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「ミュー、入ってもいい?」

夕方、カイ兄様がお部屋に来てくれた。
13歳になったカイ兄様は今でも毎朝おはようの挨拶に来てくれる。ただ、日中は王宮へ行きアレス王子と一緒に勉強をしているようで、以前より一緒にいる時間が減ってしまった。
だから早く帰ってきた日は、こうして会いに来てくれるのが嬉しい。

「カイ兄様、お帰りなさい。」
ぎゅうっと抱きつけば、頬にキスをしてもらい、私もチュッと頬に唇をつける。

「ここに来る前にロイに会ったよ。父上との話が長引いているみたいで、今日は部屋に行けそうもない、ごめんねって伝言だよ。」

「そう…。わかったわ。カイ兄様ありがとうございます。」

顔に出さないようにしたつもりが視線が下がってしまった様で、カイ兄様はお姫様抱っこで私をソファーまで連れて行ってくれる。
そのままカイ兄様のお膝の上に座らされる。

カイ兄様はとても優しい。小さい頃から無条件で甘えさせてくれるから、私もつい甘えてしまう。

「ミュー、どうしたの?ロイが来れないのがそんなに残念だった?」

「…うんん、違うの。」

「じゃあどうしたの?甘えん坊のミューは可愛いけど、元気が無いのは心配だな。」

カイ兄様はこめかみにキスをしながら、私が話しやすい様にゆっくり優しく話しかけてくれる。

「私だけ……。」

「ん?ミューだけ??」

「私だけ、何もしてない…から…。ロレイル公爵家の令嬢として…ダメなんじゃ無いかって…。」
話すつもりが無かったのに言葉が溢れてしまい、不安から涙が目に溜まる。

「誰かに何か言われた?」
カイ兄様が真剣な顔で私の瞳をとらえる。

声を出せば涙が溢れてしまう。
ゆっくり首を振るけど…。
私の頭の中は、なぜ言ってしまったんだろうという後悔が渦巻いていた。こんな風に泣いたりしたら面倒な妹だって思われてしまう…。

「じゃあ、なんで泣いてるの?ミューこっち見て。誰がミューを泣かせたの?」

「ちがっ…」
ぶんぶん首を振るが、涙は止まらないし、こみ上げてくる思いに喉がキュッと閉まって、上手く説明ができない。

カイ兄様は私を抱え直し向き合うように膝に
座らせ、両手で頬を覆うから、視線がそらせなくなってしまう。

「ミュー。聞いて?ミューが何もしてないなんて思わないし、ダメなんて思わないよ。周りに何か言う奴が居たら、俺がミューの憂いを排除してあげる。ミューは俺の一番大事な女の子なんだから。ね、泣かないで。」

「でも…。私、約束もちゃんと守れなくて…ロイお兄様を失望させてしまって…。私が何も出来ない子だから…。」

話してしまえば溢れる気持ちは止まらなくて…自分の意思とは関係なく涙が次から次へとカイ兄様の指を濡らしていく。

「大丈夫。ロイも俺も、この屋敷の者全員
…誰もそんな風に思ってないよ。」

カイ兄様は抱き締めて、背中を優しく撫でてくれる。今日は沢山泣いていたからか、私はそのまま眠ってしまった。
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