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61.~庭師ポールside~

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ロレイル公爵家のミュラお嬢様の事は平民街でも話題になっていた。
情報元は大抵が公爵家をクビになった使用人で、その誰もがミュラお嬢様の美貌と性格の良さを熱く語っていた。
中には絵心に長けたものが姿を描きおこし、皆がその美しさの虜になっていった。

誇り高きロレイル公爵の人々から溺愛され、その姿を隠された姫として、ミュラお嬢様は皆の想像を掻き立てるのには充分なネタだったのだ。


ある日ロレイル公爵家で庭師を募集していると聞き付けて、僕はすぐに志願を決めた。

ロレイル公爵家の採用基準は他の屋敷より高く厳しいが、志願する者は多く、その殆んどがミュラお嬢様への下心を奥底に抱えた者ばかりだった。

そんな中で僕が採用されたのは、15歳という年齢、妹が2人いること、所謂ロリコン等の特殊な性癖が無い事、そして面接時には「ミュラお嬢様の事は何もしらない。ただ花が好きで普段は花屋でバイトしている」と話した事が決め手だったと思う。

実際『ミュラお嬢様を知らない』という部分以外は本当の事だから許して欲しい。
それに、会ってみたいなというミーハーな気持ちはあったものの、恋心とかそういう気持ちはなかったのだから。

そう、実際にお会いするまでは……


薔薇の咲き誇る庭園でミュラお嬢様を見つけたのは偶然だった。
庭師長から肥料を取りに行くよう頼まれて、たまたま通りかかった時の事だった。
真っ赤な薔薇に囲まれて、プラチナシルバーの髪がキラキラと日の光を浴びて、袖から見える腕は白く、後ろ姿だけで彼女がミュラお嬢様だとすぐに気がついた。

顔を見てみたいと思い声をかけたら、思いの外緊張していて声が上ずってしまう。

振り返ったミュラお嬢様は、街でみた絵姿なんて比でないくらいの美しさで、6歳の少女とは思えない形容しがたい色気があった。
大きなブルーの瞳は宝石のようで、唇は朝露のしたたる薔薇のようにツヤツヤとしていた。

妹と同じ6歳の女の子なんて、恋愛対象ではないと思っていたけれど…
ミュラお嬢様から目が離せなかった。
もっと話がしたいと思ったが、侍女に邪魔されてしまった。


庭師長からの頼まれ事をこなすふりをして、そっとガゼボを覗き見れば、ミュラお嬢様は兄の一人とお茶をしていた。

ロレイル公爵家の次男、ロイは街でも見かけた事があった。騎士団の練習に参加していて、12歳ながらスラリと引き締まった身体に整った容姿で、街の娘達からも人気がある。
普段見かける姿はクールで笑顔を見せない印象があったが…
ミュラお嬢様に向ける笑顔は甘く、側に侍女が控えているのにも関わらず恋心を隠す素振りもなかった。

木陰に隠れながらの為ミュラお嬢様の顔は見えないのが残念だが、可愛らしい声を聞いているだけで幸せな気持ちになった。

しばらくすると、ミュラお嬢様が少し困惑しているような声が聞こえた。

「やっ…ふふふ、ロイお兄様くすぐったい。」

「ひゃぁ…そこで喋らないでぇ。もぉ、ふふ…降参だからっ…。」

な…何をしているんだ?!
葉っぱの影から覗けば、ミュラお嬢様の手を押さえつけキスをしているロイの姿が見え、カッと頭に血が上る。

アイツ、実の妹に何てことを!
ミュラお嬢様は優しいから強く拒否できないだけで、本当はとても嫌がっているんじゃないか?
だっておかしいだろ、6年間も屋敷に閉じ込められて…身体も思考も囲うように、思いのままにされているんじゃないのか?

なんとかミュラお嬢様を救い出さなければ!
このが、必ずミュラお嬢様を助けてあげるからな!!

思わず手に力が入りガサガサ葉音を立ててしまい、急いでその場を立ち去った。
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