2 / 2
あい・らいく・妄想
しおりを挟む
私は、妄想が好きだ。
妄想の世界でなら、私はどんな世界にでも行ける。どんな自分にもなれる。どんなことだってできる。
飽き飽きしてうんざりするような日々に、ささやかな彩りを混ぜられる。
妄想反対派も世の中にはいるのかもしれないけれど、そんなこと全く気にならない。
そもそも、誰だって理想の自分や理想の生活を思い描いたりするのだから、妄想しない人間なんていないだろう。
今日は、3人の人と、1匹の猫を助けた。
一人は、運悪く崩れてきた建物の残骸に足を踏まれていた。
私はすぐにテコを使ってガレキをずらし、その人を救い出した。
踏まれていた足が折れてしまっていたから、近くに落ちていたものを使って応急処置をした。それでも、とても歩けそうになかったので、すぐに人を呼びに走った。
私は2人の大人を呼んで、担架を持って駆けていった彼らと一緒にあの人の元に戻らなかったけれど、あとでちゃんとした手当を受けていたのを見かけた。
2人は、小さな女の子と男の子だった。
2人で遊んでいるうちにうっかり足を滑らせたらしい男の子が、崖下に落ちてしまっていた。
幸い、崖は私の身長より少し高いくらいだったから、男の子にはひどいケガはなかった。
わんわんと泣きじゃくる女の子をなんとか宥めて、私は男の子の方へ飛び降りた。ほんの少しだけ足が痺れたけれど、何の問題もなく着地することができた。
崖のすぐ後ろは鬱蒼とした森で、覆う闇がこちらに手を伸ばしてきそうでおそろしかった。けれど、この崖から安全に這い上がるためには少しばかり資材が必要だったから、それを探すために暗闇に踏み込んだ。
森の中は昼間だと言うのに暗く、視界はひどく悪かった。おまけに、あたり一面にコケやツタが這いまわっていて、不気味だった。
倒れた木がいくつかあったけれど、とても動かせそうにないので、代わりに丈夫そうな枝を少し拝借した。……返すことはできないけれど。
木に巻きついていたツタも、十分な強度があったので、持っていたやや大振りのナイフで枝を取るついでに切り取った。
集めた資材を抱えて帰る途中、小さな猫に出会った。
随分と弱っているようで、短い呼吸を繰り返しながらうずくまっていたが、私が近づくと毛を逆立てて威嚇してきた。
それでも放っておけなかったから、ゆっくりと近づいて抱き上げると、猫は小さな体をこれでもかと暴れさせて抵抗した。けれど、その動きもどこか弱々しく、見ていると悲しい気持ちになった。
やけに伸びた爪で何度か引っ掻かれ、しまいには手に噛みつかれてしまった。それでもやっぱり噛む力は弱く、あまり痛くなかった。しかし、噛み付いた状態から動かなくなってしまったので、仕方なくそのまま資材と一緒に運ぶことにした。
森から出ると、男の子が女の子に向かって必死に話しかけていた。大丈夫だから。泣かないで。と。
なかなか泣き止んでくれない女の子に困り果てている様子の男の子には悪いけれど、微笑ましい光景だった。
集めた資材を使って足場を作ろうとしたが、猫がいつまでも手から離れてくれないので、男の子に手伝ってもらった。
少し時間はかかってしまったけれど、私も安全に乗れる足場を作ることができた。持ち上げて運ぶには重たかったので、男の子と一緒に崖下まで押して運び、それに登って崖を上がった。
男の子は登りきるとすぐに女の子を抱きしめた。女の子はやっぱり泣いていたが、今度はどこか嬉しそうだった。なんとも可愛らしい光景だった。
私は足場を倒してから、2人と一緒に帰った。猫は相変わらず手にくっついたままだった。
そのあとは特に何もなく、日が暮れた。
空には、ひどく綺麗な星空が広がっている。
私は、猫に引っ掻かれたキズと噛み跡を手当てされている。お説教付きで。
キズをつけた犯人はといえば、あたたかい寝床と十分な食事にありつけた安心感からか、実に心地良さそうに寝息を立てている。目立った外傷はなかったので、しっかりと食事を与えて安静にさせれば、すぐに回復するとのことだった。
キズの手当と長い長いお説教の後で、私は床につく。
今日はあまりお腹が空いていなかったので、夕食は他の人に譲った。
目を閉じて、意識が沈んでいくまでの間が、私にとって1日の中で一番楽しみな時間だ。
私は、瞼の裏に、明るい世界を描く。
人が住む建物が並んで立っていて、そこに住む人たちと挨拶を交わす。
たまたま会った友達と「おはよう」なんて笑い合いながら、おしゃべりをしつつ学校に行ったりする。
空はいつだって綺麗な青色で、可愛らしい鳥たちが楽しそうに歌声を響かせる。
なんでもない、平凡で、当たり前な日常。
今はもう死んでしまったおじいちゃんやおばあちゃん達から聞いた、見たこともないそんな世界を妄想して、私は眠りにつく。
そうしないと、恐ろしい世界で、悪夢にとりころされてしまいそうになるから。
妄想の世界でなら、私はどんな世界にでも行ける。どんな自分にもなれる。どんなことだってできる。
飽き飽きしてうんざりするような日々に、ささやかな彩りを混ぜられる。
妄想反対派も世の中にはいるのかもしれないけれど、そんなこと全く気にならない。
そもそも、誰だって理想の自分や理想の生活を思い描いたりするのだから、妄想しない人間なんていないだろう。
今日は、3人の人と、1匹の猫を助けた。
一人は、運悪く崩れてきた建物の残骸に足を踏まれていた。
私はすぐにテコを使ってガレキをずらし、その人を救い出した。
踏まれていた足が折れてしまっていたから、近くに落ちていたものを使って応急処置をした。それでも、とても歩けそうになかったので、すぐに人を呼びに走った。
私は2人の大人を呼んで、担架を持って駆けていった彼らと一緒にあの人の元に戻らなかったけれど、あとでちゃんとした手当を受けていたのを見かけた。
2人は、小さな女の子と男の子だった。
2人で遊んでいるうちにうっかり足を滑らせたらしい男の子が、崖下に落ちてしまっていた。
幸い、崖は私の身長より少し高いくらいだったから、男の子にはひどいケガはなかった。
わんわんと泣きじゃくる女の子をなんとか宥めて、私は男の子の方へ飛び降りた。ほんの少しだけ足が痺れたけれど、何の問題もなく着地することができた。
崖のすぐ後ろは鬱蒼とした森で、覆う闇がこちらに手を伸ばしてきそうでおそろしかった。けれど、この崖から安全に這い上がるためには少しばかり資材が必要だったから、それを探すために暗闇に踏み込んだ。
森の中は昼間だと言うのに暗く、視界はひどく悪かった。おまけに、あたり一面にコケやツタが這いまわっていて、不気味だった。
倒れた木がいくつかあったけれど、とても動かせそうにないので、代わりに丈夫そうな枝を少し拝借した。……返すことはできないけれど。
木に巻きついていたツタも、十分な強度があったので、持っていたやや大振りのナイフで枝を取るついでに切り取った。
集めた資材を抱えて帰る途中、小さな猫に出会った。
随分と弱っているようで、短い呼吸を繰り返しながらうずくまっていたが、私が近づくと毛を逆立てて威嚇してきた。
それでも放っておけなかったから、ゆっくりと近づいて抱き上げると、猫は小さな体をこれでもかと暴れさせて抵抗した。けれど、その動きもどこか弱々しく、見ていると悲しい気持ちになった。
やけに伸びた爪で何度か引っ掻かれ、しまいには手に噛みつかれてしまった。それでもやっぱり噛む力は弱く、あまり痛くなかった。しかし、噛み付いた状態から動かなくなってしまったので、仕方なくそのまま資材と一緒に運ぶことにした。
森から出ると、男の子が女の子に向かって必死に話しかけていた。大丈夫だから。泣かないで。と。
なかなか泣き止んでくれない女の子に困り果てている様子の男の子には悪いけれど、微笑ましい光景だった。
集めた資材を使って足場を作ろうとしたが、猫がいつまでも手から離れてくれないので、男の子に手伝ってもらった。
少し時間はかかってしまったけれど、私も安全に乗れる足場を作ることができた。持ち上げて運ぶには重たかったので、男の子と一緒に崖下まで押して運び、それに登って崖を上がった。
男の子は登りきるとすぐに女の子を抱きしめた。女の子はやっぱり泣いていたが、今度はどこか嬉しそうだった。なんとも可愛らしい光景だった。
私は足場を倒してから、2人と一緒に帰った。猫は相変わらず手にくっついたままだった。
そのあとは特に何もなく、日が暮れた。
空には、ひどく綺麗な星空が広がっている。
私は、猫に引っ掻かれたキズと噛み跡を手当てされている。お説教付きで。
キズをつけた犯人はといえば、あたたかい寝床と十分な食事にありつけた安心感からか、実に心地良さそうに寝息を立てている。目立った外傷はなかったので、しっかりと食事を与えて安静にさせれば、すぐに回復するとのことだった。
キズの手当と長い長いお説教の後で、私は床につく。
今日はあまりお腹が空いていなかったので、夕食は他の人に譲った。
目を閉じて、意識が沈んでいくまでの間が、私にとって1日の中で一番楽しみな時間だ。
私は、瞼の裏に、明るい世界を描く。
人が住む建物が並んで立っていて、そこに住む人たちと挨拶を交わす。
たまたま会った友達と「おはよう」なんて笑い合いながら、おしゃべりをしつつ学校に行ったりする。
空はいつだって綺麗な青色で、可愛らしい鳥たちが楽しそうに歌声を響かせる。
なんでもない、平凡で、当たり前な日常。
今はもう死んでしまったおじいちゃんやおばあちゃん達から聞いた、見たこともないそんな世界を妄想して、私は眠りにつく。
そうしないと、恐ろしい世界で、悪夢にとりころされてしまいそうになるから。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
赤ちゃんの作り方講座(赤ちゃんはどこからくるの?)
大和田大和
ミステリー
皆さんは、まだいたいけな女子中学生に、
『どうやったら赤ちゃんができるの?』
と、聞かれたらなんと答えますか?
もちろん答えないわけにはいきませんよね? 根掘り葉掘り、具体的に詳細に教えてあげる必要がございます。
どこに何をどうすれば赤ちゃんができるか包み隠さず言うしかありません。何なら画像を見せあげるのもいい方法かもしれません。
決してセクハラなんかじゃありませんよ? まごうことなき教育です。
さて、この小説は、人狼不参加型の人狼ゲーム。
人狼ゲームなのに人狼はいません。なのになんでか人が次々と死んでいきます。
なら赤ちゃんをたくさん作って、減った人口を復元しなければいけませんよね? ね? ね?
もしこの文章を読んでいる人の中に、『赤ちゃんの作りかた』を知っている人がいたらこの小説は、決して読まないでください!(約束ですよ!)
どのようにして赤ちゃんを作ったか事細かに、詳細に説明する講座です。
赤ちゃんの作り方がわかるなら即ブラバ推奨です!
残念ながらあなたの見たいものは見れないということになりますからね!
この小説はあなたの期待を裏切ります。
では、下にある第一話『いつまでもおっぱいに挟まれていたいと、考えたことはありますか?』はクリックしないように気をつけてブラバしてください! くれぐれも安易な気持ちで本小説を読まないように!
(警告しましたからね!)
時計の歪み
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽は、推理小説を愛する天才少年。裕福な家庭に育ち、一人暮らしをしている彼の生活は、静かで穏やかだった。しかし、ある日、彼の家の近くにある古びた屋敷で奇妙な事件が発生する。屋敷の中に存在する不思議な時計は、過去の出来事を再現する力を持っているが、それは真実を歪めるものであった。
事件を追いかける葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共にその真相を解明しようとするが、次第に彼らは恐怖の渦に巻き込まれていく。霊の囁きや過去の悲劇が、彼らの心を蝕む中、葉羽は自らの推理力を駆使して真実に迫る。しかし、彼が見つけた真実は、彼自身の記憶と心の奥深くに隠された恐怖だった。
果たして葉羽は、歪んだ時間の中で真実を見つけ出すことができるのか?そして、彼と彩由美の関係はどのように変わっていくのか?ホラーと推理が交錯する物語が、今始まる。
母からの電話
naomikoryo
ミステリー
東京の静かな夜、30歳の男性ヒロシは、突然亡き母からの電話を受け取る。
母は数年前に他界したはずなのに、その声ははっきりとスマートフォンから聞こえてきた。
最初は信じられないヒロシだが、母の声が語る言葉には深い意味があり、彼は次第にその真実に引き寄せられていく。
母が命を懸けて守ろうとしていた秘密、そしてヒロシが知らなかった母の仕事。
それを追い求める中で、彼は恐ろしい陰謀と向き合わなければならない。
彼の未来を決定づける「最後の電話」に込められた母の思いとは一体何なのか?
真実と向き合うため、ヒロシはどんな犠牲を払う覚悟を決めるのか。
最後の母の電話と、選択の連続が織り成すサスペンスフルな物語。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
永遠の鍵
佐野川ゆず
ミステリー
いつものように家の鍵を開けると…そこには知らない世界が広がっていました…。
私はごく普通の高校1年生、桐谷瑞希。
霊感もなければ、これといって何も特技も無し。
勉強も出来る方ではないけれど、足だけは速い…と思う。
でも…こんな変な世界に私はなぜ居るのーーー??!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる