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第六幕 転生歌姫の王都デビュー

第六幕 24 『忍び寄る影』

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「ん…?」

「どうしたの?」

 オズマさんが何かに気がついたような声をあげ、ケイトリンが何事かと確認する。

「いや…後ろから気配を感じたんだが…気のせいか?」

「…う~ん?私は何も感じなかったけど…カティア様は?」

「私も何も…でも、気になるね」

 気配に敏感なケイトリンと、そこそこ分かる私…その二人がともに気付かなかったのが逆に気になる。
 それに、オズマさんとて高ランク冒険者だ。
 ただの気のせいと片付けるのは気持ちが悪い。

「…少し様子を見てくる」

「一人では危険ですよ。私も…」

「いや、少し確認するだけだ。すぐ戻るから待っててくれ」

 そう言ってオズマさんは来た道を戻っていった。


「…あまり単独行動はしない方が良いと思うんだけど」

「…カティア様、ちょっといいですか?」

「ん?なに?」

「実は…」

 そう言ってケイトリンは私に耳打ちして来て…













「あいつ、遅いですね?」

「そうだね…心配だから私達も戻ろうか?」

「あ、だったら私ちょっと見てきますよ」

 そう言ってケイトリンも来た道を戻っていってしまった…

「もう…ケイトリンまで…単独行動は危険だよ…」

「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも大丈夫かな?」

 ミーティアが心配そうに呟く。




「すまん、遅くなった。…ケイトリンはどうした?」

 ケイトリンと入れ替わりでオズマさんが戻ってきた。
 すれ違わなかったのかな…?

「さっき、オズマさんを探しに行きましたけど…すれ違いませんでした?」

「いや…分岐のところで入れ違いになったのかもしれないな。少し待っとくか」

「そうですね。これ以上単独行動しても危険ですし」

 そうして私達はその場で待つことにしたのだが…


 ふと、私がオズマさんに背中を向けた、その時!


 ガキィンッ!!


 坑道に鋭い金属音が鳴り響いた!


「今、な~にをしようとしたのかなぁ?オズマくん?」

「ケイトリン!?…なぜ?」

 音がした方を振り返ると、オズマさんと…いつの間にか戻ったケイトリンが切り結んでいるところだった。
 そして、ばっ!とお互いに距離を取って対峙する。

「一昨日会った時から違和感を持ってたのよ。昨日一日かけて調査しても確信とまでは行かなかったけど…どうやら正解だったみたいね!」

「え~と…どういう事?」

 どうやらオズマさんが私を狙って攻撃しようとしたところをケイトリンが阻止した…と言う事らしいが。
 ケイトリンが探しに行く前に、オズマさんが戻ってきたらわざと隙を作ってくれって頼まれたのでそのようにしたら…今の状況と言う訳だ。

 だけど、なんでオズマさんは私を狙ったのか…?

「何で分かったんだ?…一昨日から、と言っていたが…おかしな行動は取っていなかったと思うんだが」

「あんた、カティア様のことはAランク冒険者として知ってるみたいな事言ってたけど…だったら何で私が護衛してたり『カティア様』って呼ぶのに何の疑問も持ってないの?私だったら気になって聞くけどね」

 …確かに、それはそうかもしれない。
 一介の冒険者に過ぎないはずの私を騎士が要人の如く護衛していたら普通は疑問に思うだろう。
 まだ私は王女として周知されてる訳ではないし、ましてや元騎士というなら尚更だ。

「あと、この依頼自体も違和感があったのよ。モーリス商会が大量の鉄を確保しようとしているのは確かだけど…ここ以外にも鉄鉱山は押さえているはずだし、高い依頼料を出してまで指名依頼…それも一週間以内なんて短期間で解決しようとする理由が無い」

 それはレティとも話していたことだ。

 でも、そんな些細な違和感から私への襲撃を予測するなんて…自称じゃなくて本当に優秀なんだね。
 いや、リッフェル領の件から実力は疑ってなかったけど、普段の言動がね…

「だからね。カティア様に対して良からぬことが計画されているんじゃないかって…ずっと警戒していたのよ。でも、確証はなかったからね。だから、アンタが一時離脱したのを見た時ついに動くのかと思って…ひと芝居打ったってわけ」

 う~ん、キリッとしてて格好いいわぁ~。
 いつもこうだと良いのに…

「お前がいた時点で嫌な予感はしていたんだが…やっぱりな。さすがは騎士団きっての『食わせ者トリックスター』ってとこか」

 二つ名?二つ名なの?
 ケイトリン…あなたも仲間なのね!

「そう!なんせ私は優秀だからね!」


「…そうだな。だが…護衛が護衛対象から離れるのは感心しないぞ!!」

 そう言うやいなや、オズマさんはケイトリンではなく私に向かって切りかかってきた!!

 ヒュンッ!

 キィンッ!!

 しかし、私は咄嗟に彼の剣を弾いて首筋にヒタと刃を当てる。
 私が弾いた彼の剣はくるくると回転しながら地面に突き刺さった。

「…そりゃあ~、私よりカティア様の方が強いからね。本来なら護衛なんて必要ないのよ」

「…どうやらそのようだ。ここまでか…王族に刃を向けた者はどのみち死罪だ。ひと思いにやってくれ」

 オズマさんはむしろ憑き物が落ちた様なスッキリした調子で言う。
 …やっぱりおかしい。
 さっきの攻撃も本気ではない…と言うか迷いが見られた。
 最初の奇襲もそうだ。
 ケイトリンが防いでくれなくても、多分躱すことが出来たと思う。

 私はそれなりに人を見る目はある方だと思ってるんだけど…こんなような事をするような人にはやっぱり見えない。
 そう思っていると、ミーティアが剣を持った私の手に自分の手を添えて…

「ママ…お兄ちゃん、悪い人じゃないよ…」

 ああ…やっぱりそうだよね。
 ミーティアも分かっているんだ。
 この子を優しそうな笑顔で撫でていた…それが本来のオズマさんなんだと思う。
 きっと、何らかの事情があるはずだ。

「…そうだね。ママもそう思うよ」

 そう、ミーティアに答えて剣を下げた。
 オズマさんは驚愕で目を見開くが、もう攻撃の意思はすっかり無くなっているようだ。

「私もそう思いますね~。騎士団が堅苦しくて辞めたなんて言う割に、コイツは私なんかよりよっぽど真面目なやつでしたからねぇ。とても自分の意思とは思えませんよ」

 ケイトリンもそう同調する。
 ふふ…そういうところ、お固いだけの騎士様と違って融通が効くよね。
 それが彼女の魅力の一つで憎めないところだ。

「…お人好しすぎなんじゃないか?あんた、殺されそうになったんだぞ?」

「私は何の被害にもあってませんから。それに、私は人を疑うよりは信じたいと思ってます。ケイトリンだって最初はあなたのこと怪しいとは思っても、今はこうして信じてくれてるでしょう?」

「まあ、元同僚のよしみってやつですよ。八方丸く収まるならそれが一番でしょ?だから…洗いざらいゲロっちゃいなさいよ。昨日色々探って気になったんだけど…あんたの妹、ここ最近の行方が分からなかったんだよね」

「!!…そうか、それも俺を疑っていた理由の一つか」

 …そこまで聞けば私にも読めてくる。
 つまり、オズマさんは肉親を盾に脅されている、と。

「そこまで分かってんなら予想はつくだろ?妹を盾に脅されて…カティア王女、あんたの暗殺を指示されたんだ」

「私の…暗殺?」

「理由は分からねえ。黒幕も。詮索すれば妹の命はない、って言われたもんでな。俺はただ指示に従って動くことしかできなかった」

「…モーリス商会の方も当たったんですけどね、依頼を出した担当者はもう辞めていたんです。それも今回の件が怪しいと思った理由の一つ」

 今日凄く眠そうにしてると思ったら…昨日一日だけでそこまで調べてくれたんだね。
 ケイトリンには感謝しないと。



 しかし、これからどうしようか?
 オズマさんを罰するつもりは全くない。
 いや、彼は私の事情に巻き込まれた被害者であるとも言えるし、むしろ申し訳ないとすら思ってる。


 憎むべきは卑劣にも人質をとって自分は手も汚さずに、高みで見ているであろう黒幕だ。

 絶対に許さない……今に見ていろ!
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