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第十幕 転生歌姫と忍び寄る戦火

第十幕 13 『アスティカント出発』

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 談話室で盛り上がったあと、夕食の時間となったため解散した。

 名残は尽きなかったが、母様たちは今後も定期的に会おうと約束していた。
 やっぱり学生時代の友人と言うのはかけがいのないもので、一時疎遠になっていても変わらないものなんだな、と思った。

 夕食はグレイル様も含めたアスティカントの要職の人たちと会食形式。
 思ったよりは堅苦しくなかったので、リィナも多少緊張していたものの、割と落ち着いて食事を楽しむことが出来たと思うよ。







 そうして私達は再び部屋に戻っていた。

「カティアは…ああ、賢者様の書を読んでるのね」

「はい、さっきは賢者様が伝えたかった要点のところだけ見てたので。最初から読んでおこうかと」

 何せ辞書並みに分厚く小さな字でびっしり書かれているので、読了までは時間がかかりそうだ。
 最初の方は、自叙伝と言うか…転移してからの彼の経歴が事細かに書かれている。


 転移前の記憶は、彼が話した通り西暦20XX年まで…
 そして、この世界にやってきたのは…詳しい時点は不明だが、まだ神代のころのようだ。

 この世界にやってきてから…言葉も分からず相当な苦労をしたみたいだ。
 だが、幸運にも親切な人に拾われて、どうにか言葉も覚えて…
 何とか生活にも慣れてくると、前世の知識を活かして人々に様々な助言をするようになる。
 そして、いつしか彼は『賢者』と呼ばれ、人々の尊敬を集めるまでに至ったのだ。



 う~ん……『彼』は『俺』なんだろうか?
 ここまで読んだ段階では確証に至るほどの記載は無い。
 いや、名前と容姿と日本からの転移者という事からして、同一人物としか思えないのだけど……じゃあ私の中の『俺』は一体何なのか?という話になってくる。

 大体、右も左も分からない異世界に飛ばされて、果たして『俺』は『彼』のように生きていけたのか?
 『俺』の場合は、ベースに『私』があったから、殆ど違和感なかったけど…それが無かったら、と思うと想像を絶するものがある。










 結構夢中になって読んでいたら、もうかなり遅い時間になっていた。

「もう遅いわよ、カティア。そろそろ終わりにしたら?」

 ちょうど母様にもそう言われてしまった。

「はい、ちょうどキリがよかったので今日はもう終わりにします。え~と…ミーティアは…」

「もう寝ちゃったわよ。ママが集中してるから、邪魔しないように大人しくして…良い子よねぇ…」

 どうやら母様がお風呂に入れてくれたり寝かしつけたり、面倒を見てくれたらしい。

「ごめんなさい、母様にまかせちゃって…」

「ふふふ、良いのよ。私もミーティアちゃんの面倒を見れて癒やされるもの。…ユリウスはクラーナをちゃんと見ててくれるかしら」

「父様なら大丈夫じゃないですか?クラーナにデレデレだから、喜んで面倒を見てくれるのでは?」

「甘やかしすぎないか心配ってことよ」

「ああ……まぁ、クラーナはしっかりしてるし、心配ないですよ。お付きの人たちもいるし」

「そうね…」

 母様は父様にシビアなとこあるよね。
 いや、凄く仲は良いのだけど、尻に敷いてると言うか。


「ともかく、今日はもう遅いわ。お風呂でさっぱりして、もう寝なさい」

「はい、そうします」


 そうして今日一日を終えるのだった。























 そして翌朝。

 私達は迎賓館を出発し、父さんたちとも合流。
 この街に入ってきたのとは反対側…レーヴェラントに通じる東門へと向かう。


「さあ、アスティカントの街を出て橋を渡れば…もうレーヴェラントよ」

「いよいよカイトの故郷かぁ…」

 ここからあと数日の行程。
 もうすぐカイトと再会できると思うと……とても待ち遠しい。




 一行が東門までやってくると、騎士の格好をした一団が待ち構えていた。
 そして彼らの代表らしき人物が私達の馬車の前までやって来る。


「予定通りね。レーヴェラントの護衛騎士よ」

 そう言って母様は馬車を降りて彼を迎える。



「お初にお目にかかります、イスパル王国王妃殿下、王女殿下ご一行様でいらっしゃいますね。私はレーヴェラント騎士団所属のライセンと申します。この度の護衛隊の隊長を務めさせて頂いております」

「お出迎え頂きありがとうございます。これからの行程、よろしくおねがいしますわね」

「ハッ!皆様の安全は、我らが身命を賭してお護りいたします!」

 ザッ!と隊長に合わせて隊員が敬礼する。
 一糸乱れぬその様子を見ると、なかなかの練度のようだ。
 他国の王族を護衛するのだから、精鋭なんだろうけど…グラナが国境付近で怪しい動きを見せている時に、こっちに回してもらうのは何だか悪い気がした。

 というようなことを母様に言うと。

「それは仕方ないわね。精鋭と言っても大部隊ではないのだからそこまで気にする必要は無いわ。もちろん、そういう感謝の気持ちを忘れないのは良いことだとおもうけど。…いざとなれば、私達イスパルからも派兵することもあるかも知れないのだから、持ちつ持たれつ、よ」

「そう…ですね。……賢者様の予言が現実にならなければ良いのですが」




 私は、想い人に再会できる期待と、戦乱の予感に対する不安とが複雑に絡み合い、何とも言えない気持ちでレーヴェラントの地を踏むのであった。

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