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いつものようにお庭で花を見ていると、庭師の方がやってきて、サーラに「ハリー様が至急来るように」と伝言を伝えに来た。
サーラが「ミュラお嬢様もご一緒にお戻りになりますか?」と言ってくれたのに、私は「もう少しだけ花を見てから部屋に戻るわ」と言ってしまった。

サーラが屋敷の中へ見えなくなった所に、先日お話したポールさんが声をかけてくれた。
『一人で庭に出ない』という約束だと思っていた私は、庭師のポールさんが一緒にいてくれれば、もう少し花を見ていても構わないだろうと思ってしまったのがいけなかったのかもしれない。


「花が好きなんですね。ミュラお嬢様は日中他に何をなさってるんですか?」

『日中他に何をしてるか』と聞かれた時、何もしていない事にすごく恥ずかしくなってしまった。ポールさんを含め、屋敷には10代で働いている方が沢山いる。
お兄様達も私と同じ6歳の頃にはお勉強やお茶会等に出席していた。
私だけ何もせずゴロゴロと過ごしている。それを初めて人に指摘されたような気がした。

「えぇと…。本を読んだりとか…。」
誤魔化すように言ってみたけれど、読んでいる本だって童話や図鑑など趣味の物で、勉強といえる様なものではない。

「お嬢様はこの屋敷から出た事は?」
「ずっと屋敷の中に居るんですか?」

そう聞かれ、ポールさんはやはり私の事をおかしいと気づいているんだと思った。
ロレイル公爵家の令嬢として、礼儀作法を身につけてからでないと人前に出られない。私はまだ人前に出せるような子ではないのだ…。
他の兄達は優秀なのに、何故お前は遊んでいるのか…ポールさんがそう思ってしまうのも仕方ない。

「何かしたいと思いませんか?この状況を変えたいと思ったり…。ロレイル公爵家の令嬢として…」

そんな事、もうずっと思ってる。
ロレイル公爵家の令嬢として恥ずかしくないように、しっかりしなくちゃって!思ってるけど…どうしたらいいの?
パパとママに家庭教師をつけてって頼むのが正解なの?それとも自分で調べて学んでいるの?
過去の人生では『言われた事をする』のが正解だった。逆を言えば、言われた事以外をしないのが正解で、自発的に何かしたら叱られた。
だから今回もそうしていたのだけれど…やっぱりこのままではいけないみたい。

私が言葉に詰まってしまった所に、ロイお兄様が来てくれた。
私が俯いてしまっていたからいじめられていると勘違いしてしまったんだろう。

「ロイお兄様っ!な…何でもないわ!ポールさんとはただお話していただけなの。」

ポールさんは私にこのままじゃいけないって指摘してくれただけ。私のせいでポールさんが怒られてしまうのは申し訳ない。
「ごめんなさい」そう告げれば、ポールさんは優しく微笑み返してくれたけれど…。


…ロイお兄様を怒らせてしまった。
庭にはサーラ・・・と一緒でなければいけないという意味だったんだろうか…。
そんな事も守れない私に、ロイお兄様は失望してしまったのかな…。
お勉強も、マナーも、社交も、何一つできない。こんな私に呆れてしまったのかな…。

私のせいでサーラとポールさんが怒られてしまったらどうしよう…。
みんなに迷惑ばかりかけてしまう…。


手首の手当てが終わりサーラが居なくなった部屋で、私は一人泣く事しか出来なかった。
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