上 下
98 / 104

第九幕~青年は未来を誓った5

しおりを挟む








「―――アグオン将軍、一つ聞いても良いでしょうか…?」

 その言葉にトラストは何も答えなかったが、構わずにルイスは続けて尋ねた。

「先ほどの質問に答えて貰えませんか…貴方がたは一体何を隠しているのですか?」

 それは先刻聞きそびれた質問だった。
 今回の事態について、イグバーンとトラストは何度か洩らしていた不可解な言動。
 そして、それらを一つに繋げる謎の言葉。

「予言とは…何ですか?」

 トラストは暫く沈黙したまま、杖をつき歩き続けていた。
 こんな事態に陥っているのに、尚も頑なに口を閉ざすその様子に、それほどの重大性があるのかと察するルイス。
 と、トラストは静かに足を止めた。

「確かに…お主には話しておくべきか」

 覚悟を決めたようにそう言って、彼はようやくその重い口を開く。

「隣町までの道のりはまだ少しばかりある。それまでの道中ではあるが聞いてくれんかの…」

 そう言うとトラストは再び歩き出すが、その足並みは先ほどよりもややゆっくりとなったように見える。
 合わせるように、ルイスの足もまた自然と遅くなる。

「落日の予言…そして、それにより犯してしまた我らの大罪について…」

 予想以上の重大性を示唆した言葉。
 ルイスはおもむろに眉を顰め、無意識に指先に力が入る。
 と、その手で持っていた包み紙がくしゃりと音を立て、隙間から何かがぽとりと地面に落ちた。

「―――…花?」

 落としてしまったそれを拾ったルイス。
 それは薄桃色の一輪の生花だった。
 ミラ―スと似た髪の色をした、美しい大輪の花。

「確かそれは…ティイジェの花だったかの。どんな環境下でもたくましく咲く気高い花故に、旅人を見守る花とも言われておる…」

 恐らく、アークレがお守り代わりにと添えてくれたのだろう。
 そんなことを思いながら、ルイスは懐かしいその花を静かに眺めた。

「…この花ってそんな名前だったんですね…初めて教えて貰いましたよ」

 そう言うとルイスは苦笑を洩らし、おもむろにハンカチを取り出す。
 それでその花を丁寧に挟むと、彼は大事そうに懐へとしまった。





 彼方まで草原が続く路の中。
 その空の遥か遠くでは、一羽の鳥がその翼を広げ、更に向こうへと飛び去っていった。
 鈍色から解き放たれた茜色の彼方―――蒼穹の空へ。
 まるで落ちていくように、鳥は飛んでいく。

 





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

Crystal of Latir

ファンタジー
西暦2011年、大都市晃京に無数の悪魔が現れ 人々は混迷に覆われてしまう。 夜間の内に23区周辺は封鎖。 都内在住の高校生、神来杜聖夜は奇襲を受ける寸前 3人の同級生に助けられ、原因とされる結晶 アンジェラスクリスタルを各地で回収するよう依頼。 街を解放するために協力を頼まれた。 だが、脅威は外だけでなく、内からによる事象も顕在。 人々は人知を超えた異質なる価値に魅入られ、 呼びかけられる何処の塊に囚われてゆく。 太陽と月の交わりが訪れる暦までに。 今作品は2019年9月より執筆開始したものです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

ロウの人 〜 What you see 〜

ムラサキ
ファンタジー
主人公 ベリア・ハイヒブルックは祖父と2人だけでゴーストタウンと成り果てたハイヒブルック市に住む。 大地震や巨大生物の出現により変わり果てた世界。 水面下で蠢く事実。 悲観的な少女、ベリアはあらゆる人々と出会いながら、どう生きていくのか。 幸せとは何か。不幸とは何か。 立ち向かうとは何か。現実逃避とは何か。 荒廃した世界を舞台に少女の成長を描く物語。 『西暦5028年。絶滅しかけた人類は生き残り、文明を再び築き上げることができていた。そして、再び己らの罪を認識する時がくる。』 毎夜20時に更新。(その都度変更があります。) ※この作品は序盤の話となっています。

お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
ある時、瀕死の状態で助けられた青年は、自分にまつわる記憶の一切を失っていた… やがて、青年は自分を助けてくれたどこか理由ありの女性と旅に出る事に… 行く先々で出会う様々な人々や奇妙な出来事… 波瀾に満ちた長編ファンタジーです。 ※表紙画は水無月秋穂様に描いていただきました。

処理中です...