う事?」
「この拠点が監視されていることは分かっていました。であれば、それを逆手に取って……研究成果の確認も兼ねて、厄介者を纏めて葬る良い機会かと思いましてね」
「まさか、あなたが自らを囮にするとは思いませんでしたよ」
そう、シェラさんが言う。
……そうか、彼女もまんまと誘き出されたと言う事か。
「『黒爪』のメンバーはどうしたの?……何となく想像はつくけど」
多分、ここに来る途中で見た『異形』の残骸は……
「ご想像の通りですよ。彼らは喜んで、自らその身を黒き神に捧げてくれました。その多くは変容に耐えられず『出来損ない』と成り果てましたが……この『黒魔巨兵』はご覧の通り、『薬師』のスペシャルブレンドにも耐え、見事に進化を果たしてくれました」
表情は見えないが、その声音から彼女が愉悦に浸ってるのが良く分かった。
人の命を弄ぶ外道め……!!
「今度こそ逃さないよっ!!!」
私のその言葉に、一気にその場の緊張感が増す。
そして、かつてないほどの激戦が始まる!!
10
お気に入りに追加
347
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる